国立感染症研究所

(2024年8月23日改訂)

麻しんは麻しんウイルス(ParamyxovirusMorbillivirus属)がヒトに感染することによって起こる感染症である。麻しんウイルスは空気感染(飛沫核感染)、飛沫感染、接触感染と様々な感染経路で伝播し、その感染力は極めて強い。麻しんに対して免疫を持たない者が感染した場合、典型的な臨床経過としては10~12日間の潜伏期を経て発症し、前駆期(カタル期)(2~4日間)、発疹期(3~5日間)、回復期へと至る。ヒトの体内に入った麻しんウイルスは、感染部位周囲の局所のリンパ節の免疫細胞に感染して増殖し、さらに血流に乗って全身のリンパ節に運ばれ、そこで免疫系細胞に感染、増殖する。これらにより宿主は一過性に強い免疫機能抑制状態を生じるため、麻しんウイルスそのものによる症状だけでなく、他の細菌やウイルス等による二次感染を受けやすくなり、また合併症により重症化する可能性もある。麻しん肺炎は比較的乳幼児に多い合併症で、成人に多い合併症である麻しん脳炎とともに二大死亡原因といわれている。さらに麻しんに罹患・回復した後、平均7年の期間を経て発症する亜急性硬化性全脳炎(subacute sclerosing panencephalitis: SSPE)などの重篤な合併症もある。日本では2000年前後の流行では年間約20~30人の死亡が報告されていた。また、世界中では2022 年において、主に5歳以下の子ども約136,000人が亡くなったと推測されている(1)。唯一の有効な予防法はワクチンの接種によって麻しんウイルスに対する免疫を獲得することであり、2回のワクチン接種により、麻しん発症のリスクを最小限に抑えることが期待できる。

感染症法に基づく発生動向調査の変遷

日本において、麻しんは1947年から報告対象疾患であった。また、麻しん様疾患としての流行状況の把握は、1981年7月に当時の厚生省実施の事業による定点把握調査として開始された。1999年4月に施行された「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(以下、感染症法)」に基づく発生動向調査では、1999年から2007年までは、15歳未満を対象とした麻しんと15歳以上を対象とした成人麻しんとが、それぞれ定点報告疾患として別々に集計されていたが、2008年より全数把握対象疾患となった。定期予防接種率の上昇と、1歳になったらすぐに麻しんワクチン接種等の勧奨によって麻しんの患者数は着実に減少し、2006年には当時過去最低の定点当たり累積報告数となっていたが、2007年に10代、20代を中心とする流行が起こり、多数の高等学校や大学が休校措置を行うなどの社会的問題が生じた。

また、世界保健機関(WHO)西太平洋地域事務局(WPRO)では、日本を含む西太平洋地域において2012年までに麻しんを排除するという目標を掲げ、地域委員会で決議した。日本においてもこの目標に向け、2007年12月28日、「麻しんに関する特定感染症予防指針(以下、指針)」が施行された。これにより、予防接種については、追加接種の実施による2回接種の徹底が図られるとともに(予防接種率の情報は「麻しん予防接種情報https://www.niid.go.jp/niid/ja/measles-vac.html」参照、抗体保有状況等の情報は「感染症流行予測調査https://www.niid.go.jp/niid/ja/yosoku-index.html」参照)、発生状況の把握については、より正確な把握のため、2008年1月1日より五類感染症の全数報告疾患へ変更され、医師は麻しんと診断したすべての患者について7日以内の届出が求められるようになった。

2012年10月には厚生科学審議会感染症分科会感染症部会麻しんに関する小委員会(委員長・岡部信彦)により同指針の改正案が報告され、厚生労働省における審議・承認を経て、2013年4月1日からは新たな指針が告示され、医師は、原則として、診断後24時間以内に「麻しん(臨床診断)」として届け出ると同時に、全例に対して医療機関における血清IgM 抗体検査等の血清抗体価の測定、および地方衛生研究所におけるウイルス遺伝子検査等を実施するための検体の提出を求めることとなった。また、地方衛生研究所または国立感染症研究所において、遺伝子配列の解析を行うよう明記している。臨床症状と検査結果を総合的に勘案した結果として、麻しんと判断された場合は「麻しん(検査診断例)」への届出の変更を求め、麻しんでないと判断された場合は、削除理由を入力したうえで取り下げを求めている。

また、2014年の感染症法改正によって、2015年5月21日から、麻しんを診断した医師は直ちに患者氏名、生年月日、住所等の厚生労働省令で定める事項を、最寄りの保健所に届け出ることが求められている。これは、麻しん患者の発生時には、麻しんに感受性のある接触者への緊急ワクチン接種や免疫グロブリン製剤投与など、接触者の把握と発病予防措置を迅速に進めるため、感染症法に基づく迅速な積極的疫学調査の実施が重要であることを踏まえたものである。

発生動向調査に基づく疫学 ※排除認定(2015年)前後の動向を中心に

2008年には11,013例の麻しん症例が報告されたが、以降、減少傾向が続いた。患者の年齢層の中心は、2008年は0~1歳と10代~30代、2009年~2011年は0~1歳、2012年以降は2014年を除き20歳以上の成人が中心となっていた。日本における当時の流行株と考えられた遺伝子型D5の麻しんウイルスは2010年5月を最後に国内での検出はなくなった。

2015年3月27日、WHO西太平洋地域事務局は、「適切なサーベイランスの制度の下、最後に確認された流行症例から少なくとも36か月間、土着株によるウイルス伝播が中断していること、又は遺伝子型の解析によりそのことが示唆されること」という排除達成の認定基準を満たしたため、日本が麻しんの排除状態にあると認定し、現在(2024年)も排除状態は維持されている。2015年の年間報告数は、2008年以降最小となる35例であったが、2016年の報告数は、輸入例を発端とする麻しんの集団発生により159例となった。その後も排除の状態を維持することを目標に定め、2019年に指針が一部改正・適応され、国、地方公共団体、医療関係者、教育関係者等が連携して取り組んでいくべき施策が示され、発生およびまん延の防止に努めている。一方で、海外からの旅行者を発端とした医療機関における集団発生、麻しん含有ワクチン接種率が低い集団における集団発生、など複数の集団発生があり、2019年の年間の報告数は、排除達成後最多の744例となった。近年、特に排除認定後の麻しんの発生は輸入例を発端とするものが多く、海外から持ち込まれて、麻しん含有ワクチン接種率が低い集団や感受性のある人々を中心として感染拡大することに注意が必要である。

翌2020年は、年間の報告数は10例と大きく減少し、2021年、2022年にはさらに少ない6例となった。世界的な新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行による人の往来の減少に伴い、訪日客も減少し麻しんの持ち込みリスクが低下したと考えられる。COVID-19の対策が緩和された2023年は、前年より増加し28例となった。また、予防接種の実施状況については、2022 年度の全国の麻しん含有ワクチンの接種率は第1期95.4%、第2期 92.4%であり、第2期の接種実施率が、国の目標である95%を下回った。海外との渡航の再活性化や、ワクチン未接種の感受性者が存在することを踏まえると、麻しんの持ち込みリスクやそれに端を発する感染拡大には引き続き注意が必要である。詳細については、当研究所ホームページの麻しんのサイトで公表している「発生動向」https://www.niid.go.jp/niid/ja/hassei/575-03.htmlの記事を適宜参照していただきたい。

病原体

原因ウイルスである麻しんウイルスは パラミクソウイルス科(Paramyxoviridae)、モリビリウイルス属(Morbillivirus)に属する (-)鎖の一本鎖RNAゲノムを持つウイルスである。宿主細胞に由来する脂質二重膜のエンベロープを持ち、N、P、M、F、H、Lの6つの構造蛋白質により構成されている。糖蛋白質であるH蛋白質とF蛋白質はエンベロープからスパイク状に突出し、抗原性に関与している。麻しんウイルスの血清型は単一であり、1960~70年代に開発されたワクチン株は現在の流行株に対しても有効な抗体を誘導できる。自然宿主はヒトのみである。

麻しんウイルスはN遺伝子の定められた一部の配列(450塩基)、または全H蛋白質翻訳領域の遺伝子配列(1854塩基)を系統樹解析することで、8 clade、24遺伝子型に分類される(2)。現在使用されているワクチン株はすべて遺伝子型Aに属している。

麻しんウイルスの宿主側の受容体として、CD46(membrane cofactor protein:MCP)、SLAM(signaling lymphocyte activation molecule;CD150)、Nectin-4の3つの分子が同定されている(3-6)。免疫細胞に発現しているSLAM は、主に麻しんウイルスが宿主に感染する時に利用され、また、免疫細胞で増殖したウイルスが上皮細胞に感染し、気道腔内等へ放出される時には極性上皮細胞の細胞間隙に発現している Nectin-4が利用されると考えられている(7)。CD46分子は、ウイルスの細胞結合能を担うH蛋白質に特定の変異を持つワクチン株や一部の実験室株は利用できるが、野生株は利用できないことが知られている(8)。構造解析等により、H蛋白質と受容体の結合領域が、H蛋白質の主要な中和エピトープとなっていることが報告されており、麻しんウイルスの血清型が単一であることの理由の一つと考えられている(9,10)。

麻しんウイルスは熱、紫外線、酸、エーテル等で容易に不活化され、空気中や物体表面での生存時間は最大で2時間程度とされ、短い(引用:下段参照)。

臨床症状 (11-23)

1.麻しん

麻しんウイルスに対する免疫を持たない者が麻しんウイルスに感染した場合には、以下のような経過で臨床症状を呈する。

f1
写真1. 口腔内にみられるコプリック斑 写真2. 顔面にみられる発疹
<前駆期(カタル期)>

感染後に10~12日の潜伏期間を経て発症する。発症時、38 ℃前後の発熱が2~4日間続き、倦怠感があり、小児では不機嫌となり、上気道炎症状(咳嗽、鼻漏、咽頭痛)と結膜炎症状(結膜充血、眼脂、羞明)がほぼ同時に現れ、次第に増強する。
  乳幼児では8~30%に消化器症状として下痢、腹痛を伴う(11,12)。発疹出現の1~2 日前頃に頬粘膜の臼歯対面に、やや隆起し紅暈に囲まれた約1mm 径の白色小斑点(コプリック斑)(写真1)が出現する。コプリック斑は診断的価値があるが届出基準には含まれない。発疹出現後2日目を過ぎる頃までに急速に消失する。また、口腔粘膜は発赤し、口蓋部には粘膜疹がみられ、しばしば溢血斑を伴うこともある。

<発疹期>

前駆期(カタル期)での発熱が1℃程度下降した後、半日くらいのうちに再び高熱(多くは39.5 ℃以上)が出るとともに(2峰性発熱)、特有の発疹(写真2)が耳後部、頚部、前額部より出現し、翌日には顔面、体幹部、上腕に及び、2日後には四肢末端にまで及ぶ。発疹が全身に広がるまで、発熱(39.5℃以上)が3~4日間続く。発疹は初め鮮紅色扁平であるが、まもなく皮膚面より隆起し、融合して不整形斑状(斑丘疹)となる。指圧によって退色し、一部には健常皮膚面を残す。発疹は次いで暗赤色となり、出現順序に従って退色する。発疹期にはカタル症状は一層強くなり、特有の麻しん様顔貌を呈する。

<回復期>

発疹出現後3~4日間続いた発熱も回復期に入ると解熱し、全身状態、活力が改善してくる。発疹は退色し、色素沈着がしばらく残り、僅かの糠様落屑がある。カタル症状も次第に軽快する。
  合併症のないかぎり7~10日後には回復する。患者の気道からのウイルス分離は、前駆期(カタル期)の発熱時に始まり、第5~6発疹日以後(発疹の色素沈着以後)は検出されない。この間に感染力をもつことになるが、カタル期が最も強い。

<合併症>

1) 肺炎:麻しんの二大死因は肺炎と脳炎であり、注意を要する。肺炎の合併は6%(11)に認められ、乳児では死亡例の60%は肺炎に起因するものである(13)。

ウイルス性肺炎 病初期に認められ、胸部X 線上、両肺野の過膨張、びまん性の浸潤影が認められる。また、片側性の大葉性肺炎の像を呈する場合もある。
細菌性肺炎 発疹期を過ぎても解熱しない場合に考慮すべきである。原因菌に応じて適切な抗菌薬により治療する。原因菌としては、一般的な呼吸器感染症起炎菌である肺炎球菌、インフルエンザ菌、化膿レンサ球菌などが多い。
巨細胞性肺炎 成人の一部、あるいは特に細胞性免疫不全状態時にみられる肺炎である。肺で麻しんウイルスが持続感染した結果生じるもので、予後不良であり、死亡例も多い。発疹は出現しないことが多い。本症では麻しん抗体は産生されず、長期間にわたってウイルスが排泄される。発症は急性または亜急性である。胸部レントゲン像では、肺門部から末梢へ広がる線状陰影がみられる。

2) 中枢神経系合併症:1,000例に0.5~1例の割合で脳炎を合併し、思春期以降の麻しんによる死因としては肺炎よりも多い。発疹出現後2~6日頃に発症することが多く、髄液所見としては、単核球優位の中等度細胞増多を認め、蛋白レベルの中等度上昇、糖レベルは正常かやや増加する。麻しんの重症度と脳炎発症には相関はない。患者の約60%は完全に回復するが、25%に中枢神経系の後遺症(精神発達遅滞、痙攣、行動異常、神経聾、片麻痺、対麻痺)を残し、致命率は約15%である。

3) 中耳炎:麻しん患者の約7%(11,12)にみられる最も多い合併症の一つである。細菌の二次感染により生じる。乳幼児では症状を訴えないため、中耳からの膿性耳漏で発見されることがあり注意が必要である。乳様突起炎を合併することがある。

4) クループ症候群:喉頭炎および喉頭気管支炎は合併症として多い。麻しんウイルスによる炎症と細菌の二次感染による。吸気性呼吸困難が強い場合には、気管内挿管による呼吸管理を要する。

5) 心筋炎:心筋炎、心外膜炎をときに合併することがある。麻しんの経過中、半数以上に一過性の非特異的な心電図異常がみられるとされるが、重大な結果になることは稀である。

6) 亜急性硬化性全脳炎(subacute sclerosing panencephalitis:SSPE):麻しん罹患後の重篤な合併症の一つとして、亜急性硬化性全脳炎がある。麻しんウイルスの中枢神経への持続感染が原因と考えられており、長い潜伏期間の後に進行性の中枢神経症状を発症し、最終的な予後は非常に悪い。SSPE発症のリスクとして知られているのは、2歳未満での麻しん罹患である。潜伏期間は4~8年とされており、6~10歳頃に発症することが多いとされるが、それ以外の年齢で発症する場合もある。知的能力の低下、運動障害が徐々に進行し、ミオクローヌスなどの錐体・錐体外路症状を示すが、特に成人発症例では、非典型的な経過をとることが多く、若年発症の進行性の認知機能障害などが認められた場合ではSSPEも鑑別する必要がある(14,15)。SSPEは男性の方が女性よりも2~3倍多いことが知られている。麻しん含有ワクチン導入前における麻しん患者10万人あたりのSSPE発症は、米国では1人、開発途上国では20~100人とされていた(16)。しかし、ドイツ、米国からの報告では、5歳未満の麻しん患者のうち、1,300~3,300人に1人がSSPEを発症したと推計されており、従来考えられていた発症率よりも高い可能性が報告されている(17,18)。なお、ワクチン株によるSSPEの発症は、疫学的にもウイルス学的にも確認されていない(19,20)。

2.修飾麻しん

修飾麻しんは、麻しんウイルスの感染に対する免疫が不十分なヒト、例えば母体からの移行抗体をもつ乳児、麻しん含有ワクチンによって誘導された免疫が不十分な場合、麻しんウイルスに曝露された後に人免疫グロブリン製剤を投与されたヒト、等に、麻しんウイルスが感染したときに現れる病型のひとつである。修飾麻しんは上述したような典型的な麻しんの症状を示さず一般的に軽症で、感染力も典型的な麻しんと比較すると弱い(21,22)。症状は、微熱、発熱期間が短い、カタル症状を認めない、限局性の発疹などである(23)。麻しんウイルスに対する免疫が不十分な場合、例えば母体からの移行抗体をもつ乳児、麻しん含有ワクチンによって誘導された免疫が不十分な場合、麻しんウイルスに曝露された後に人免疫グロブリン製剤を投与された場合などには、修飾麻しんとなり、潜伏期間も14日以上になることがある(13)。修飾麻しんは、典型的な麻しんの症状を示さないことから、症状のみから診断することは困難であり、検査診断が必要である。ワクチン接種歴や渡航歴の確認はもちろんのこと、麻しん患者との接触歴や職場や学校での患者発生の有無等の疫学的情報がより重要となる。

病原診断

ウイルス遺伝子の検出、ウイルス分離、麻しん特異的IgM抗体価の上昇、急性期と回復期のペア血清での麻しんIgG抗体の陽転、あるいは有意な上昇をもって診断可能である。近年、日本における麻しん患者の発生数が大幅に減少したことを踏まえ、風しん等の類似疾患と正確に見分けるために病原体を確認することが不可欠であることから、病原体検出検査(ウイルス遺伝子の検出等)と免疫学的検査(IgM抗体、IgG抗体検査等)の併用が望まれる。2013年改訂の指針では、原則として全例に対してPCR法によるウイルス遺伝子検出とIgM抗体測定の実施を求めている。また、ウイルス遺伝子型情報、遺伝子配列情報は、流行ウイルス株の解析や疫学的リンクの確認、公衆衛生学的に排除状態の維持の確認等に求められており、その意味からもPCR法によるウイルス遺伝子検出、解析は重要である。ウイルス分離は可能な限り実施する。なお、診断に資する検査結果を得るためには、それぞれの検査に適した検体を、適切な時期に採取することが重要である。麻しんの検査診断に必要な検体や、適切な検体採取時期、検査結果の判断に関しては、「2016年改訂:最近の知見に基づく麻疹の検査診断の考え方https://www.niid.go.jp/niid/images/idsc/disease/measles/pdf01/arugorizumu2016.pdf」もしくは「医療機関での麻疹対応ガイドライン(現在更新中)https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ma/measles/221-infectious-diseases/disease-based/ma/measles/555-measles-guidlines.html」を、実際の実験室診断の手順については「病原体検出マニュアル(第4版)https://www.niid.go.jp/niid/images/lab-manual/Measles20221003.pdf 」、「「麻しん・風しん同時検査法」マニュアル 2022年10月版https://www.niid.go.jp/niid/images/lab-manual/MR-multiplex20221003.pdf」をそれぞれ参照していただきたい。

治療・予防

発症すると特異的な治療法はなく対症療法が中心となるが、中耳炎、肺炎など細菌性の合併症を起こした場合には抗菌薬の投与が必要となる。 麻しんは空気感染するため、手洗いやマスクでは十分な予防ができない。そのため、ワクチンによる予防が最も重要である。ワクチン接種後2週間後から麻しん特異的な血中抗体が出現するが、麻しん患者と接触後、緊急(72時間以内)に麻しん含有ワクチンの接種を受けることで、発症を予防できる可能性がある。
  麻しん含有ワクチンの接種については、母体由来の麻しん特異的IgG抗体があると、接種した麻しんワクチンウイルスが不活化されるため、母体由来の抗体がほぼ消失したと考えられる1歳以降の児に接種を行う国が多い。日本における現行の予防接種法では、1歳児(第1期)と小学校就学前1年間の幼児(第2期)を対象として麻しん風しん混合ワクチン(MRワクチン)による2回接種法が定期接種に導入されている。MRワクチン接種は、疾患に罹患した場合の重篤度、感染力の強さから考え、第1期の接種年齢(1歳)に達したらなるべく速やかに、遅くとも生後12~15か月に接種することが望ましい。また、小学校就学前1年間の幼児を対象とする第2期については、対象となって間もなく(4月~6月など)なるべく余裕をもって接種することが望ましい。

なお、生後6か月以降は母体由来の免疫が減弱するため、麻しん流行国に渡航する場合や通園している保育所などで患者が発生した場合は、緊急避難的に1歳以前にワクチンを接種する選択もあるが、この場合の接種は定期接種ではなく、任意接種として有料で実施することになる。いずれにしても、1歳前に接種を受けた場合も、1歳以降に更に2回接種(この場合は定期接種として実施)をする必要がある。これは、乳児期後期まで母親からの移行抗体が持続している場合、ワクチンウイルスが母親の免疫で中和されてしまい、十分な抗体が産生されない可能性があるためである。

また、輸血あるいは人免疫グロブリン製剤を投与された後は、母親からの移行抗体を保有する6か月未満の乳児と同様の理由で効果が得られないため、通常、3か月間は接種を行わない。川崎病などの治療で大量療法(200mg/kg以上)を受けた場合には、6か月間以上(麻しん感染の危険性が低い場合は11か月以上)接種間隔を置く必要がある。

ワクチン1回接種による免疫獲得率は93~95%以上、2回接種による免疫獲得率は97~99%以上と報告されており(11,24)、有効性は明らかである。初回接種後の反応としては発熱が約20~30%、発疹は約10%に認められる。いずれも軽症であり、ほとんどは自然に消失する。熱性けいれん既往者に対しては、発熱性疾患罹患時と同様の方法で発熱時の対応について接種前に説明をしておく必要がある。また、接種後30分は血管迷走神経反射による失神やアナフィラキシーに注意が必要である。女性については、接種後2か月間は妊娠を避ける必要がある。
  ワクチンアレルギーの原因となったゼラチンに関しては、現行の国産MRワクチンには含まれていない。ごく稀に(100万接種に1例程度)脳炎・脳症が報告されているが、麻しんに罹患したときの脳炎の発症率に比べるとはるかに低い(25)。

感染症法における取扱い

「麻しん」は全数報告対象疾患(五類感染症)である。前述したように原則として、医師は臨床診断後直ちに最寄りの保健所への届出と同時に、医療機関における血清IgM 抗体検査等の血清抗体価の測定の実施および地方衛生研究所におけるウイルス遺伝子検査等の検体の提出を求められている。

なお、麻しんに関する特定感染症予防指針においては、麻しんの患者の発生数が大幅に減少したことを踏まえ、原則として全例にウイルス遺伝子検査の実施を求めるものとされている(地方衛生研究所にて実施)。

・届出基準

http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-14-03.html(麻しん)

・医師による麻しん届出ガイドライン(現在更新中)

https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ma/measles/221-infectious-diseases/disease-based/ma/measles/555-measles-guidlines.html

学校保健安全法における取り扱い

麻しんは第二種の学校感染症に定められており、解熱した後3日を経過するまで出席停止とされている。ただし、病状により学校医その他の医師において感染のおそれがないと認めたときは、この限りでない。また、以下の場合も出席停止期間となる。

  • 患者のある家に居住する者又はかかっている疑いがある者、かかるおそれがある者については、予防処置の施行その他の事情により学校医その他の医師において感染のおそれがないと認めるまで。
  • 発生した地域から通学する者については、その発生状況により必要と認めたとき、学校医の意見を聞いて適当と認める期間。
  • 流行地を旅行した者については、その状況により必要と認めたとき、学校医の意見を聞いて適当と認める期間。

 

【文 献】

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(国立感染症研究所 ウイルス第三部、感染症疫学センター、実地疫学研究センター、感染症危機管理研究センター)

 

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