尖形コンジローム(Condyloma acuminatum)は、ヒトパピローマウイルス6、11型などが原因となるウイルス性性感染症で、生殖器とその周辺に発症する。淡紅色ないし褐色の病 変で特徴的な形 態を示し、視診による診断が可能である。自然治癒が多い良性病変であるが、パピローマウイルスの型によっては悪性化にも注意しながら経過観察することが必 要となる。
※感染症法の改正(2003年11月5日施行)に伴い、同法で「尖形コンジローム」とされていた疾患名は「尖圭コンジローマ」に変更されています。(2013年6月11日追記)
疫 学
性交またはその類似行為によって感染する疾患で、世界中に分布している。患者の大部分は性活動の活発な年代にみられるが、稀に両親や医療従事者の手指を 介して幼児に感染し、発症することがある。また、分娩時の垂直感染により、乳児が喉頭乳頭腫を発症する可能性も示唆されている。我が国では年間10 万人あたり30 人程度の発症がみられているが、1999 年4 月以降、他 の性感染症と同様増加傾向を示している。また、徐々に女性の占める割合が高くなってきている(IDWR 、発生動向総覧、2002 年4 月コメント参照)。
図1. パピローマウイルス粒子 |
図2. 女性外陰部のコンジローム |
病原体
パピローマウイルス(図1)は 小型のDNA ウイルスで、約8,000 塩基対の2 本鎖環状DNA が正二十面体のキャプシドに包まれた構造をしている。エンヴェロープはない。ウイルスが増殖できる培養細胞系がないため、患者から分離されたウイルスは、 ゲノムDNA の塩基配列の相同性に基づいて90 以上の型に分類されている。型によって感染部位と病理像が異なる。皮膚に感染する型では、1、2、4 型などが良性の疣、5、8、47 型などが皮膚癌の原因となり、粘膜に感染する型には、尖形コンジロームを引き起こす6 、11 型(低リスク型)や子宮頚癌の原因となる16 、18 、31 型など(高リスク型)がある。尖形コンジロームから1 、2 型や16 、18 型が分離されることもあるので、感染しているウイルスの型を知ることが、予後の推定に重要となる。
ウイルスは表皮基底層細胞に感染する。感染細胞では、ウイルスの非構造蛋白質であるE6 およびE7 蛋白質が細胞のp53 とpRb 蛋白質の機能を阻害し、細胞のDNA 合成系を活性化してウイルスDNA の複製に利用する。DNA 合成を行う細胞は分裂・増殖し、一方ではp53 を介したアポトーシスも阻害されるため感染細胞の異常な増殖が起こり、病変が形成されると考えられている。
臨床症状
一般に自覚症状に乏しいが、外陰部腫瘤の触知、違和感、帯下の増量、掻痒感、疼痛が初発症状となることが多い。表面が刺々しく角化した隆起性病変が特徴(図2)で、 淡紅色〜褐色の乳頭状、鶏冠状、あるいはカリフラワー状と表現される。好発部位は、男性では陰茎の亀頭部、冠状溝、包皮内外板、陰嚢で、女性では膣、膣前 庭、大小陰唇、子宮口、また男女とも、肛門及び周辺部、尿道口である。子宮頸部、膣に発症した場合は、外陰の病変同様の疣状を呈することもあるが、 flat condyloma と呼ばれる扁平な病変を形成することが多い。20〜30%は3 カ月以内に自然消退する。
診 断
典型的な尖形コンジロームは乳頭状、鶏冠状の特徴的な形態を持つため、視診で十分診断がつくことが多い。病巣範囲を確定するには、子宮頸部や膣、外陰部 を酢酸溶液で処理した後、コルポスコピーで観察する。形態的に類似した悪性病変もあるため、確定診断は組織学的に行う。
組織学的特徴は軽度の過角化、舌状の表皮肥厚、上皮細胞の乳頭状増殖で、表皮突起部位の顆粒層に濃縮した核と細胞質が空胞化した像 (koilocytosis)がみられる。ヒトパピローマウイルスのDNA は容易に検出できる。病変部のホルマリン固定検体や生検試料、膣の擦過細胞から抽出したDNA を鋳型に、PCR によってウイルスDNA の一部を増幅し、そのDNA断片中に分布する複数の制限酵素切断点を調べることで、HPV DNA の有無及び型を判定できる。臨床試験会社で請け負っており、1〜3週間で成績が得られる。多くは6、11型の感染によるもので、悪性化することはないが、 高リスク型が検出された場合は経過観察に注意を要する。
治療・予防
外科的治療には、切除、CO2 レーザー蒸散法、電気メスによる焼灼(しょうしゃく)法や液体窒素による凍結法がある。CO2 レーザー蒸散法は、治療による周辺組織の損傷が少ないこと、高い治療効果が速やかに得られることから最も優れている。薬物療法としては5-フルオロウラシ ル軟膏、ブレオマイシン軟膏などを塗布する方法がある。外国では、10 〜25%ポドフィリンアルコール溶液の塗布が行われているが、我が国では市販されていない。細胞診で陰性になった場合に治癒とする。通常、ヒトパピローマ ウイルスの感染から尖形コンジロームの発症には数週間から3カ月程度かかるといわれているので、治療終了後も最低3 カ月は厳重な経過観察をして、再発の早期発見に努めることが必要である。本人が治癒しても、パートナーがHPV を保持しているかぎり再感染の可能性があるので、パートナーも必ず専門医を受診し、症状があれば治療をすることが重要である。また、垂直感染を予防するた めに、妊婦で発症した場合には分娩までに治療を終了するべきである。
ヒトパピローマウイルスは皮膚や粘膜の微小な傷から侵入、感染する。従って、感染予防にはコンドームの使用が効果的であるが、外陰部にアトピー性皮膚炎、接触性皮膚炎などがある場合 は特に感染しやすいので注意を要する。
ウシパピローマウイルス感染がワクチンで予防できることから、ヒトパピローマウイルスに対する感染予防ワクチンは、高リスク型の中で最も高頻度で検出さ れる16 型を中心に開発が進められており、米国で第1 相試験が行われている。ワクチンによって感染防御抗体をヒトに誘導できることが明らかになると同時に、感染中和抗体が高い型特異性を示すことがわかり、多 数の型の感染を予防するワクチンの開発が課題となっている。
感染症法における取り扱い(2012年7月更新)
「尖圭コンジローマ」は定点報告対象(5類感染症)であり、指定届出機関(全国約1,000カ所の泌尿器科、産婦人科等の性感染症定点医療機関)は月毎に保健所に届け出なければならない。
届出基準はこちら
(国立感染症研究所遺伝子解析室 神田忠仁)