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沖縄県における麻疹アウトブレイク―検査対応と得られた知見

(IASR Vol. 40 p54-55: 2019年4月号)

2018年3月, 沖縄県では2014年以来4年ぶりに麻疹患者が発生し, 大規模なアウトブレイクとなった。本事例における検査対応と検査結果から得られた知見について報告する。

検査対応

2018年3月20日に4年ぶりの麻疹患者が発生して以降, 6月11日の終息までの期間に検体搬入のあった578症例に対して, PCR検査を実施した。当日午前10時までに搬入のあった検体を, 当日検査分として実施した。検体数の増加に対応するため, 4月17日より自動核酸抽出機2台の併用を開始した。また, PCR検査はconventional RT-PCR(cRT-PCR)法により実施していたが, 4月24日からはreal-time RT-PCR(rRT-PCR)法に切り替えた。5月1日以降, ワクチン株と野生株の鑑別のためのシークエンスは, 緊急要請を除いては週に1回の実施とした。

検査方法は, 国立感染症研究所の病原体検出マニュアル(第3.4版)に準拠し実施した。血液検体は全血よりウイルス遺伝子を抽出し, PCR検査に用いた。なお, 4月24日以前のcRT-PCR陽性例についても, 事例解析のために追ってrRT-PCRによる検査を実施した。

検査結果

当所に搬入された麻疹疑い578症例についてPCR検査を実施し, 109例が陽性であった。そのうち麻疹確定例は95例であり, 残り14例はワクチン株によるものであった。また, 麻疹確定95例のうち, 主に二次感染例やリンク不明例から16例について遺伝子型別を実施したところ, すべて遺伝子型D8であり, 解析したN遺伝子の一部450塩基の配列は100%一致した。

麻疹患者95例の検体はすべて, 発症から7日以内に採取された。それらのrRT-PCR陽性率は, 咽頭ぬぐい液が93%と最も高く, 次いで尿が78%, 血液と血清がそれぞれ67%の順であった。

麻疹患者95例のワクチン接種歴とウイルス遺伝子量との関連性を, threshold cycle(Ct値)を基に比較した。ワクチン接種歴有りの患者の各検体のCt値は, 咽頭ぬぐい液が21.51~38.45(n=29, 中央値30.23), 血液が32.94~38.65(n=14, 中央値35.07), 尿が21.71~37.59(n=17, 中央値32.88)で, ワクチン接種歴無しの患者の各検体のCt値は, 咽頭拭い液が17.97~34.10(n=19, 中央値24.68), 血液が25.40~38.00(n=19, 中央値29.78), 尿が19.89~39.60(n=16, 中央値27.33)であった。ワクチン接種歴有りおよび接種歴無しの患者の検体ごとのCt値の2群間比較は, Mann-Whitney U検定を用いた。その結果, ワクチン接種歴有りの患者の各検体のCt値は, 接種歴無しの患者の各検体のCt値より有意に高い傾向を示した(p<0.01)。なお, 血清は母数が少ないため解析から除外した。

まとめ

今回のアウトブレイク期間中, 病原体検出マニュアルに準拠し, PCR検査には咽頭ぬぐい液, 血液, 尿の3種類を検査対象とした。578症例中, 441症例(76%)において3種類の検体が採取された。大規模アウトブレイクにより疑い症例数が増加した場合, 限られた人員での公衆衛生対応を効率化するためにも, 今回の結果から得られた検体別の陽性率を考慮し, 検査対象検体を絞ることについて検討できる可能性が示唆された。

麻疹患者95例のrRT-PCRにより得られたCt値の比較結果からは, ワクチン接種歴有りの患者は, ワクチン接種歴無しの患者より検体中のウイルス遺伝子量が少ない傾向が認められた。本事例における積極的疫学調査の結果からは, ワクチン接種歴の有る患者からの二次感染例は限定的であることが示されており(本号5ページ参照), 今回の検査結果は, それを支持するものであった。本事例では, ワクチン接種歴無しおよび接種歴不明の患者が全体の66%と大半を占めていることからも, 自己の感染予防に加え感染源とならないようワクチン接種が重要である。

今回得られた知見を, アウトブレイク時の接触者調査においてその対象を絞る, あるいは優先順位を付けるなどスムーズな公衆衛生対応に繋げることができるよう, 検査情報と疫学情報とを組み合わせて今後より詳細に解析する必要がある。

謝辞:今回の麻疹アウトブレイク対応にご尽力いただいた県内各保健所や各医療機関をはじめとする多くの関係者の皆様, またご助言をいただいた国立感染症研究所感染症疫学センターの砂川富正先生, 駒瀬勝啓先生, 神谷 元先生に深謝いたします。

 

沖縄県衛生環境研究所
 衛生生物班 
  久場由真仁 喜屋武向子 大山み乃り 宮平勝人 柿田徹也
  髙良武俊 糸数清正
 感染症情報センター 伊波善之 山内美幸

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