国立感染症研究所

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宇和島保健所管内のD病院におけるインフルエンザA型の集団発生に伴う抗インフルエンザウイルス薬剤耐性株の検出について

(速報掲載日 2019/11/12)
1. 発生の状況

2019年8月12日、愛媛県宇和島保健所に管内のD病院(入院患者数240名、職員数393名)から、職員と入院患者合わせて10名がインフルエンザAと診断されたと連絡があった。直ちに保健所職員が聞き取り調査を行ったところ、図1に示すように、初発患者は、8月6日に発症したA病棟職員1名で、8日にはA病棟入院患者と外来患者が1名ずつ発症し、さらに9日にはA病棟入院患者1名、外来職員5名、外来患者2名の計8名が発症した。

A・B・C病棟で発生した患者10名(A病棟:7名、B病棟:2名、C病棟:1名)の経時的な症状、検査結果および治療の状況について図2に示した。A病棟入院患者は、原疾患治療のため免疫抑制剤による治療を受けており主治医の判断により抗インフルエンザ薬とその投与量が決定された。そのうち3名について以下に示す。

入院患者(No.2)は、8月8日から発熱、咳を認め、図2に示すような経過を辿り、同28日、咽頭拭い液を採取し、同29日、衛生環境研究所で実施した遺伝子検査でインフルエンザウイルスAH1pdm09型が検出され、9月6日、H275Y株と判明したため、同7日ラニナミビル1回2キットに薬剤を変更した。しかし、同10日、迅速検査にてインフルエンザA型が検出されたため、バロキサビル1錠/1日に薬剤を変更した。同13日、迅速検査にてインフルエンザ陰性が確認され、同日夜、遺伝子検査により陰性も確認された。

入院患者(No.6、7)は、8月12日からオセルタミビル1錠/隔日を5日間の予防投与がされていたが、発熱などの症状が出現したため、迅速検査を実施しインフルエンザA型が検出された。ラニナミビル1回2キットを投与したが改善が認められず、同26日から再びオセルタミビルによる内服を開始した。薬剤変更するも症状の改善が乏しいことから、咽頭拭い液を採取し、インフルエンザウイルスAH1pdm09型が検出された(H275Y)。No.6は、迅速検査で陰性を確認したが、No.7は都合により迅速検査の陰性を確認していなかった。

2. 保健所での対応

8月12日、病院からの第1報を受けて直ちに聞き取り調査を実施し、健康調査票の毎日の提出、患者の増加や重症例が出現した場合の早急な報告、感染対策の徹底について指導した。さらに、翌日患者数が増加したため、積極的な予防投与の実施を勧告した。しかし、予防投与を行った患者が再び症状を呈し、インフルエンザ迅速検査でA型が検出された患者がいるとの連絡を受けた。同27日、立ち入り調査を行ったところ病棟において、マスクの着用、手洗いの徹底、デイルームの使用禁止、外出・外泊制限、院内清掃の回数を増やすなどの措置がとられていた。聞き取りから今回罹患した患者は、喉の違和感・咳に始まり、遅れて38度くらいの発熱で発症するケースが多く、通常のインフルエンザと比べると比較的軽症であったとの情報を得た。そのため、原因ウイルスとして薬剤耐性インフルエンザウイルスを強く疑い、遺伝子検査が必要と判断した。県庁健康増進課と衛生環境研究所とも協議し、保健所長の判断により行政検査としてインフルエンザウイルスの分離、遺伝子検査を実施した。同28日、D病院に対し協力依頼書、入院患者(No.2、6、7)に協力依頼書と同意書を交わし、咽頭拭い液を採取した。上述のように遺伝子検査を実施し、インフルエンザウイルスAH1pdm09型が検出され 、H275Y耐性株と判明した。終息の見極めについて、保健所内で協議したが稀な事例であるため、国立感染症研究所に助言を仰ぎ、終息の判断は、遺伝子検査で陰性を確認することとした。9月13日、入院患者(No.2)が迅速検査で陰性を確認したとの連絡があったことから、再び、同意書を交わし、咽頭拭い液を採取した。衛生環境研究所における遺伝子検査で陰性となったことから終息と判断した。

発生から終息までが39日間と長期化し、総患者数35名に上ったもののD病院の外部への感染拡大がなかったことは感染対策・防止策が有効に機能したことを示唆する。その要因として、D病院からの早期通報、保健所職員による早急な立ち入り調査の実施と科学的根拠に基づいた指導、25回以上にもおよぶ病院からの相談に迅速に対応したことが考えられる。その背景には普段からお互いに顔のみえる関係の構築があった。

3. 本事例における原因インフルエンザウイルスの特徴

国立感染症研究所で実施されたシークエンスデータを元に解析を行うと、NA蛋白のアミノ酸配列において、H275Y変異に加え、V241I、N369K、N386Kの3カ所の変異も確認された。この株は、2014年札幌市1)で初めて検出され、国内でも散発的に報告2)3)されているウイルスで、近年はV241I、N369K、N386Kの3カ所の変異は国内のほとんどの株で確認されており、改めてこれらのウイルスが国内に浸淫していることが確認できた。

本事例は公衆衛生上、極めて重要な事例であり、今後インフルエンザ病原体定点により提出される検体によって、モニタリングの強化に努めたい。

 

参考文献
 
 
愛媛県宇和島保健所
 菅 美樹 小玉将慶 林 美紀 影山康彦 倉田朋子 冨田直明
愛媛県立衛生環境研究所
 岩城洋己 山下まゆみ 豊嶋千俊 山下育孝 四宮博人
国立感染症研究所 
 高下恵美 永田志保 森田博子 藤崎誠一郎 三浦秀佳 渡邉真治
 砂川富正 長谷川秀樹

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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