国立感染症研究所

logo40

白菜浅漬による腸管出血性大腸菌O157食中毒事例について-札幌市

(IASR Vol. 34 p. 126: 2013年5月号)

 

2012年8月、札幌市を中心として白菜浅漬による腸管出血性大腸菌O157:H7 (VT1&2 、以下O157)食中毒が発生したのでその概要を報告する。

1.事件の概要 
2012年8月7日、札幌市内の医療機関より「高齢者施設Aの入所者7名が下痢、腹痛などの症状を呈している」との連絡があった。

調査の結果、札幌市管轄高齢者施設6カ所、北海道管轄高齢者施設5カ所において同様の症状を呈する入所者がいることが判明した。これら11施設には札幌市内のB食品が製造した「白菜きりづけ」(消費期限2012.8.2~8.4)が共通食として提供されていた。そこで、有症者便と「白菜きりづけ」保存品の細菌検査を実施したところ、共通してO157が検出された。これにより「白菜きりづけ」を原因食品、O157を病因物質とする食中毒であると断定した。当該食品は高齢者施設以外に北海道内のホテル、飲食店、食品スーパーなどへ広く流通していたため、患者は札幌市を中心に広範囲な地域で発生し、最終的に食中毒認定患者数は169名となった。食中毒認定患者数の内訳を表1に示す。 

2.患者認定 
以下の条件で患者認定を行った。(1)下痢、血便などの症状を呈していること、(2)検便検査でO157(VT1&2 )が分離されていること、(3)原因食品の「白菜きりづけ」を喫食していること、(4)喫食から発症までの潜伏期間が14日以内であること、を原則とし、その他個別の事例に応じて遺伝子検査や疫学調査等から総合的に判断した。

3.O157菌株分離および遺伝子検査
認定患者169名中、同一グループで複数の患者がいる場合は全員の検便検査を実施しなかった場合があること、北海道外の患者は所属自治体で検査を行ったこと等から実際に札幌市および北海道で行われた検便検査にてO157を分離したのは73名(73株)であった。また、「白菜きりづけ」提供先に残っていた保存品20品の検査を実施したところ、3品からO157を検出した。便から分離した73株と「白菜きりづけ」から分離した菌株についてIS-printing system法(TOYOBO、以下IS法)による遺伝子検査を実施した。IS法は1st set Primer Mixと2nd set Primer Mix の2種類のプライマーミックスによるマルチプレックスPCR により36本の増幅バンドの有無を確認する検査法である。得られた増幅バンド有:1、無:0と表示した結果を表2に示す。IS法の結果は検査した76株すべて同一のバンドパターンとなった。また1st set Primer Mix によるPCR の結果、バンドの有無を確認するIS領域以外の100 bp付近に増幅バンドが形成されたのが今回の「白菜きりづけ」関連分離株の特徴であった(本号5ページ参照)。また、76株のパルスフィールド・ゲル電気泳動法(以下PFGE法)による解析パターンは、感染研Type No. h94が73株、h94と1バンド違いが2株、3バンド違いが1株であり、76株すべて同一由来株であると推定できる結果であった。

4.考 察
本事例は原因食品が広い地域に流通していたため、札幌市を中心とした広範囲な地域から患者発生があった。IS法は76株すべて同一のパターンとなり、これらが同じ感染源からの患者であることが推測できた。また、IS法とPFGE法の結果もほぼ一致したことから、迅速に結果の得られるIS法はO157食中毒の疫学調査の有効な手段になりうると思われる。

 

札幌市衛生研究所
    坂本裕美子 廣地 敬 大西麻実 伊藤はるみ 高橋広夫
札幌市保健所
    宮北佳恵 細海伸仁 片岡郁夫
北海道立衛生研究所
    久保亜希子 池田徹也 小川恵子 長瀬敏之 森本 洋 清水俊一
国立感染症研究所
    伊豫田 淳 寺嶋 淳

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

Top Desktop version