国立感染症研究所

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北海道における高病原性鳥インフルエンザ検査対応について

(IASR Vol. 38 p.174-175: 2017年8月号)

2016年12月12日に北海道内のK町でフクロウ1羽, 同15日にはO町でハヤブサ1羽の高病原性鳥インフルエンザ疑いの死亡野鳥が相次いで発見された(後にH5N6亜型と判明)。同16日には近隣のS町の農場において家禽でのH5亜型の高病原性鳥インフルエンザが発生し(後にH5N6亜型と判明), 約28万羽にのぼる家禽の殺処分や埋却, 消毒作業等の防疫措置が道内では初めて実施された。防疫措置終了から始まる健康観察期間中にインフルエンザ様症状を呈した従事者に対し, 札幌市衛生研究所もしくは北海道立衛生研究所においてウイルス遺伝子検査を実施したので, その概要について報告する。

家禽の殺処分や埋却, 消毒作業は12月17日~24日まで実施され, 自治体や関係機関の職員, 自衛隊員合わせて延べ6,206人が携わった(表1)。感染鳥類等と接触のある作業に従事する者はすべて個人用感染防護具を着用した。ヒトの感染症対策として, 作業後には所轄保健所が中心となって, 従事者に対し問診等による健康調査を行うとともに, 従事後10日間の健康観察を実施した。健康観察期間中は1日2回の体温測定を義務付け, 対象者は38℃以上の発熱, 咳, 呼吸困難, 咽頭痛等のインフルエンザ様症状を呈した場合, 所属長経由で保健所へ連絡することとし, 保健所では各協力医療機関への受診調整および必要に応じて検体確保を実施した。検査実施の適否については, 主に簡易検査でA型陽性を判断基準としたが, 陰性であっても, 臨床症状等によりインフルエンザを疑う者も含むこととした。なお, H5N1以外の鳥インフルエンザ発生時の予防投薬の取り扱いについて, 法令等で明確に示されていないが, 本事案に関しては, 2006(平成18)年12月27日付け健感発第1227003号厚生労働省健康局結核感染症課長通知 「国内の鳥類における鳥インフルエンザ(H5N1)発生時の調査等について」 に準じた対応を取ることとし, 明示の同意が得られた106名(自衛隊員を除く) に対して処方した。

健康観察期間中に29名が前記の症状を呈し, うち検査を実施すべきと判断された20名から咽頭ぬぐい液を採取し, 衛生研究所においてリアルタイムRT-PCR法による型別検査(H1亜型, H3亜型, H5亜型, H7亜型)を実施した。なお, この20名はすべて予防投薬を受けていなかった。検査の結果, 17名からH3亜型, 1名からH1亜型の季節性インフルエンザウイルス遺伝子が検出され, 2名が陰性であった(表2)。同時期の北海道の定点当たりのインフルエンザ患者数は第50週が9.4人, 第51週が12.4人と注意報基準前後の水準であり, 道内において主に分離されていたH3亜型のインフルエンザウイルスに曝露される機会が多かったためと考えられる1)。一方, 今回の検査では, 防疫措置従事者にH5亜型による感染は確認されず, 個人用感染防護具の着用等, 適切な予防対策により感染阻止が可能であることが示唆された。

謝 辞:検体採取および疫学情報収集に御協力いただいた道内各保健所, 協力医療機関, 札幌市保健所感染症総合対策課および北海道保健福祉部健康安全局地域保健課の関係各位に深謝いたします。

 

参考文献
  1. 北海道感染症情報センター
    http://www.iph.pref.hokkaido.jp/kansen/index.html

 

北海道立衛生研究所
 駒込理佳 山口宏樹 三好正浩 石田勢津子 長野秀樹 岡野素彦
札幌市衛生研究所
 大西麻実 菊地正幸 濱谷和代 木田 潔

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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