国立感染症研究所

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聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院における職員等への麻疹対策

(IASR Vol. 40 p65-66: 2019年4月号)

はじめに

近年, 病院等において患者から医療者への麻疹感染が問題となっている。麻疹, 風疹等のワクチンで予防可能な感染症に第一線で対応する医師, 看護師等は, 自らが感染しないため, また患者等に感染を広げないために, さらには医療の提供という社会にとって重要な病院の機能を維持するためにも, 事前に, 適切に予防接種を受けることが重要である。

当院では以前から職員の予防接種に力を入れてきた。現在は日本環境感染学会ワクチンガイドライン(第2版)1)に準じ, 麻疹, 風疹, 水痘, 流行性耳下腺炎の抗体検査およびワクチン接種を行っている。麻疹, 風疹に関しては2019年2月末現在, 医師, 看護師, 事務職等の職員(パートを含む)の全員が, また委託職員(事務職, 清掃員, コンビニの店員等)では95%以上がガイドラインに準じたワクチン接種を完了している。

本稿では当院における予防接種推進の取り組みについて述べる。

当院の状況

当院は, 横浜市の西部に位置する, 聖マリアンナ医科大学(以下聖マリ医大)の分院である。病床数518床で, 三次救急に対応している地域医療支援病院である。初期および後期研修病院でもあり研修医を受け入れている。職員の数は医師150名, 看護職516名, その他の医療職164名, 事務職108名である(2019年2月1日現在)。また, 検体検査, 清掃, 給食などは外注しており, 委託業者は10社, 委託職員数は合計394名である。職員は, 聖マリ医大と当院を含む3分院との間をローテーションする。特に医師は, 2カ月~数年の間隔でローテーションをしている。

職員(パート職員を含む)に対する対応

当院では健康管理部が全職員のワクチン接種状況を一括して管理している。2010~2015年は国立感染症研究所の協力を得て新入職員の抗体検査を行い, 抗体保有状況を把握した。また2016年に西部病院においてのみ全職員の抗体検査を大学負担で行うことが決定され, 全職員の抗体価の記録, および母子手帳等による予防接種の記録を把握した。健康管理部は抗体検査の結果, 予防接種が必要と判断した職員に対し個別に案内を送付し接種を促している。妊娠中等の理由で接種を希望しない場合は, 理由書の提出を求め, 産休明けで復職する際に接種を促す等のキメの細かい対応を行っている。全職員が完了となるまでに約1年程度かかったが, その後は, 新入職者および復職者, 大学からの派遣や転勤職員について, 随時抗体価および予防接種歴の確認(記録の保管)を行い, 必要に応じ速やかに予防接種を行うようにしている。当初は, 一部の職員から「必要と思わない」など理解が得られないこともあったが, 病院長からの協力, 指導を得たこと, パンフレット等を用いた情報提供や啓発等の地道な活動によりワクチンの重要性が徐々に院内に認識されてきたように思われた。また, 2016年4月より予防接種の職員価格を原価の60%としたこともワクチン接種を後押ししたと思われる。現在では異動で入ってきた職員から, 「今まで接種が必要だと言われなかったので教えもらってよかった」という声も聞かれる。2019年2月末日現在, 全職員が麻疹風疹(MR)ワクチンの2回接種(記録を含む)を終了している。

委託職員への対応

委託職員への対応は難航した。委託職員, 委託業者がワクチン接種に消極的だった理由は, 「委託業者の雇入れ主の理解が得られない」, 「予防接種費用が高価である」, 「患者と接する機会が少ない」, 「契約内容に入っていない」, 「他の病院では求められない」等であった。また委託業者ごとに認識が異なることも対応を困難にした。健康管理部は業者, ならびに職員個人に粘り強く接種を依頼した。たびたびの麻疹・風疹の流行が世間の話題となったことも追い風となり, 活動を始めて3年目頃から徐々に理解され始めた。現在では約95%の委託職員が抗体検査とガイドラインに沿ったワクチン接種を受けている。当院の場合, 委託職員の予防接種料金は職員価格でなく一般料金である。業者が予防接種費用の負担に同意した場合は比較的スムーズに接種が進んだ。職員が自己負担する場合には当院より接種費用の安い医院等での接種を薦めたがワクチン不足により希望時に接種できないこともあった。委託職員の予防接種費用は今後も検討課題である。

おわりに

当院ではパートを含むすべての職員で2回(記録を含む)のMRワクチン接種を終了している。これは病院長の理解と後押しを得て, 健康管理部が一括して全職員の抗体保有状況, ワクチン接種状況を把握し, 要接種者には強くワクチン接種を押し進めたこと, また根気強く予防接種の重要性の周知に努めたこと, さらに接種費用を原価の60%に減額したことによると思われる。今後は委託職員の接種を促進するために, 委託契約の中に予防接種の項目を盛り込むこと, 予防接種費用を低減させる方法等も検討していきたい。

 

参考文献
  1. 一般社団法人日本環境感染学会, 医療関係者のためのワクチンガイドライン第2版
    http://www.kankyokansen.org/modules/publication/index.php?content_id=17

 

聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院
 健康管理部
  保健師 田中広子 富永知世
  看護師 内山千修
 呼吸器内科院内感染管理者 駒瀬裕子

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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