国立感染症研究所

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<速報>家族内感染が疑われたオセルタミビル投与前の小児患者から分離された抗インフルエンザ薬耐性A(H1N1)pdm09ウイルス―三重県

(掲載日 2014/1/24)

 

2013/14シーズン、国内で分離されたA(H1N1)pdm09ウイルスの抗インフルエンザ薬耐性株サーベイランスにおいて、31株中6株(19%)がオセルタミビル・ペラミビル耐性ウイルスであった1)(2014年1月6日現在)。

これらの抗インフルエンザ薬耐性A(H1N1)pdm09ウイルスのうち5株は、2013年11月および12月に札幌市で発生した散発事例2)である。今回、本県において2013年12月に札幌市に滞在していた抗インフルエンザ薬の投与歴のない患児より、抗インフルエンザ薬耐性A(H1N1)pdm09ウイルスが分離されたので報告する。

本県では、2013年9月3株、12月下旬1株、2014年1月上旬に3株の計7株のA(H1N1)pdm09ウイルスが分離された(2014年1月14日現在)3)表1)。これらの7株についてNA遺伝子を対象とした遺伝子塩基配列の解析およびTaqMan RT-PCR法の2法を用いた275位のアミノ酸におけるヒスチジン(H)からチロシン(Y)への置換(H275Y耐性変異)のスクリーニングを実施した。

H275Y耐性変異のスクリーニング
H275Y耐性変異の検出には臨床検体およびMDCK細胞により分離したA(H1N1)pdm09ウイルス株から抽出したRNAを用いた。NA遺伝子塩基配列の解析により7株のうち1株(A/Mie/27/2013)が、臨床検体およびMDCK細胞分離株ともにH275Y耐性変異を有することが判明した。さらにA/Mie/27/2013株を用いたTaqMan RT-PCR法による解析からも同様の結果(耐性株)を得た。

なお、A/Mie/27/2013(耐性株)のNA蛋白は、札幌市の耐性ウイルス株と同様2)にV241I、N369K、N386Kの変異を有していた。

ノイラミニダーゼ(NA)阻害薬に対する感受性試験
国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センターで実施されたA/Mie/27/2013(耐性株)のNA阻害薬に対する感受性試験では、オセルタミビル、ペラミビル、ザナミビル、ラニナミビルに対するIC50値は364.80nM、16.52nM、0.18nM、0.93nMで、感受性参照株と比較してオセルタミビルおよびペラミビルに対する感受性が著しく低下していたが、ザナミビルおよびラニナミビルに対しては感受性を保持していた。

HA遺伝子系統樹解析
今シーズンに本県で分離された7株中6株のA(H1N1)pdm09ウイルスについてHA遺伝子系統樹解析を実施した。これらの株はすべて、HAタンパク質にD97N、S185Tのアミノ酸置換を持つクレード6に分類された(図1)。

A/Mie/27/2013(耐性株)は、2013/14シーズン初期(2013年9月)にインドネシアへ渡航歴のある患者から分離された株(A/Mie/22/2013株、A/Mie/23/2013株)4)とのHAアミノ酸と比較すると、3カ所(アミノ酸番号:15、269、283)が異なっていた。

H275Y耐性変異株が分離された罹患者の疫学情報
本事例の患児は、オランダから帰国後、2013年12月20~24日まで札幌市に滞在していた。その後、三重県へ帰省し、同年12月25日に亀山市のインフルエンザ定点医療機関(小児科)を受診した。検体採取前に抗インフルエンザ薬の投与は受けておらず、薬剤により患児の体内で耐性ウイルスが選択的に発生した可能性は否定される。 

また、患児がインフルエンザ症状を発症する前に、父母に発熱症状が確認されていた。父親についての詳細な検査情報はないが、母親は患児が発症する前日に医療機関を受診し、インフルエンザ迅速診断キットによりA型インフルエンザと診断されたがA(H1N1)pdm09ウイルスへの罹患の有無は検査には至っておらず不明ではあるが、家族内感染の可能性が考えられた事例だと思われた。なお、母親にはザナミビルが処方されていた。その後、本患児は受診しておらず、予後および感染拡大等の詳細は不明である。

2013年11月には、A(H1N1)pdm09ウイルスによる健康成人の重症インフルエンザ肺炎の症例報告5)がされており、特に2009年の流行時に重症化となる傾向がみられたハイリスクグループ(基礎疾患、乳幼児、妊婦等)への感染6)には注視する必要があると思われる。本事例は、札幌市で耐性株がまとまって検出された時期に患者家族が札幌市に滞在していたことと、遺伝子配列が札幌市の耐性株と全く同じであったことから、札幌で耐性株に感染し、三重県に持ち帰ったケースと考えられる。今後、国内でのA(H1N1)pdm09ウイルスの流行動向および抗インフルエンザ薬耐性株の出現状況を注意深くモニタリングし、医療機関における投与薬剤の選択戦略を検討するための情報提供をしていきたいと考えている。

謝辞:本報告を行うにあたり、NA阻害薬に対する感受性試験の実施および貴重なご意見をいただきました国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センターの高下恵美先生、藤崎誠一郎先生、小田切孝人先生、田代眞人先生にお礼申し上げます。

 

参考文献
1) 国立感染症研究所、抗インフルエンザ耐性株サーベイランス
http://www.niid.go.jp/niid/ja/flu-m/2068-flu/flu-dr/
2) 高下恵美, 他, IASR速報
http://www.niid.go.jp/niid/ja/flu-m/flu-iasrs/4232-pr4081.html
3) 三重県感染症情報センター, 2013/14シーズンのインフルエンザウイルス分離・検出状況   http://www.kenkou.pref.mie.jp/topic/influ/bunri/bunrihyou1314.htm
4) 矢野拓弥, 他,IASR 34: 343-345,2013  
http://www.niid.go.jp/niid/ja/iasr-sp/2257-related-articles/related-articles-405/3989-pr4051.html
5) 武井健太郎, 他,  IASR速報
http://www.niid.go.jp/niid/ja/flu-m/flu-iasrs/4216-pr4073.html
6) 熊野浩太郎,臨床とウイルス38(1) : 106-120,2010

 

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