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医療関連感染を疑ったNDM-5メタロ-β-ラクタマーゼ産生大腸菌を保菌していた2症例-富山県

(IASR Vol. 41 p86: 2020年5月号)

2019年4月と8月に, 入院期間や病棟など接点がない入院患者から, それぞれNDM-5メタロ-β-ラクタマーゼ(MBL)産生大腸菌が分離された。当初, 医療関連感染を疑い, 病原体の細菌学的な関連性を調査したので報告する。

4月の患者は, バングラデシュに長期出張歴があり, 多発性脳梗塞治療のため入院中の50代の男性であった(症例A)。海外渡航歴があることから, 喀痰, 尿, 便および血液の細菌検査を実施したところ, 喀痰, 尿および便から, カルバペネム耐性大腸菌が検出された。そこで, 分離された大腸菌の薬剤耐性に関する細菌学的な検査をしたところ, 尿および喀痰由来のカルバペネム耐性大腸菌は, NDM型MBL産生大腸菌であり, 便由来大腸菌は, OXA-48型カルバペネマーゼ産生大腸菌であった。塩基配列解析の結果から, それぞれNDM-51)およびOXA-1812)であることが判明した。その他のβ-ラクタマーゼ遺伝子の保有状況をPCRで調べたところ, TEM型, CTX-M-1型およびCIT型遺伝子が検出され, その保有状況は表に示した。ERIC-PCRによるタイピング解析の結果, 尿および喀痰由来の大腸菌は類似したパターンを示し, 同一由来であることが示唆されたが, 便由来の大腸菌とは異なっていた。

一方, 8月の患者は, 海外渡航歴のない70代の男性で, 20年前に脊髄損傷により自宅療養しながら, 神経因性膀胱のため通院中であった(症例B)。8月に腸閉塞のため入院となり, 尿検査の結果, カルバペネム耐性大腸菌が検出された。そこで, カルバペネマーゼ遺伝子のPCRと塩基配列解析を実施したところ, NDM-5 MBL産生大腸菌であることが判明した。症例Aの患者との接点はなかったため医療関連感染の可能性を疑い, 喀痰および便検査ならびに患者周辺の環境調査を実施した。その結果, 喀痰および便からはNDM-5 MBL産生大腸菌が検出されたが, 周辺環境から大腸菌は検出されなかった。症例Bの患者尿, 喀痰および便から分離された大腸菌のERIC-PCRの結果は同一であった。NDM-5 MBL遺伝子以外のβ-ラクタマーゼ遺伝子の検索も行い, TEM型, CTX-M-9型, CIT型遺伝子が検出されたが, 分離株により異なっていた()。また, ERIC-PCRの結果から, 症例Aで分離されたNDM-5 MBL産生大腸菌と同一ではなく, この2つの大腸菌の関連はないものと思われた。後に実施したMultilocus sequence typing3)の結果で, 2つの菌株のSTは異なっており, ERIC-PCRの結果を支持するものであった。

NDM-5 MBL産生大腸菌については, 2016年の国内感染例の報告以来, 国内における潜在的な拡散の可能性が指摘されていた4)。症例Aの患者は海外渡航歴があるため海外からの持込み症例と推定される。症例Bの患者は明らかに国内感染例である。東南および中東アジアとの経済活動は活発であり, 人的な交流も盛んなことから, 今回の2つの症例は, 薬剤耐性菌の持ち込みの常態化とこれらの株が潜在的に国内で拡散している可能性を示唆するものと思われた。

 

参考文献
  1. Nordomann P, et al., Antimicrob Agents Chemother 56: 2184-2186, 2012
  2. Poirel L, et al., Antimicrob Agents Chemother 48: 15-22, 2004
  3. Wirth T, et al., Mol Microbiol 60: 1136-1151, 2006
  4. 鈴木里和ら, IASR 37: 82-84, 2016
 
 
富山県衛生研究所              
 綿引正則 内田 薫 木全恵子 金谷潤一 磯部順子 大石和徳
独立行政法人労働者健康安全機構 富山労災病院
 高本恭子 佐々木一成 高橋慎太郎 得田和彦
富山県新川厚生センター
 押田尚宏

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