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新規抗インフルエンザ薬バロキサビル マルボキシル耐性変異ウイルスの検出

(速報掲載日 2019/1/24) (IASR Vol. 40 p30-31: 2019年2月号)

日本国内においては、季節性インフルエンザに対する抗インフルエンザ薬として、主に4種類のノイラミニダーゼ(NA)阻害剤、オセルタミビル(商品名タミフル)、ザナミビル(商品名リレンザ)、ペラミビル(商品名ラピアクタ)およびラニナミビル(商品名イナビル)が使用されてきた。一方、2018年2月には新たにキャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害剤バロキサビル マルボキシル(商品名ゾフルーザ)が承認され、3月より使用可能となった。

バロキサビル マルボキシル(以下バロキサビル)の臨床試験では、薬剤投与によりインフルエンザウイルスのPA蛋白質の38番目のアミノ酸に変異が検出され(I38T/M/F)、これらの変異がウイルスのバロキサビル感受性低下に関与することが明らかになった1)。第Ⅲ相臨床試験においては耐性変異ウイルスの検出率が12歳以上で9.7%、12歳未満では23.4%と高く、また耐性変異ウイルスが検出された患者ではウイルス力価の再上昇が認められ、感受性ウイルスが検出された患者と比べて罹病期間が延長することが報告されている1,2)

したがって、バロキサビル耐性変異ウイルスの発生状況を迅速に把握し、自治体および医療機関に速やかに情報提供することは公衆衛生上極めて重要である。そこで、国立感染症研究所(感染研)と全国地方衛生研究所(地衛研)は共同で、2017/18シーズンからバロキサビル耐性株サーベイランスを実施している3,4)。2018年12月に横浜市で、バロキサビル投与後の小児から、バロキサビルに対する感受性が約80~120倍低下したPA I38T耐性変異ウイルスが2株検出されたので報告する5)

横浜市の2小学校において、2018年12月にインフルエンザの集団発生が報告され、6~7歳の4名の患者の検体からウイルスが分離された。4名のうち2名は検体採取の3日前にバロキサビルを投与されており、1名は検体採取後、同日にバロキサビルを投与された。残り1名は検体採取2日前からオセルタミビルを投与されていた。それぞれの検体からはA(H3N2)インフルエンザウイルスが検出された。

4株のウイルスについて遺伝子解析を行った結果、バロキサビル投与例から検出されたウイルス(A/横浜/133/2018およびA/横浜/135/2018)は、PA I38T耐性変異を持つことが明らかになった。一方、オセルタミビル投与中(A/横浜/136/2018)およびバロキサビル投与前(A/横浜/134/2018)の検体から検出されたウイルスは耐性変異を持たなかった。また、2株のPA I38T耐性変異ウイルスは異なる遺伝子配列を持っていたため、ヒトからヒトへの感染伝播ではなく、それぞれの患者の体内でバロキサビルの投与により選択的に増殖した可能性が示された。

次に、4株のウイルスについてバロキサビルに対する感受性試験を実施し、IC50値(ウイルスの活性を50%阻害する薬剤濃度)を測定した結果、PA I38T耐性変異を持つA/横浜/133/2018およびA/横浜/135/2018は、耐性変異を持たない2株に比べて、バロキサビルに対する感受性が、それぞれ120倍または76倍低下することが明らかになった。一方、4種類のNA阻害剤、オセルタミビル、ザナミビル、ペラミビルおよびラニナミビルに対しては、PA I38T耐性変異の有無にかかわらず、4株すべてのウイルスが感受性を示した。

約2,000名の患者を対象としたオセルタミビルの臨床試験の累計データでは、耐性変異ウイルスの検出率は成人で0.32%,小児で4.1%である6)。また、日本国内における過去5シーズンのNA阻害剤耐性ウイルス検出率は、0~1.9%で推移しており、2018/19シーズンは2019年1月現在、約250株の解析株からNA阻害剤耐性ウイルスは検出されていない4)。日本国内におけるバロキサビル耐性変異ウイルスの検出状況は、世界保健機関(World Health Organization: WHO)をはじめ世界中から注視されている。WHOはNA阻害剤耐性ウイルスの判定基準を示しているが、バロキサビルについても独自の判定基準が示される方針で、現在、準備が進められている。

インフルエンザ流行のピークに向けて、感染研と地衛研ではバロキサビル耐性株サーベイランスを強化しており、引き続き、遺伝子解析と薬剤感受性試験を併用してバロキサビル耐性変異ウイルスの監視を進め、速やかに情報提供を行っていく。

 

参考文献
  1. Omoto S, et al., Characterization of influenza virus variants induced by treatment with the endonuclease inhibitor baloxavir marboxil, Sci Rep 8: 9633, 2018
  2. Hayden FG, et al., Baloxavir marboxil for uncomplicated influenza in adults and adolescents, N Engl J Med 379: 913-923, 2018
  3. Takashita E, et al., Susceptibility of influenza viruses to the novel cap-dependent endonuclease inhibitor baloxavir marboxil, Front Microbiol 9: 3026, 2018
  4. 抗インフルエンザ薬耐性株サーベイランス
    http://www.nih.go.jp/niid/ja/influ-resist.html
  5. Takashita E, et al., Detection of influenza A(H3N2) viruses exhibiting reduced susceptibility to the novel cap-dependent endonuclease inhibitor baloxavir in Japan, December 2018, Euro Surveill 24: pii=1800698, 2019
  6. Aoki FY, et al., Influenza virus susceptibility and resistance to oseltamivir, Antivir Ther 12: 603-616, 2007

 

国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センター
 高下恵美 森田博子 小川理恵 藤崎誠一郎 白倉雅之 三浦秀佳 中村一哉
 岸田典子 桑原朋子 秋元未来 佐藤 彩 菅原裕美 渡邉真治 小田切孝人
横浜市衛生研究所
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 安倍 隆
市川こどもクリニック
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