SFTSに対するファビピラビル治療効果を調べるための医師主導型臨床研究
(IASR Vol. 40 p121-121:2019年7月号)
重症熱性血小板減少症候群(SFTS)は, ブニヤウイルス科フレボウイルス属に分類される新規ウイルス, SFTSウイルス(SFTSV)によるウイルス性出血熱である。2011年に中国の研究者らにより発見された感染症で1), 日本では2012年秋に原因不明発熱性疾患で死亡した患者がSFTSであったことが確認された2)。現在SFTSは中国, 韓国, 日本で流行していることが確認されている。中国, 韓国, 日本において報告されているSFTSの致命率には違いがあるもののいずれも高く, 日本で実施されている疫学調査によると25%を超える3)(本号3ページ)。国内で初めてのSFTS患者が確認されてから約6年半が経過するが, これまで西日本を中心に400人を超える患者が報告されている。最近, ネコやイヌがSFTSVに感染するとSFTSに特異的な症状を呈し, 死亡することが多いことが明らかになり, さらにこれらの伴侶動物からSFTSVに感染し, SFTSを発症する飼い主や獣医療関係者の存在も明らかになっている4,5)。抗ウイルス薬による特異的な治療法・予防法開発が急務である。
ファビピラビルがSFTSVの増殖をin vitroにおいて抑制し, またインターフェロンα受容体ノックマウスを使用したSFTSV感染モデルを用いたin vivo研究においてもSFTSV感染症に対する治療効果が認められることを発表した6)。
これらの成績に基づいて, 国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)から医療研究開発推進事業費補助金(新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業)「重症熱性血小板減少症候群 (SFTS)に対する診断・治療・予防法の開発及びヒトへの感染リスクの解明等に関する研究(研究代表者西條政幸)」(以下, AMED-SFTS研究班)への研究支援を得て, 研究分担者安川正貴(愛媛大学医学部)が中心となって, ファビピラビルのSFTS患者に対する有効性と安全性に関する研究が実施された7,8)。
本医師主導型臨床研究には2016年4~12月および2017年9月~2018年7月までにSFTSと確定診断された患者, またはSFTSV感染症が強く疑われる患者26名(男性15名, 女性11名, 年齢49~89歳)が登録された。3名は治療開始翌日にSFTSV遺伝子陰性が確認され, 解析から除外された。SFTSと診断確定された23名のうち19名が比較的速やかに臨床症状および検査値の改善を認め生存した。19名が回復し, 28日生存率は82.6%であった。生存例では治療開始1週間で血小板数の回復および血中SFTSV遺伝子量の低下が認められた。有害事象としての既報の高尿酸血症および肝機能障害が多く認められたが, ファビピラビルによる重篤な有害事象は認められなかった。
AMED-SFTS研究班による疫学研究では日本のSFTSの致命率は27~31%である3)(本号3ページ)。本医師主導型臨床研究は無作為対照試験ではないので, ファビピラビルの治療効果を科学的に証明できていないが, 疫学研究で得られたSFTSの致命率に比較して, 治療群では致命率が低いこと, 動物モデルで高い有効性が示されていることから, ファビピラビルによる治療はSFTS患者の予後を改善させると考えられる。伴侶動物からSFTSVに感染してSFTSを発症し死亡する事例が報告されていることから, 治療だけでなく感染リスクのある患者がファビピラビル治療にアクセスできる環境を整備することが期待される。
参考文献
- Yu XJ, et al., N Engl J Med 364: 1523-1532, 2011
- Takahashi T, et al., J Infect Dis 209(6): 816-827, 2014
- Kato H, et al., PLoS One 11(10): e0165207, 2016
- 鶴 政俊ら, ネコ咬傷により重症熱性血小板減少症候群(SFTS)を発症したと考えられる1例, 第92回日本感染症学会, 岡山, 2018年5月
- 西條政幸ら, 飼い犬から重症熱性血小板減少症候群(SFTSウイルスに感染し, SFTSを発症した患者例, 第92回日本感染症学会, 岡山, 2018年5月
- Tani H, et al., mSphere 1: pii: e00061-15, 2016
- 重症熱性血小板減少症候群に対するファビピラビルの有効性と安全性の検討?多施設臨床試験の報告?, 第92回日本感染症学会, 岡山, 2018年5月
- 末盛浩一郎ら, 重症熱性血小板減少症候群に対するファビピラビルの有効性と安全性の検討-多施設臨床試験の報告(続報), 第93回日本感染症学会, 名古屋, 2018年4月