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短期間に仙台市内で集積した腸管出血性大腸菌O157 VT2の発生状況および分子疫学解析結果について

(IASR Vol.42 p24-26: 2021年1月号)

 

 2019年11~12月, 国内で腸管出血性大腸菌(EHEC)O157 VT2株による感染症事例が広域発生した。仙台市においても同一タイプEHECによる症例の発生届が複数の医療機関から提出されたことから, 発生状況と分離株の分子疫学解析の結果について報告する。なお, 食品からのEHEC O157分離法について, 事例1の食品では平成26(2014)年11月20日付け食安監発1120第1号の方法に準じて行ったが分離できなかった。そこで, 国立医薬品食品衛生研究所工藤先生からの助言をいただき, 事例2の食品については25℃, 3時間の蘇生培養を実施し, その後, 増菌培養に供した。この結果, EHEC O157 VT2が分離された(表1)。増菌培地はmECおよびnovobiocin加mECの2種類を用い, 増菌温度も36℃ないし42℃の2温度帯について実施した。しかし, 培地の種類, 増菌温度の違いによるEHEC分離に有意な差は認められなかった。一方, 選択分離培地については, DHL, ソルビトールマッコンキー寒天培地(SMac), セフィキシム-アテルル酸カリウム添加ソルビトールマッコンキー寒天培地(CT-SMac), クロモアガーSTEC, クロモアガーO157の5種類を用いたが, CT-SMacからのみEHEC O157が分離できた。

事例1

 2019年11月に市内の医療機関から, O157 VT2を原因とするEHEC感染症の発生届が提出された(患者①)。接触者調査を行ったところ, 1名に腹痛, 下痢等の症状があり, EHEC O157 VT2が分離された(患者②)。11月初旬に当該患者2名が利用した飲食店Aにおいて, 喫食したメニューの参考食品(冷凍原料)を11月27日に検査したが, EHEC O157 VT2は分離できなかった(表1)。

事例2

 2019年12月, 市内の複数医療機関から, 2グループ3名のO157 VT2を原因とするEHEC感染症の発生届が提出された(患者③, ④, ⑤)。患者③と患者④, ⑤は別グループであったが, どちらも12月上旬に飲食店Bを利用していた。12月21日, 患者③, ④が喫食したメニューからその参考食品(冷凍原料)を検査したところ, EHEC O157 VT2が分離された(前ページ表1)。なお, 患者⑤については, 患者④と飲食店Bを利用したが, 当該食品の喫食はなく, 患者④の接触者調査にてEHEC O157 VT2が分離された。

分子疫学解析

 上記2事例で発生した患者5名から分離されたEHEC O157 VT2, 5株と事例2の食品検体から分離されたEHEC O157 VT2, 11株について, 分子疫学解析を実施した。

 ①Multiple-locus variable-number tandem-repeat analysis(MLVA法)

 Izumiyaら(2010年)1)に記載の遺伝子座17 locusについてMLVA法を実施した。事例1, 2で分離した株のうち, 菌株No.1-1-1(患者①由来), 1-1-2(患者②由来), 2-2-1(患者④由来), 2-2-2(患者⑤由来)および食品由来1株(2-3-1)は, MLVA type 19m0488であった。患者③由来の菌株No.2-1および食品由来10株(2-3-2~2-3-11)は, すべて19m0487であった(表2)。この2タイプは, O157-3およびO157-37の2 locus variantであり, いずれもMLVA complex 19c058に属した(表2)。

 ②IS-printing system法

 IS-printing system Ver.2(TOYOBO)を使用し, その取扱説明書に従ってPCRおよび電気泳動を実施した。得られた泳動像から, スタンダードDNAと比較して, 各サイズのバンドの有無について, 有りを「1」, 無しを「0」として表を作成し, それぞれの菌株について類似性を比較した。事例1, 2で分離したすべての株で, すべての標的遺伝子増幅の有無が一致した(表3)。

 ③Pulsed-field gel electrophoresis(PFGE法)

 Pulsenet Internationalの定めた方法に準拠し, 制限酵素XbaⅠを使用して実施した。泳動像は, FingerprintingⅡ(BIO-RAD)を用い, Dice法(最適化0.0%, トレランス1.0%)により, 近似係数を算出し, UPGMAによりデンドログラムを作成し解析した。菌株No.2-2-1(患者④由来)は, 他の株と2バンド異なり, 近似度も94.12%でやや低かったが, それ以外の株は近似度99.60%以上の相同性を示した()。

 今回, 関連性のない2店舗で短期間に同一由来株に起因したEHEC感染症事例が発生した。分子疫学解析を実施したところ, 現在, EHECの分子疫学解析法として主要な3法については, 改めて, 原因調査および事例間の関連性調査に有用であることが確認できた。さらに, 本事例ではIS-printing system法については, すべて一致した。一方, MLVA, PFGEでは1株ずつ他と異なる解析結果となった。複数の解析手法を併用することは, 疫学的な関連性をより詳細に考察するために有用と考える。

 

参考文献
  1. Izumiya H, et al., Microbiol Immunol 54: 569-577, 2010

 
仙台市衛生研究所        
 山田香織 星 俊信 村上未歩 大下美穂 大森恵梨子
 千田恭子 橋本修子 相原篤志 勝見正道 

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan