 注目すべき感染症
◆ 手足口病
手足口病(hand, foot, and mouth disease:HFMD)は、口腔粘膜および手や足などに現れる水疱性の発疹を主症状とした急性ウイルス性感染症であり、乳幼児を中心として夏季に流行する疾患である。手足口病の病原ウイルスは主にコクサッキーA16(CA16)、エンテロウイルス71(EV71)であり、その他コクサッキーA6(CA6)やコクサッキーA10(CA10)などによっても発症する。基本的には数日間の内に治癒する予後良好の疾患であるとされている。しかし稀ではあるが、特にEV71の流行時に髄膜炎、小脳失調症、脳炎などの中枢神経系の合併症などのほか、急性弛緩性麻痺などのさまざまな臨床症状を呈するケースが見られる。
手足口病の感染経路は飛沫感染、接触感染、糞口感染であり、保育園や幼稚園などの乳幼児の集団生活施設においての感染予防は手洗いの励行と排泄物の適正な処理が基本となる。手足口病の病原ウイルスに感染しても全員が典型的な症状を呈するものではなく、不顕性感染例も存在することから、発症して診断された者を隔離しても効果的な対策とはならないと考えるべきである。同様に、主要症状が回復した後も比較的長期間に渡って児の便などからウイルスが排泄されることもあり、回復した児に対して長期間の欠席を求めることは現実的ではない。
過去5年間に検出されたウイルスは年によって異なり、2008年はCA16、2010年にはEV71が流行した。また、2009年と、大きな流行のあった2011年はCA6の検出がみられた。2013年に手足口病と診断された患者から最も多く検出されているのはCA6であり、ウイルス検出報告631件中、CA6が284件(45.0%)と半数近くを占めている(2013年8月21日現在)(図1)。CA6による手足口病の臨床的特徴として、典型的な発症例と比べて発疹が大きく、四肢末端に限局せずに広範囲に認められる症例に関する情報が昨年より寄せられていた。本年も、当初は水痘を疑って小児集中治療室(PICU)で対策を取った例が、実はCA6による手足口病であった例が報告されている(http://www.niid.go.jp/niid/ja/hfmd-m/hfmd-iasrd/3686-pr4014.html)
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図1. 手足口病由来ウイルス分離・検出報告割合(2008~2013年第33週) |
図2. 手足口病の年別・週別発生状況(2003~2013年第33週) |
図3. 手足口病の都道府県別定点当たり報告数の推移(2013年第30~33週) |
感染症発生動向調査では、全国約3,000カ所の小児科定点からの報告に基づいて手足口病をはじめとする各種小児科疾患の発生動向を分析している。本年の手足口病における流行のピークは第30週で定点当たり報告数8.83(報告数27,773)であった。前年のピークであった第31週の定点当たり報告数1.19よりかなり多く、現時点では過去10年間では2011年に次ぐ規模である。2013年第33週の手足口病の定点当たり報告数は5.23(報告数15,574)と3週連続して減少したが、過去10年間で最多の報告数である(図2)。都道府県別では新潟県(14.3)、福島県(10.0)、長野県(9.1)、山梨県(8.7)、静岡県(7.6)、福井県(7.5)、三重県(7.4)、香川県(7.3)、岩手県(7.3)の順である。全国的に減少傾向であるが、東北地方は増加傾向が認められる(図3)。2013年第1~33週の定点当たり累積報告数は64.4(累積報告数201,883)であり、年齢群別では0~1歳の報告割合が43.8%、2~3歳が33.0%と、3歳までが全報告の75%以上を占めている。
2013年の手足口病の流行は第30週にピークを示し、第33週の時点で減少傾向である。しかし、これまでの同時期と比較して患者報告数の多い状態が続いており、増加傾向を示している地域もある。手足口病の起因病原体の中で重症化の頻度が高いEV71を含め、手足口病の発生動向には今後とも注意深い観察が必要である。
国立感染症研究所感染症疫学センター 高橋琢理 砂川富正 藤本嗣人 大石和徳
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