国立感染症研究所

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2015/16シーズン初めに分離されたインフルエンザウイルス―茨城県

(掲載日 2015/10/29)  (IASR Vol. 36 p. 225-226: 2015年11月号)

茨城県では、2015年9月(2015/16シーズンの初め)にインフルエンザウイルスによる集団発生および散発事例が確認された。今回、これらの事例についての発生状況およびウイルスの検査状況について報告する。

事例1:AH3ウイルスによる集団発生
2015年9月、県南部にある社会福祉施設で発熱・鼻汁・咳を主な症状とする集団発生があり、そのうち数名が医療機関にて迅速診断キットによりインフルエンザA型と診断された。施設は入所者数50名、職員数28名(計78名)で、約2週間にわたり発症者が確認され、最終的には入所者35名、職員4名の計39名が発症した。患者は20代~70代にかけて発生し、入院患者および重症患者は確認されなかった。本事例は今シーズン県内初のインフルエンザ集団発生のため、当所においてウイルス検査を実施した。発症者の中から7名()の検体(咽頭・鼻腔ぬぐい液および鼻かみ液等)が当所に搬入され、国立感染症研究所(感染研)「インフルエンザ診断マニュアル」に基づき検査を行ったところ、リアルタイムRT-PCRにより7名全員からAH3ウイルスが検出された。また、これら7検体についてMDCK細胞を用いてウイルス分離を試みた結果、継代培養3代目までに6検体において細胞変性効果(CPE)が認められた。これらの分離培養上清について、リアルタイムRT-PCRによる分離確認および亜型同定を行った結果、6検体ともAH3ウイルスと同定された。分離されたAH3ウイルス株6株についてシークエンス解析を行ったところ、解析領域において6株の遺伝子配列はすべて一致したことから、本事例は同一ウイルスによる集団感染事例であったことが示唆された。また、インフルエンザウイルス研究センターの解析を参考にHA遺伝子系統樹解析を行ったところ(1)、この6株はサブクレード3C.2aに分類された。昨シーズン(2014/15シーズン)のAH3県内分離株を同様にHA遺伝子解析したところ、解析株の約8割がサブクレード3C.2aに分類されたことから、このサブクレードに属する株は全国同様県内でも流行の主流であったと考えられ、本事例も同様のウイルスによるものであったと考えられる2)。

事例2:AH1pdm09ウイルスの散発事例
県南部のインフルエンザ定点医療機関より、9月1日に上気道炎の症状を呈し受診した患者が迅速診断キットによりインフルエンザAと診断されたため、検体(鼻腔ぬぐい液)が搬入された。患者に海外渡航歴はなく、家族内に発症者がいた。この検体について事例1と同様にウイルス検査を行ったところ、リアルタイムRT-PCRによりAH1pdm09ウイルスが検出され、MDCK細胞によりウイルスが分離された。また、分離株はAH1pdm09ウイルスと同定された。この分離株について、感染研プロトコールに従いTaqMan RT-PCR法によりNA遺伝子上のH275Y耐性マーカーの有無を確認したところ、耐性変異は認められなかった(275H)。

当所における昨シーズンのインフルエンザウイルスの検出状況は、ウイルスが検出された168件中、AH3ウイルスが146件(86.9%)、AH1pdm09ウイルスが6件(3.6%)、B型ウイルスが16件(9.5%)であった(AH1pdm09ウイルスの検出は、集団発生1事例からの検出のみ)。昨シーズンは全国的にAH1pdm09ウイルスの分離・検出報告は全体の0.9%と少ない状況であった2)

一方、今シーズン全国において、これまでに報告された28件のうち、AH3ウイルスが15件、AH1pdm09ウイルスが10件、B型ウイルスが3件であり、その報告地域は全国に散在している(2015年10月22日現在)3)。県内においては、第42週における定点当たり報告数は0.08(全国0.08)4)と報告数の増加はみられていないが、第36週に報告のあった事例1の社会福祉施設における集団事例をはじめ、第41~43週にかけて県央および県南地区の小中学校でも集団発生による学級閉鎖の報告があり、当所に搬入された検体からはいずれもAH3ウイルスが検出されている。

今後、本格的な流行シーズンに入るため、その動向をより注視していく必要がある。

 
参考文献
  1. NESID感染症サーベイランスシステム
  2. 今冬のインフルエンザについて(2014/15シーズン)
    http://www.niid.go.jp/niid/images/idsc/disease/influ/fludoco1415.pdf
  3. インフルエンザウイルス分離・検出情報
    http://www.niid.go.jp/niid/ja/flu-m/1974-idsc/iasr-flu/5925-iasr-influ20150910.html
  4. 茨城県感染症情報センター
    http://www.pref.ibaraki.jp/hokenfukushi/eiken/idwr/index.html
 
茨城県衛生研究所
  土井育子 黒澤美穂 梅澤昌弘 後藤慶子 本谷 匠 永田紀子 高村浩亮
 茨城県感染症情報センター
  渡邉美樹 深澤亜季子 藤島和則 高木 英
 茨城県竜ヶ崎保健所
  松本綾香 武藤章代 茂手木甲壽夫
 

 

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