国立感染症研究所 感染症危機管理研究センター
実地疫学研究センター

2023年11月24日時点
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概要

  •    2023年11月22日に中国北京市、遼寧省で小児を中心に肺炎像を伴う呼吸器感染症の増加がメディアで報じられた。
  •    報道では病原体診断についての言及がないものの、中国全土でマイコプラズマ肺炎、インフルエンザなどの呼吸器感染症が増加していると以前より報道されている。
  •    WHOは中国当局との会談を実施し、既知の病原体による呼吸器感染症によるものとして矛盾はないとしている一方で、今後冬季に入ることでさらに感染者が増加する可能性を指摘している。

 

中国における原因不明の呼吸器感染症の発生状況

  •    2023年11月22日未明に国際感染症学会の主催する感染症情報共有サービスであるPromed mailが中国北京市、遼寧省などで小児の呼吸器感染症が増加し、外来診療が圧迫されているとのメディアの報道を取り上げたi。本記事では、北京や遼寧省の小児病院の外来が混雑していること、発熱はあるものの咳はなく、胸部X線検査で陰影がみられることを指摘しており、また教員の罹患があり学校での曝露があったことを報じているが、病原体診断に関する記述はなかったii。Promed mailではこれに加え、北京と遼寧省が800km程度離れていることから、より広い地域で発生している可能性について言及したi
    本件に関連して、中国政府や北京市政府から、原因不明の肺炎が発生及び流行している旨の公式発表はない。一方で、北京市疾病予防・管理センター(北京市CDC)、遼寧省政府は現在インフルエンザ、マイコプラズマ肺炎、ライノウイルス、RSウイルスなど複数の呼吸器感染症が地域の小児で流行していることを発表しているiii,iv
    また、11月23日にWHOは中国国家衛生委員会、中国国家疾病管理予防管理総局(中国CDC)、北京小児病院と会談を行い、この中で中国は2023年5月以降マイコプラズマ肺炎、10月以降インフルエンザ、RSウイルス、アデノウイルスの各感染症が小児で流行し、外来、入院共に患者が増加しているが、COVID-19による感染対策が解除されたことの影響と想定され予想外の事態ではないこと、現時点で新規の感染症や異常な臨床症状の報告はなく、既知の感染症によるものとして矛盾はしないと報告しているv

 

中国における既知の病原体による呼吸器感染症の発生状況

  •    複数のメディアが、中国では2023年5月以降マイコプラズマ肺炎の患者が増加し始め、8月から9月以降に急速に患者数が増加し、特に6歳以下の小児で多く発生していると報道しているvi,vii,viii。過去の報告では北京市では8月から翌年1月にかけて流行し、10月頃にピークを迎え、また5歳から14歳の小児での陽性率が高いとしておりix、今回の流行状況と矛盾しない。
    なお、中国においては、これまで肺炎マイコプラズマのうちマクロライド系抗菌薬に耐性を示すものの割合が高いことが知られておりx、北京市CDCによると、2023年に報告されている肺炎マイコプラズマにおいても、遺伝子変異により、アジスロマイシンに対して一定の薬剤耐性を持つ可能性が指摘されているxi
    また、中国CDCによるインフルエンザ様疾患(ILI)サーベイランスでは、2023年10月初旬から中国北部でのILIの定点当たり報告数が増加しており、またインフルエンザウイルスの亜型検出状況ではA(H3N2)の検出数が増加しているxii。また、報道ベースであるが、北京市CDCは、11月21日に記者ブリーフィングを行っており、マイコプラズマ肺炎の報告数は減少しており、ILIのうち40.75%でインフルエンザウイルスが検出されており、次いでライノウイルス、RSウイルスの検出が多いとしているiii

 

リスク評価と対応

  •    WHOは現在の呼吸器感染症の発生について、呼吸器感染症に共通する症状であり、現在の中国の情報からはマイコプラズマを含む既知の病原体によって引き起こされているとしている一方で、今後冬季に入ることで呼吸器疾患が増加し、今後の医療施設の負荷が増大することが懸念されるとしているv
    一方で、現時点では情報は限られており、今後の中国での呼吸器感染症の発生状況、病原体の検出状況を注視する必要がある。
    また、国内においてもインフルエンザの発生が続いていること、中国同様に冬季に入ることから、引き続き呼吸器感染症に対する一般的な感染対策が推奨される。

参考文献

 

注意事項

迅速な情報共有を目的とした資料であり、内容や見解は情勢の変化によって変わる可能性がある。  

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