logo

大阪府で発生した国内31例目の乳児ボツリヌス症例

(IASR Vol. 33 p. 100-101: 2012年4月号)

 

2011年10月に大阪府堺市で1986年以降に確認された国内第31例目となる乳児ボツリヌス症例が発生したので、その概要を報告する。

症例:6カ月・男児
家族歴:神経・筋疾患なし
主訴:活気・哺乳不良
現病歴:10月28日(第1病日)より排便がなかった。11月2日(第6病日)より哺乳不良。翌日より痰が絡み、啼泣も弱く活気不良となった。11月4日(第8病日)哺乳不可能となったため当科を紹介され同日入院となった。嘔吐は認めず。

身体所見:肺音 整・雑音なし、心音 整・雑音なし、咽頭 発赤・腫脹なし、腹部 平坦・軟、顔色やや不良、皮膚脱水所見なし、大泉門膨隆なし

神経学的所見:全身の筋緊張低下 定頸なし 眼瞼下垂あり、深部腱反射:四肢にて消失、病的反射:なし、対光反射 左右差ないが、両側で緩慢

血液検査所見:血算、生化学一般に異常認めず、抗Ach受容体抗体:陰性
尿所見:糖(-)、蛋白(±)、潜血(-)、ケトン体(3+)
髄液所見:正常(水様透明、細胞数3/3 、多核球0、単核球3、蛋白定量 15 mg/dl 、糖定量 70mg/dl)
頭部MRI:皮髄境界明瞭 皮質形成異常なし、心・腹部エコー:異常なし、脳波:正常睡眠脳波
テンシロンテスト:弱陽性
麻痺筋に対する反復刺激試験:3 Hz/min刺激でwaningを確認

ボツリヌス毒素およびボツリヌス菌の検査:血清(第11、第21病日に採取)と便(第21、第22病日に採取)を、マウス試験および逆受身ラテックス凝集(RPLA)試験によるボツリヌス毒素検出検査に供した。血清からはいずれの試験でもボツリヌス毒素は検出されなかったが、便2検体からマウス試験によりA型ボツリヌス毒素が検出された。RPLA試験で便中毒素が検出されなかったため、第22病日の便検体の毒素量をマウス試験で推定したところ、約80 MLD/gと微量の毒素が検出された。卵黄加GAM寒天培地を用いた便検体の直接塗抹培養ではボツリヌス菌は分離されなかったものの、ブドウ糖・デンプン加クックドミート培地を用いた便検体の増菌培養後の培養上清からRPLA試験とマウス試験の両方でA型ボツリヌス毒素が検出された。培養沈渣から抽出したDNAサンプルにおけるPCR法ではA型毒素遺伝子とB型毒素遺伝子が検出されたことから、培養液中にはA型毒素を産生するがB型毒素遺伝子がサイレント遺伝子のためにB型毒素を産生しないA(B)型ボツリヌス菌の存在が推定された。A(B)型菌は増菌培養液を卵黄加GAM 寒天培地に画線塗抹後、30℃2日間嫌気培養して分離した。なお、第34病日の便検体からは、ボツリヌス菌および毒素は検出されなかった。

入院後経過:第8病日の入院後、さらに全身の脱力が進行し、啼泣も弱くなった。テンシロンテスト・反復刺激試験の結果より重症筋無力症が疑われ、ステロイドパルス療法開始した。第12病日午前8時に痰が絡み呼吸停止、心拍数も低下した。その後、吸引により呼吸再開も厳重な全身管理が必要と判断しICUに入室となった。その後呼吸状態改善し、室内空気でもSpO2 100%が保てるようになった。経鼻チューブ挿入しミルク少量より経管栄養開始。第16病日時点で1日ミルク900mlまで増量、筋力も上昇しており発声もわずかながらではあるが認められるまで改善傾向であった。しかし第17病日朝、再び痰を詰まらせて呼吸停止、徐脈となった。再びICU入室となり、気管内挿管し呼吸管理施行した。ステロイドパルス療法を2クール、コリンエステラーゼ阻害剤投与も施行したが症状の改善は認められなかったため鑑別疾患としてボツリヌス症が疑われた。第28病日に便中ボツリヌス毒素が陽性と判明、以後対症療法で経過観察した。徐々に筋力は回復し、第39病日抜管、第82病日退院となった。

患児は発症1カ月前より離乳食を開始されていた。ハチミツの摂取はなかったが、母親は患児の症状出現約1週間前より毎朝蜂の巣付きハチミツを喫食していた。当該ハチミツ80gを検査に供したがボツリヌス菌芽胞は検出されず、本症例の感染源は特定できなかった。

大阪労災病院小児科 吉川聡介
大阪府立公衆衛生研究所 河合高生 久米田裕子

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan