(IASR Vol. 34 p. 134-135: 2013年5月号)
2012年7月、倉敷市内の3つの保育園において、腸管出血性大腸菌(EHEC)O26:H11(VT1)による集団感染事例が発生したので報告する。
2012年7月31日~8月3日にかけて、医療機関から倉敷市保健所に5名のEHEC O26感染患者発生届があった。患者は、倉敷市内のA、B、Cの3保育園に通う園児であり、これらの保育園は、A園を本園とし、B、C園を分園とする近隣の保育園であった。保健所は、感染拡大防止のため、直ちに園へ消毒、健康観察の強化、プールの中止等を依頼した。また、ここでの給食は、A園の調理施設で調理されたものをB、C園に配送しているため、食中毒の可能性を考慮し、調理施設への立入りと給食の検食および施設等ふきとり検査を実施したが、すべて陰性であり、調理員全員の検便の結果も陰性であった。さらに、3園合同行事の開催があったなどの情報もあり、初動調査において疑われる感染源が複数存在したため特定はできなかった。3園での感染拡大が懸念されたため、全園児265名、全職員65名を対象に健康調査と検便を実施することとした。さらに、陽性の判明した園児の家族(最終的には208名)も調査・検便の対象とした。
保健所が行った遡り健康調査によると、何らかの腹部症状があった園児・職員は、図1に示すように7月27日をピークとしており、感染源としては、7月18~25日にかけて3園で共通とされるものが疑われた。行政検便により陽性が判明したのは、最終的には、園児77名、職員7名(いずれも3園合計)であり、患者家族では14名となった。医療機関からの届出数を加えると全患者数は105名となり、3園の内訳は表1のとおりである。本事例で分離されたEHEC菌株の一部についてパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)を実施した結果、すべての株が同一パターンを示した(図2)。
陽性者105名の腹部症状は、血便は医療機関からの届出者1名のみで、下痢43名、軟便20名、腹痛2名、無症状39名と、症状が比較的軽いというO26感染者の特徴を示していた。
感染症の専門家、小児科専門医、疫学の専門家、倉敷市連合医師会等を構成委員とした「専門家会議」を2回開催し、保健所で収集したデータをもとに、(1)感染源については、断定はできないが給食の可能性が高く、その後人から人への二次感染によって感染が拡大した、(2)終息の判断条件としては、最後の患者発生以降、一般的な潜伏期間を過ぎて新たな患者の発生がないこと、という提言を受け、本事例は9月5日に終息と判断した。
本事例の調査において、保護者が日常の登園時に提出する「健康チェック」と改めて実施した保健所の健康調査の結果に隔たりがあることがわかり、園児の健康状態が正確に園に伝えられていない状況にあることがわかった。O26による感染患者の症状は軽度であり、感染した児童が保育士等に気づかれず、施設の衛生管理にもその性質上限界があるため、感染が拡大したものと示唆された。専門家会議においても、今後の再発防止対策として、(1)給食や保育施設の衛生管理の徹底、(2)園として、平常時の発生状況を把握し、集団発生を早期に察知する体制を整えること、(3)保護者へ園児の健康状況を正しく伝えるよう周知啓発を行うことが提言された。
謝辞:本事例の便検査にご協力をいただきました岡山県備前保健所検査課、岡山市保健所検査課各位にお礼申し上げます。
倉敷市保健所衛生検査課
杉村一彦 下川義則 小川芳弘 橋本眞里子 三山真吾
倉敷市保健所保健課
檜垣みちよ 末竹須美子 花田愛子 中澤愛美
倉敷市保健所
田中知徳 吉岡明彦