(IASR Vol. 34 p. 127-128: 2013年5月号)
2012年8月、北海道で高齢者施設を中心とした腸管出血性大腸菌O157:H7(VT1&2)の集団感染事例が発生し、原因食品と断定された白菜浅漬(「白菜きりづけ」)を提供していたホテル等の宿泊客にも感染が拡大することとなった(本号4ページ参照)。同時期に北海道以外の都道府県から北海道を訪れて感染したと疑われる事例がいくつか発生した。これらの事例の関連性について、分離菌株を対象にIS-printing systemを用いて解析を行った結果について報告する。
川崎市内のA病院にて腹痛および血便を呈した患者からO157:H7(VT1&2)が分離され、川崎市衛生研究所(現・川崎市健康安全研究所)に菌株が搬入された。この患者は2012年8月1~4日に北海道を訪れ、8月1日の昼食に飲食店で「白菜きりづけ」を喫食していた(8月5日発症)。北海道立衛生研究所へ問い合わせを行ったところ、北海道での集団発生由来O157:H7株のIS-printingパターンは表の通りで、川崎市分離株のものと一致することが判明した。これらの情報とともに、川崎市分離株が国立感染症研究所(感染研)・細菌第一部に送付された。これとほぼ同じ時期に、山形県で分離された北海道訪問者(8月6日発症)から分離されたO157:H7の菌株解析依頼が感染研・細菌第一部にあったため、川崎市分離株を参照に山形県分離株についてIS-printingを実施した。その結果、山形県分離株のIS-printingパターンは、川崎市分離株および北海道集団事例分離株のものと一致することが判明した(図)。大腸菌O157の型別に用いられるIS-printingは2種類(セット1および2)のマルチプレックスPCRによって得られる合計36本のPCR産物について、スタンダード(1および2)に存在する各バンドの有無のパターンによって型別を行うシステムである。本事例で、川崎市分離株および山形県分離株をプライマーセット1で解析したところ、スタンダード1には存在しない約100 bp付近のPCR産物(エキストラバンド)が得られることが判明し、このエキストラバンドは北海道の集団事例由来株にも存在することが確認された。その後、東京都[2株:1株は8月5日発症者由来、他の1株はその同行者(無症状者)由来]、横浜市(1株:8月11日発症者由来)、奈良県[1株:発症者の母親(無症状者)由来]で分離された北海道訪問者由来のO157:H7株(計6株)はすべてこのエキストラバンドを含む同一IS-printingパターンであることが明らかとなり、同一集団事例関連株であることが明らかとなった(図)。一方、同時期に北海道を訪問していた大阪府の患者2名(8月17日および19日発症)由来のO157:H7(VT1&2)からの分離株はいずれも異なるIS-printingパターンであることが明らかとなった。その後のパルスフィールド・ゲル電気泳動による分離株の解析から、上記のIS-printingによる解析結果が確認された。
今回の解析から、O157の型別に用いられているIS-printingは、スタンダードに含まれていないエキストラバンドであっても、明瞭なPCR産物が得られる場合には、IS-printingパターンの情報として重要であることが確認された。今後、IS-printingを行った場合にエキストラバンドが確認された場合には、それらのサイズ等について記載しておくことは、解析情報として有用であると考えられる。なお、IS-printingパターンのデータベースについては感染研・細菌第一部で構築しつつあり、現在試験稼働中である。今後、広域発生しているO157の集団発生の検出等に広く活用されることが期待される。
川崎市健康安全研究所・消化器・食品細菌担当 小嶋由香 佐藤弘康
北海道立衛生研究所・細菌グループ 池田徹也
山形県衛生研究所・微生物部 瀬戸順次 鈴木 裕
東京都健康安全研究センター・微生物部 小西典子 齊木 大
横浜市衛生研究所・検査研究課 松本裕子
奈良県保健研究センター・細菌担当 田辺純子
札幌市衛生研究所・保健科学課 坂本裕美子
大阪府立公衆衛生研究所・細菌課 勢戸和子
国立感染症研究所・細菌第一部 伊豫田 淳 寺嶋 淳 大西 真