国立感染症研究所

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水たまりからのレジオネラ属菌の検出状況―富山県

(IASR Vol. 34 p. 163-164: 2013年6月号)

 

富山県のレジオネラ症患者は年間約20~30人が報告され、患者から分離される菌の90%以上はLegionella pneumophila血清群(SG)1である。富山県内におけるこれまでの調査で、遺伝子解析から浴用施設以外が感染源と疑われる患者由来株が複数分離されている1)。近年アスファルト道路の水たまりからL. pneumophila SG1 が分離され2)、感染源となりうる環境であるとわかったが、患者由来株と水たまり由来株との遺伝的な関係は調査されていない。そこで、レジオネラ症の感染源として水たまりの可能性を検討するため、富山県内のアスファルト道路の水たまりの水からレジオネラ属菌を分離し、患者由来株との遺伝的関係を調査した。

2010~2012年にかけて、雨天の当日あるいは翌日に、県内27カ所のアスファルト道路の水たまりから134検体(各150 mL)を採水した。フィルターろ過濃縮後、GVPC培地でレジオネラ属菌を分離し、血清型別を行った。L. pneumophila SG1については、臨床分離株との遺伝的関係を調べるため、European Working Group for Legionella Infections(EWGLI、http://www.hpa- bioinformatics.org.uk/legionella/legionella_sbt/php/sbt_homepage.php)の提唱するsequence-based typing(SBT)を行った。

水たまりからのレジオネラ属菌の検出率は40.3%(54/134検体)であった。地域による検出率に偏りはみられず、レジオネラ属菌は県内全体から検出された()。陽性であった54検体の菌数は、10~99 CFU/100 mLが34検体、 100~999 CFU/100 mLが18検体、1,000 CFU/100 mL以上が2検体であった。気温18℃を基準にみると、検出率は18℃以上の時(40.0%、24/60検体)と18℃未満の時(40.5%、30/74 検体)で有意差はなかったが(χ2 検定、P>0.05)、菌数の幾何平均±SD(log10 CFU/100 mL)は2.02±0.74(18℃以上)と1.65±0.44(18℃未満)となり、気温が高い時の方が有意に高かった(t検定、P<0.05)。日本における月別のレジオネラ症患者報告数は梅雨時の7月に最も多く3)、相対湿度と患者報告数に相関があると報告されていることから4)、この原因として水たまりが関連している可能性が考えられた。

54検体の水たまりから分離されたレジオネラ属菌401株について血清型別を行った結果、臨床分離株の90%以上を占めるL. pneumophila SG1が31検体から82株(20.4%)分離され、最も多かった。82株のL. pneumophila SG1は、SBTによって44種類の遺伝子型(ST)に分類された。このうち、ST48とST120がそれぞれ8株分離され、最も多かった。前川らの調査によると、ST48は土壌からも最も多く分離される遺伝子型である5)。しかしながら、水たまりから分離された44種類のSTのうち、土壌と共通のSTは2種類(ST22、ST48)のみであったことから、これらの生息環境における菌株の比較についてはさらなる詳細な調査が必要である。

一方、ST120は我々の知る限り、これまで患者から分離された報告しかなく、EWGLIの構築したデータベースにもST120の環境分離株は登録されていない。したがって、我々の調査で初めて環境検体(水たまり)からST120の株が分離された6)。ST120は、日本国内における臨床分離株の5.3%を占める遺伝子型である(本号7ページ参照)。しかしながら現段階では、水たまりから発生したエアロゾルに含まれるレジオネラ属菌が直接人に感染しているかどうかはわからない。近年の調査では、自動車のウォッシャー液に水を使用して運転している人は、専用のウォッシャー液を使用して運転している人と比較して有意にレジオネラ肺炎の発生リスクが高く7)、実際に水を投入しているウォッシャー液からL. pneumophila SG1が分離された8)。したがって、水たまりに含まれるL. pneumophila SG1がこれらの装置を汚染し、間接的に感染源となっている可能性は否定できない。本調査によって、水たまりは環境分離株としてこれまで報告のなかった遺伝子型(ST120)のL. pneumophila SG1を保有している環境検体であることは明らかとなったが、実際に水たまりに含まれるレジオネラ属菌が直接・間接的に人に感染しているかどうかについては、今後さらなる調査が必要である。

 

参考文献
1) Kanatani JI, et al., J Infect Chemother 2012 Epub, ahead of print
2) Sakamoto R, et al., Emerg Infect Dis 15: 1295-1297, 2009
3) IASR 29: 327-328, 2008
4) IASR 29: 331-332, 2008
5) Amemura-Maekawa J, et al., Appl Environ Microbiol 78: 4263-4270, 2012
6) Kanatani JI, et al., Appl Environ Microbiol 2013 Epub, ahead of print
7) Wallensten A, et al., Eur J Epidemiol 25: 661-665, 2010
8) Palmer ME, et al., Eur J Epidemiol 27: 667, 2012

 

富山県衛生研究所細菌部
  金谷潤一 磯部順子 木全恵子 嶋 智子 清水美和子 佐多徹太郎 綿引正則
国立感染症研究所細菌第一部
    前川純子 倉 文明

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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