国立感染症研究所

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保育園で発生した腸管出血性大腸菌O103とO111の集団感染事例―新潟県

(IASR Vol. 34 p. 135: 2013年5月号)

 

2012年9月5日、医療機関から新津保健所に腸管出血性大腸菌感染症(O103)患者1名の発生届があった。患者(初発、6歳保育園児)は下痢等の症状を訴え医療機関を受診していた。新津保健所は初発患者家族の健康調査と検便を実施したところ、患者と同じ保育園に通う妹(3歳)から腸管出血性大腸菌(以下、EHEC)O103が検出された。さらに、9月10日、初発患者と同じ保育園に通う園児(3歳)が下痢等の症状を訴えて医療機関を受診したところ、腸管出血性大腸菌感染症(O103)と診断された。このため、新津保健所は2例目の患者家族の健康調査と検便を実施するとともに、同保育園の園児62名および職員18名についても健康調査と検便を実施した。最終的に、O103:H−(VT1)が患者2名(初発、2例目)、園児24名、職員1名、初発患者妹(園児)1名、園児姉(小学生)1名から検出され、そのうち園児9名が有症者だった。また、O111:H−(VT1)が園児(無症状)2名から検出された。EHEC陽性者は初発患者、初発患者妹、2例目患者のクラス以外でもみられた。有症者9名の症状はいずれも腹痛や水様性下痢等と軽症であり、血便などの症状はみられなかった。

園児、職員、患者家族の検便は新発田保健所で実施した。培養は直接培養と増菌培養を実施した。直接培養の分離培地はクロモアガーSTEC、CT-SMAC およびDHLを使用した。増菌培養はノボビオシン加mEC 培地で42℃、一晩培養後、各分離培地に塗抹した。分離培地上のEHECが疑われるコロニーを釣菌し、Vero毒素産生試験(イムノクロマト法)と血清型別を実施した。Vero毒素陽性株については性状確認を実施し、大腸菌であることを確認した。なお、クロモアガーSTEC上で典型的なEHECのコロニーでありながら、Vero毒素陰性になった検体については分離培地の濃厚発育部分をかき取り、再度毒素産生試験を実施し、Vero毒素陽性検体は分離培地に再分離し、Vero毒素陽性株の検索を実施した。この方法で1検体が陽性になった。

新発田保健所の検査でEHECが検出された28検体のうち、5検体は増菌培養のみでEHECが検出された。また、本事例では調査途中でEHEC O111が検出されたことからO103以外の血清型EHECの検出も念頭に置く必要があった。そのため、幅広い血清型のEHECを分離できるクロモアガーSTECは有効だった。一方、クロモアガーSTEC上で典型的なEHECのコロニーであるがVero毒素非産生の大腸菌が4人から分離されたため、慎重に検査を行う必要性があった。

本事例で検出された30株は国立感染症研究所(以下、感染研)において制限酵素XbaIを用いたパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)解析が行われた。O103:H−28株のうち25株は同一パターンを示し、3株はバンド1本または2本の差異だった。O111:H−2株の差異はバンド1本だった。また、代表株11株についてPFGE解析を当研究所で実施したところ、感染研と同様の結果が得られた(図1)。

疫学調査やPFGE解析の結果から、本事例では保育園内において感染が拡大したものと考えられた。また、発症の状況等から、保育園の給食が原因ではないと判断したが、O103とO111の2種類の血清型の菌が検出された理由および感染経路は特定することができなかった。

 

新潟県保健環境科学研究所 細谷美佳子 川瀬雅雄
新潟県新津保健所 野崎俊江
新潟県新発田保健所 昆 美也子 加藤美和子

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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