2018年4~6月にかけて発生した麻疹アウトブレイク事例について―福岡県
(IASR Vol. 40 p57-58: 2019年4月号)
2018年に福岡県内で発生した医療機関の接触者を中心とした麻疹のアウトブレイクでは, 4月27日~6月4日までに19例の患者が確認された。6月6日の最終接触者の発生後4週間の観察期間を経て, 新たな患者発生がなかったことから, 7月4日に終息宣言が出された。本稿では今回の事例で得られた知見について報告する。
1.発生状況
初発患者(No.1)は海外渡航歴および流行地への訪問歴はなかった。初発患者から医療機関で7例(No.2, 3, 4, 8, 10, 12, 13)への一次感染が確認された。さらに1例(No.2)から1例(No.15)への二次感染が確認された。初発例からの疫学リンクが不明な症例は10例あった(図)。
患者の性別は男性13例, 女性6例, 年齢は0歳~40代(中央値20代), 予防接種歴は無し4例, 1回4例, 2回6例, 不明5例であった(表)。
2.検 査
対象および方法:4月27日~6月4日までに発生した麻疹の症例および健康観察者のうち発熱などの症状を呈した症例151症例について, 福岡市保健環境研究所および福岡県保健環境研究所にて, 麻疹ウイルスの遺伝子検査を実施した。遺伝子検査は, 国立感染症研究所の病原体検出マニュアル1)に従い実施した。
結果:遺伝子検査の結果, 151例中21例(うち3例はワクチン由来株)を陽性と判定した。1例(No.14)はIgM陽性をもって届出された。遺伝子型はD8が10例, ワクチン由来株Aが3例, 型別不明が8例であった。福岡県で検出された遺伝子型D8の塩基配列はすべて同一であり, 国立感染症研究所の解析の結果, 2018年3月から沖縄県で流行していた株とは異なっていた。
3.統計解析
血液(末梢血単核細胞:PBMC)検体におけるリアルタイムPCRのthreshold cycle(Ct値)と予防接種回数を比較した。Kruskal-Wallis検定により予防接種歴無し群, 接種1回群, 接種2回群および不明群のCt値を検定した結果, 群間で有意な差がみられた(p<0.05)。予防接種歴無し群および不明群ではウイルス量が多く, 接種回数が多いほどウイルス量が少ない傾向がみられた。
4.考 察
近年, 予防接種率の向上により, 比較的軽症で非典型的な経過をたどる修飾麻疹を含むアウトブレイク事例が報告されている2-4)。今回の事例でも患者の約半数に予防接種歴があり, 修飾麻疹と考えられる症例が多かった。症例間リンクを解析した結果, 2回予防接種歴のある症例からは二次感染がみられなかった。遺伝子検査結果からも2回予防接種歴の患者はウイルス量が少ない傾向にあり, 二次感染を起こすリスクは低いと考えられた。
以上により, 2回予防接種歴のある修飾麻疹の症例は, 感染リスクが低く感染源とはなりにくいため, 対策は典型麻疹症例を優先的に行う必要があると考えられた。一方で, 2回予防接種歴のある症例は潜伏期間が14日を超え長くなることがあったため, 健康観察は21日まで行う必要があることが示唆された。
麻疹ウイルスの拡大を防止し排除状態を維持するためには, 2回の予防接種が重要である。今後も予防接種や定期接種のさらなる啓発が必要であると考えられた。
謝辞:本事例に関しご協力いただいた医療機関, 行政および関係施設等の皆様に深謝いたします。
参考文献
- 病原体検出マニュアル, 麻疹(第3.4版)平成29年4月
- 村山隆太郎ら, IASR 38: 51-52, 2017
- 植島一宗ら, IASR 39: 52-53, 2018
- 駒林賢一ら, IASR 39: 59-60, 2018