注目すべき感染症 ※PDF版よりピックアップして掲載しています。
手足口病(hand, foot, and mouth disease:HFMD)は、口腔粘膜および手や足などに現れる水疱性の発疹を主症状とする急性ウイルス性感染症であり、乳幼児を中心に夏季に流行する。近年、わが国の手足口病の病原ウイルスはコクサッキーウイルスA16(CA16)、A6(CA6)、A10(CA10)、エンテロウイルス71(EV71)などであり、コクサッキーウイルスBやエコーウイルスなどによっても引き起こされることがあるとされる。基本的には数日の内に治癒する予後良好の疾患であり、不顕性感染例も存在する。しかしときに髄膜炎、稀ではあるが小脳失調症、脳炎などの中枢神経系の合併症など多彩な臨床症状を呈することがある。感染経路は主として接触感染と飛沫感染である。手足口病に対しては特異的な治療法はなく、対症療法が行われる。手足口病の予防策としては、手洗いの励行と排泄物の適正な処理が基本である。水疱内容には感染性のあるウイルスが含まれているため、患者との濃厚な接触は避けるべきである。
手足口病は、感染症発生動向調査において全国約3,000カ所の小児科定点医療機関が週単位での届出を求められる5類感染症の一つである(手足口病の届出基準:https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-20.html)。小児科定点からの報告に基づくため、成人における動向は不明である。2018年は、第19週以降第28週にかけて定点当たり報告数は継続して増加した(https://www.niid.go.jp/niid/ja/10/2096-weeklygraph/1649-06hfmd.html)。第29週(2018年7月16〜22日)には定点当たり報告数は1.87(報告数5,898例:2018年7月25日現在)となり、第28週の定点当たり報告数2.09と比較し微減した。地域別では、第19〜29週までは、定点当たり報告数上位3位の都道府県は全て九州地方を中心とした西日本で、この期間の週毎の上位3位は、宮崎県、鹿児島県、大分県、福岡県、徳島県のいずれかであった。定点当たり報告数の上位1位の都道府県は第19〜22週まで宮崎県で、第23週以降は大分県であった。第27週の定点当たり報告数上位3位は、大分県、宮崎県、福岡県、第28週の同上位3位は、大分県、宮崎県、徳島県、第29週の同上位3位は、大分県(7.75)、宮崎県(6.97)、徳島県(6.61)の順であった。第19〜25週までの定点当たり報告数上位5位は全て九州地方の報告であったが、第27週を除いて第26週以降山口県、徳島県、群馬県が上位5位に入っており、四国以北の報告が増加している。年齢群別では、2018年第20〜29週(累積報告数42,089例)では、男女共に1歳(25.6%)、2歳(22.1%)が大半を占めたが、昨年同時期より1歳の割合が減少した。性別は男児が54%とやや多かった。
近年、小児科定点における手足口病の報告数は、年によって大きく異なり、2011年、2013年、2015年、2017年は報告数が多い年であった(https://www.niid.go.jp/niid/ja/10/2096-weeklygraph/1649-06hfmd.html)。また、手足口病の患者から検出されたウイルスも年によって異なる。過去5年間で主に検出されたウイルスは、2013年はCA6およびEV71、2014年はCA16およびEV71、2015年はCA6およびCA16、2016年はCA6およびCA16、2017年はCA6およびEV71であった。2011年以降、報告数の多い年は、いずれもCA6が大半を占めていた。2018年に最も多く検出されているウイルスはEV71であり、ウイルス検出報告234件中、EV71が113件(48%)を占めている(2018年7月25日現在、手足口病由来ウイルス、年別2014〜2018年:https://www.niid.go.jp/niid/ja/iasr/510-surveillance/iasr/graphs/1532-iasrgv.html)。EV71は、手足口病の病原体として3〜4年ごとに全国的な流行を引き起こし、中枢神経疾患に関与する頻度が高いことが知られており、手足口病の流行期にEV71が検出された場合には、無菌性髄膜炎を含む中枢神経疾患の発生に注意を払う必要がある。無菌性髄膜炎患者から検出されたEV71の報告数は、2015〜2016年と比較して、2017年以降増加した(2018年7月25日現在、無菌性髄膜炎由来ウイルス、年別2014〜2018年:https://www.niid.go.jp/niid/ja/iasr/510-surveillance/iasr/graphs/1532-iasrgv.html)。
手足口病は、学校保健安全法において、「学校において予防すべき感染症」として個別に規定はされておらず、流行の阻止を目的とする登校(園)停止は有効性が低く、不顕性感染や症状がなくなってからのウイルス排出期間が長いことからも現実的ではないと考えられている(https://www.gakkohoken.jp/books/archives/211)。患児の状態が安定していれば、登校(園)は可能であるが、症状が消失した後も2〜4週間にわたり児の便からはウイルスが排泄される。流行期の保育園や幼稚園などの乳幼児施設においては、手洗いの励行と排泄物の適正な処理、またタオルや遊具(おもちゃ等)を共用しないなどが感染予防対策となる。
2018年第1〜29週の手足口病の報告数は過去5年間の同時期の平均を下回っているものの、手足口病患者から分離・検出されたウイルスの約半数がEV71であり、無菌性髄膜炎などの中枢神経症状も含めた発生動向に注視し、各関係機関において感染予防対策を講じる必要がある。
手足口病の感染症発生動向調査に関する詳細な情報と最新の状況については、以下を参照いただきたい:
●手足口病とは
国立感染症研究所 感染症疫学センター |