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2015年9月上旬に上海への渡航歴のある患者から分離された A(H1N1)pdm09ウイルスの遺伝子解析―三重県  

(掲載日 2015/10/14)  (IASR Vol. 36 p. 223-224: 2015年11月号

2014年12月以降(2014/15シーズン)、インドではA(H1N1)pdm09ウイルスの流行1-3)により多数の死亡例が報告されている。本県での同時期におけるA(H1N1)pdm09ウイルスの分離状況は、2015年4月中旬に1株のみで、全国的にも検出報告数は少数であった4,5)。今回、今シーズン(2015/16シーズン)の初期に上海へ渡航歴のある患者からA(H1N1)pdm09ウイルスを分離した。この株について、遺伝子解析を実施したので報告する。

本患者は2015年9月6~10日にかけて上海に渡航しており、9月10日に発熱症状がみられた。帰国後の9月11日(第37週)に本県A市の医療機関を受診した。受診時には呼吸器症状、発熱(38.7℃)および関節痛を呈しており、医療機関で実施されたインフルエンザウイルス簡易迅速診断キットによる検査にてA型インフルエンザウイルスが検出された。

医療機関より報告を受けた管轄保健所は、当研究所にインフルエンザウイルスの亜型同定を依頼した。医療機関で採取された鼻汁検体を用いてインフルエンザウイルス遺伝子検査を実施した結果、A(H1N1)pdm09ウイルスが検出された。MDCK細胞を用いてウイルス分離を試みたところ、初代培養で細胞変性が認められた。ウイルス培養上清液に対し0.75%モルモット赤血球を用いた赤血球凝集試験を行ったところ、力価は128を示した。そこで、国立感染症研究所より配布された2014/15シーズンの同定試験用抗インフルエンザウイルス血清と、0.75%モルモット赤血球を用いて赤血球凝集抑制(HI)試験を行った。本ウイルス株はA/California/7/2009(H1N1)pdm09の抗血清に対するHI価は640(ホモ価640)を示した。なお、A/New York/39/2012(H3N2)の抗血清(同2,560)、B/Massachusetts/02/2012 (山形系統)の抗血清(同640)、B/Brisbane/60/2008(Victoria系統)の抗血清(同320)に対するHI価は10未満であった。これらHI試験の結果および鼻汁検体のPCRによる亜型同定の結果から、分離されたウイルスはA(H1N1)pdm09ウイルスであることが明らかとなった。

遺伝子系統樹解析
Global Initiative on Sharing All Influenza Data (GISAID) EpiFlu database (http://platform.gisaid.org)からインドを含む国内外のA(H1N1)pdm09ウイルス株の遺伝子配列データをダウンロードし、遺伝子系統樹解析を行った。本ウイルス(A/Mie/20/2015株)はヘマグルチニン(HA)遺伝子系統樹解析により、HAタンパク質にD97N、S185Tのアミノ酸置換を持つクレード6に分類された。さらに、2013/14~2014/15シーズンに国内外で検出されたA(H1N1)pdm09ウイルス株と同様のアミノ酸置換K163Q、A256T、K283E、E499Kを有するサブクレード6Bに分類された。加えて本ウイルス(A/Mie/20/2015株)にはアミノ酸置換S84Nを有する特徴がみられた(図1)。ノイラミニダーゼ(NA)遺伝子系統樹解析では、アミノ酸置換V264I、N270Kを有し、さらにアミノ酸置換V13I、I314Mを有する集団に属した(図2)。本ウイルスのHAおよびNAタンパク質は、インドで流行しているウイルス株と同様のアミノ酸置換を有していた。一方、2015年4月に本県で分離された同亜型ウイルスA/Mie/15/2015株はHAタンパク質にS84N、およびNAタンパク質にV13I、I314Mのアミノ酸置換を有していないことから、A/Mie/20/2015株は国内流行株とは異なるグループに入ることが分かった。

なお、本ウイルス(A/Mie/20/2015株)のNA遺伝子からはオセルタミビル耐性マーカーであるH275Y変異は検出されなかった。

今回の検出事例は帰国する間際に発熱症状を呈していること、また、HAおよびNA遺伝子の系統樹解析結果から、上海での滞在時にインド地域で主流行していたA(H1N1)pdm09類似ウイルスに罹患し、国内に持ち込まれたと推測される。今後、国内で分離されるA(H1N1)pdm09ウイルスとインド由来株との相同性について関心がもたれる。

既に2015年9月には国内各地で、集団発生事例および散発事例における検出報告がされており、感染予防対策のためにも通年における継続的なインフルエンザウイルスの動向監視を行い、さらには薬剤耐性ウイルスの発生状況の把握に努め、迅速な情報提供を行うことが、公衆衛生上重要である。

謝辞:本報告を行うにあたり、貴重なご意見をいただきました国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センターの藤崎誠一郎先生、高下恵美先生、渡邉真治先生、小田切孝人先生にお礼申し上げます。

検体の収集等を担当された四日市市保健所の職員の方々、関係各位に深謝いたします。
 

参考文献
  1. Bagchi S, India tackles H1N1 influenza outbreak, Lancet 2015; 385: e21
  2. Mishra B, 2015 Resurgence of Influenza A (H1N1) 09: Smoldering Pandemic in India?, J Glob Infect Dis 2015; 7: 56-59
  3. D'Silva J, Swine flu: how well did India respond?, BMJ 2015; 350: h2286
  4. 三重県感染症情報センター インフルエンザウイルス分離・検出状況
    http://www.kenkou.pref.mie.jp/topic/influ/bunri/bunrihyoumenu.htm 
  5. 国立感染症研究所 感染症疫学センター シーズン別ウイルス検出状況、由来ヒト:インフルエンザ&その他の呼吸器ウイルス、2005/06~2015/16
    https://nesid4g.mhlw.go.jp/Byogentai/Pdf/data95j.pdf  
 

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