Q2-01で述べたように、2008年の麻疹の報告数は11,015例であったものが2009年は741例(以上暫定値)と大幅に減少しました。では、このままで日本国内での麻疹患者数は減少し、2012年の排除の目標は達成されるのでしょうか?
残念ながら現状のままでは困難です。その理由としては、まず麻疹含有ワクチン(麻疹単抗原ワクチンあるいはMRワクチン)の接種率が、2008年度の集計結果で目標の95%に達成していません。特に第3期、第4期の接種率は十分ではなく、麻疹に対する感受性者※が積み残されたままとなっています。接種率の高い地域も存在していますが、全国的にみると2008年度第3期は85.1%、同第4期は77.3%と、第4期では80%を下回っています(感染症情報センターホームページ:https://idsc.niid.go.jp/disease/measles/pdf02/20090812-01.pdf)。特に東京都、神奈川県、大阪府等の大都市圏でのワクチン接種率は低いままであり、現在は麻疹の患者発生数が減少していても、このまま接種率が上がらなければ、感受性者が蓄積し、再び数年後に患者数が増加する可能性は否定できません。
また、地域において麻疹の患者数が減って、明らかな流行が確認されなくなってくると、散発的に発生する麻疹の診断は、その後の対策に直結するため、大変重要になります。正しい診断のもとに感染拡大防止対策を実施するためにも、検査診断の役割が極めて重要ですが(厚生労働省ホームページ「麻しんに関する特定感染症予防指針」:http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou21/dl/071218a.pdf)、日本国内では臨床診断の割合が約4割と高く、また検査診断の殆どが麻疹特異的IgM抗体のみによる検査診断であるため、麻疹ウイルスの直接の証明による検査診断が求められています(感染症情報センターホームページIASR「麻疹」:https://idsc.niid.go.jp/iasr/31/360/tpc360-j.html)。また、現状のままでは、今後日本国内で麻疹が排除されたかどうかを確認することが困難となることが予想されます。検査診断の徹底と、迅速な対策が重要です。
以上より、「2012年度までに麻疹を国内から排除し、その状態を維持する」という我が国の目標は、現状のままでは達成が困難であり、数年後に麻疹の流行が再燃してしまう可能性が否定できません。2012年度に排除の目標を達成するためには、2回の予防接種率をそれぞれ95%以上にし、また国内の麻疹の検査診断システムを確立・活用していく等の対策が必要であると思われます。
麻疹の検査診断に関しては、国立感染症研究所と全国の地方衛生研究所において、RT-PCR法、リアルタイムPCR法等の麻疹ウイルス遺伝子の直接検出に関わる検査診断法を統一し、ネットワークを組んで対応しています。
各医療機関においては、
- 麻疹と臨床診断した場合、
- 麻疹特異的IgM抗体陽性により麻疹と検査診断した場合、
- 麻疹特異的IgM抗体陽性により修飾麻疹と診断した場合は、
管轄の保健所を通じて、地方衛生研究所に、(1)血液(EDTA血あるいはクエン酸血)、(2)尿、(3)咽頭ぬぐい液(ウイルス搬送用培地セットは、全国の保健所にお送りしていますのでご活用ください)のうち2点以上(できれば3点セット)を採取し、保健所を通じて地方衛生研究所にご依頼下さい。地方衛生研究所で実施困難な場合は、国立感染症研究所で対応いたしますので、お問い合わせください。
※麻疹ウイルス感受性者:麻疹ウイルスに対する免疫がないかもしくは不十分であり、麻疹ウイルスに感染した場合に発症(発熱や発疹などの症状が現れること)する者
|