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<速報>2013/14シーズン後半から2014/15シーズン初め(2014年第35~36週)に分離されたAH3亜型インフルエンザウイルス―三重県

(掲載日 2014/10/7)  (IASR Vol. 35 p. 272-274: 2014年11月号)

2014/15シーズンの三重県内のインフルエンザ定点(内科、小児科)医療機関における迅速診断キット測定結果より、2014年第36~37週にA型インフルエンザウイルス23件と、B型インフルエンザウイルス1件の検出が報告された1)。今回、三重県感染症発生動向調査事業において2014年第35~36週(8月第5週~9月第1週)に検査依頼のあった患者検体から分離された2株のAH3亜型インフルエンザウイルス(AH3亜型ウイルス)の抗原性状等について報告する。

患者情報:2014年8月30日および9月3日に呼吸器症状を呈した患者(2名)が三重県A市の医療機関を受診し、インフルエンザ迅速診断キットにてインフルエンザウイルスA型陽性と診断された。症例1は、A市と隣接する県内B市の患者家族(祖母)の入所する老人施設内で2014年8月中旬~下旬にかけて発生したインフルエンザ集団発生との関連が推測された2)。症例2は症例1と同じB市の通所介護施設内におけるインフルエンザ集団発生事例で、施設職員(父親)が感染し、その後、家族(患児、母親、妹)においてもインフルエンザ症状が認められた事例であった()。

なお、二つの老人介護施設は直線距離で約6kmであったが、管轄する保健所の聞き取り調査では両施設の感染ルートの関連性は明らかにならず、疫学的リンクは不明であった。

インフルエンザウイルス遺伝子検査および赤血球凝集抑制同定試験:両患者から採取された臨床検体(咽頭ぬぐい液)を用いてインフルエンザウイルス遺伝子検査(conventional RT-PCR 法、real-time RT-PCR法)を実施したところ、両患者検体ともにAH3亜型ウイルスが検出された。

また、MDCK細胞を用いてウイルス分離を試みたところ、どちらの臨床検体からも2代培養で細胞変性が認められた。これらのウイルス培養上清液に対して0.75%モルモット赤血球を用いた赤血球凝集(HA)試験を行ったところ、両ウイルス株とも16倍のHA価を示した。そこで国立感染症研究所より2013年に配布された2013/14シーズンインフルエンザウイルス同定キット(ウサギ免疫血清)を用いて赤血球凝集抑制(HI)試験による同定試験を行った。これらの2株はA/Texas/50/2012(H3N2)の抗血清に対するHI価は640(ホモ価2,560)を示した。なお、A/California/7/2009(H1N1)pdm09の抗血清(同1,280)、B/ Massachusetts/02/2012(山形系統)の抗血清(同640)、B/Brisbane/60/2008(Victoria系統)の抗血清(同640)に対するHI価は10未満であった。

HA遺伝子系統樹解析:分離したAH3亜型ウイルス株についてHA遺伝子系統樹解析を実施したところ()、2株ともにVictoria/208クレード内でアミノ酸置換(Q33R、N278K)を有するサブクレード3Cに属していた。現在、本クレードはサブクレード3C.1~3に細分化されており、2014/15シーズンのワクチン株であるA/New York/39/2012(H3N2)はサブクレード3C.3に属している。今回分離されたAH3亜型ウイルス株はサブクレード3C.2に属しており、さらに、アミノ酸置換(L3I、N144S、F159Y、K160T、N225D、Q311H、D489N)を持つ集団に属していた。

今回分離されたAH3亜型ウイルスと同一のアミノ酸置換を有したAH3亜型ウイルスによる集団発生が、2014年8月中旬に本県の介護老人保健施設で確認2)されている。このことから、今回分離されたウイルスが今シーズンの流行の主流となり得る可能性が推察された。また、AH3亜型ウイルス流行時には、高齢者や乳幼児の重症化に警戒する必要があり、特に施設内での発生時には迅速かつ適切な初動対応が感染拡大防止には重要である。今シーズン初め(2014年9月8~11日)の各都道府県からのインフルエンザ様疾患発生報告3)によると、早くも7自治体で防疫措置(休校、学年閉鎖、学級閉鎖)がとられている。本格的な流行期に向けて本県での流行ウイルスの動向監視および抗原性状を早期に把握し、インフルエンザ予防対策に繋げていきたいと考えている。

謝辞:本報告を行うにあたり、貴重なご意見をいただきました国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センターの藤崎誠一郎先生、小田切孝人先生にお礼申し上げます。

 
参考文献
  1. インフルエンザ 保健所管内別・週別患者届出数(三重県)
    http://www.kenkou.pref.mie.jp/topic/influ/influhyoumenu.htm
  2. 矢野拓弥, 他, IASR 35: 272, 2014 
    http://www.niid.go.jp/niid/ja/flu-m/flutoppage/593-idsc/iasr-news/5002-pr4162.html
  3. インフルエンザ様疾患発生報告(第2報)平成26年9月19日
    http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou01/houdou.html

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