(IASR Vol. 34 p. 164-165: 2013年6月号)
県下で分離された患者由来株のうち、L. pneumophila血清群(SG)3sequence type (ST)93は国内の他地域ではまだ検出されていないことから、感染源の究明や環境中での本菌の分布を把握する目的で疫学調査を実施しており、現在までの経過を報告する。
1.調査方法
レジオネラ症患者由来株は、2007(平成19)~2012(平成24)年に県内の医療機関で分離された26株を使用した。浴槽水等由来株は、2008(平成20)~2012(平成24)年に当センター、保健所検査課、衛生検査所で分離されたレジオネラ属菌のうち、L. pneumophila SG3に同定・血清群別された71株を用いた。
菌株相互の関連性を検討するため、sequence-based typing(SBT)法による型別を国立感染症研究所(感染研)で実施し、STを決定した。パルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)法による解析は、常らの改良プロトコールによる2日間の方法(IASR 29: 333-334, 2008)を用い、当センターで実施した。
2.調査結果
(1)患者由来株の性状:患者由来株26株はすべてL. pneumophilaであり、SG1が16株、SG2が1株、SG3が8株、SG10が1株であった(表1)。患者の症状は、SG1に感染した患者では、発熱、咳嗽、頭痛、下痢などの症状以外に、呼吸困難、意識障害、肺炎などの重症例が多くみられた。これに対し、SG3の感染患者では比較的症状の軽いケースが多く、また、SGによらず糖尿病を基礎疾患に持つ患者では、死亡例がみられた。SBT法によりSG1の株は多種類のSTに分類されたが、SG3の8株はすべてST93に型別され、PFGE法を実施した7株は同一のパターンを示した。
(2)浴槽水等由来株の性状:浴槽水等から分離したL. pneumophila SG3 71株について、分子疫学解析により患者株との関連性を検討した。SBT 法は患者株8株および浴槽水由来の7株について行い、PFGE法は患者株7株および浴槽水等由来株71株について実施した。その結果を、表2に示した。
SBT法を実施した浴槽水由来の7株は、STおよびPFGEパターンとも患者株と異なっていた。同じSTの株ではPFGEパターンも同一であり、ST1137、PFGE:11bの1株とST1138、PFGE:11aの3株は、STの新規遺伝子型であった。浴槽水等由来71株のPFGEパターンは25パターンに分類され、同時期に同一施設で複数の検体から分離された株は、同じPFGEパターンを示す傾向がみられた。また、71株すべてのPFGEパターンは、患者由来株のパターンと異なっていた。
3.考 察
県内では、2010(平成22)~2012(平成24)年に85名のレジオネラ症患者が報告されており、原因菌はL. pneumophila SG1が最も多く、多くは尿中抗原検査により診断されている。当センターが平成19年より収集した患者由来株はすべてL. pneumophilaで、最も検出頻度の高かったのはSG1(16株)、次いでSG3(8株)、SG2およびSG10(各1株)の順であった。患者株のSBT法による解析結果では、L. pneumophila SG1が多種類のSTに型別されたのに対し、L. pneumophila SG3は8株すべてがST93でPFGEパターンも一致しており、同一菌による感染の可能性が示された。L. pneumophila SG3、ST93は、検出された地域が現在までのところ本県下に限定されており、県内に特有の感染源が存在する可能性も考えられた。本菌による患者は、平成20~24年度にわたり発生していることから、感染源の究明が急がれる。感染研ではST93以外のL. pneumophila SG3を3株保存しており、2例の溺水事故を含め、すべて温泉が感染源として確定あるいは推定されたが、平成18年以降ST93以外の報告はない状況である。ST93の感染源は有効な疫学上の特徴がみられなかったため、さらに詳細な調査を継続して実施していく必要がある。また、本県で分離されたL. pneumophila SG3、ST93感染患者の症状はL. pneumophila SG1に比べ軽症であったが、ST93を含めL. pneumophila SG3感染患者全体の症状の特徴づけも必要と考える。
岡山県環境保健センター 中嶋 洋 大畠律子 河合央博
国立感染症研究所 前川純子 倉 文明
倉敷中央病院 藤井寛之
川崎医科大学附属病院 黒川幸徳
岡山市保健所 船橋圭輔
倉敷市保健所 田中知徳 吉岡明彦
岡山県健康づくり財団 宮井泰三