レジオネラ生菌の迅速検査
(IASR Vol. 34 p. 165-167: 2013年6月号)
浴槽水等を対象としたレジオネラ属菌検査は、濃縮検水を平板培地上に塗布し、発育したレジオネラ集落数を計測する平板培養法により行われる。レジオネラ属菌は発育が遅く、初代分離に3~6日、確認培養にさらに2~3日を要することから、汚染状況を早期に把握できる迅速検査法の開発が望まれていた。
濃縮検水から直接レジオネラ遺伝子を検出する遺伝子検査法(LAMP法およびリアルタイムPCR法)は、検査開始から数時間で結果が得られるため、患者発生時の原因究明や汚染洗浄の確認に活用されている。しかし、これらの方法は死菌も検出するため、平板培養法と結果が対応せず、結果の解釈と活用方法に注意を要した。一方、死菌DNA をEMA (ethidium monoazide、膜損傷菌に選択的に浸透する色素)で修飾してPCR 増幅を抑制し、生菌DNAのみ選択的に検出する「EMA-qPCR法」が開発されているが1)、操作の煩雑さや、消毒で生じる膜損傷菌のEMA感受性が変化する等に課題があり、普及には至っていなかった。
我々は、生菌を選択的に検出する迅速検査法として、濃縮検体を液体培地で18時間培養後に逆転写定量PCRを行う「Liquid Culture(LC) RT-qPCR法」(LC RT法)を開発した。また、液体培養とEMA-qPCRを組み合わせることで膜損傷菌のEMA感受性等の課題を解決した「LC EMA-qPCR法」(LC EMA法)を開発し、キット化、市販された。これらの2法について、検査方法の概要と活用事例を紹介する。
LC RT-qPCR法
本法は、簡便かつ高感度な生菌測定が特徴であり、以下の方法で測定を行った。すなわち、浴槽水等の1,000倍濃縮液を酸処理後、MWY液体培地を加えて36℃18時間培養した(図1)。消毒なしなどの微生物の多い検体は、レジオネラ液体培養が競合的に抑制される場合があり、酸処理時間の延長や100倍濃縮試料の検査を同時に行うなどの対策を図った。培養前後の液体培地からそれぞれtotal RNAを簡易抽出し、Diederen2)のqPCRを改良したワンステップRT-qPCRで5S rRNAを測定し、rRNA増加量から生菌の有無と生菌数を予測した。自由生活性アメーバのAcanthamoeba castellaniiに感染、増殖したLegionella pneumophila長崎80-045株の5S rRNAコピー数は、1CFU当たり8×103コピーから18時間の液体培養後に4×105コピーに増加し、これを5S rRNA量からCFUへの換算係数とした。
培養前のrRNAコピー数から「Total Legionella(生菌+死菌数)」を、培養で増加したrRNAコピー数から「Viable Legionella(生菌数)」を算出し、培養によるCt値の低下が1以上、かつ定量値が2 CFU/100 mL以上をViable Legionella陽性とした。なお、Ct値の低下が1未満であっても定量値が2 CFU/100 mL以上の場合は偽陰性の可能性を考慮し、判定保留とした。
2012(平成24)年度に入浴施設から採取した154件の試料について、平板培養法とLC RT法を比較した。その結果、平板培養法に対するTotal Legionellaの感度は90.0%、特異度は81.9%であった。また、判定保留18件を除いたViable Legionellaの感度は83.3%、特異度は96.6%であった。平板培養法とViable Legionellaの定量値は高い相関を示し(R2=0.80)、生菌に対する特異度が極めて高いことが明らかとなった[図2(a)]。
LC EMA-qPCR 法
本法は、EMAを用いた生菌の選択的検出により、判定保留が生じない点に特徴がある。LC RT法と同様の操作で培養後の液体培地を分取し、EMAを添加して15分間静置後、15分間光照射して死菌DNAをEMAで化学修飾した(図1)。遠心沈渣からDNAを簡易熱抽出し、新規開発の16S rRNA遺伝子検出系で生菌DNAを測定した。アメーバ培養レジオネラを18時間の液体培養後にEMA処理した16S rRNA遺伝子コピー数は、1CFU当たり100コピーであり、この係数を用いてCFUに換算した。
平成24年度に入浴施設から採取した113件の試料について平板培養法とLC EMA法を比較した結果、LC EMA法のカットオフ値を5 CFU/100mlに設定した場合の感度は95.5%、特異度は75.4%であり、生菌に対する感度が極めて高いことが明らかとなった[図2(b)]。
活用事例
循環式温泉入浴施設の浴槽水(pH 8.8、遊離残留塩素0.8mg/L、ナトリウム−炭酸水素塩・塩化物泉)から20 CFU/100 mLのレジオネラ[L. pneumophila血清群(SG)9 ]が平板培養法で検出された。LC RT法ではTotal Legionella 100 CFU/100 mL、Viable Legionella 20 CFU/100 mL、LC EMA法では9 CFU/100 mLであった。循環系を高濃度塩素で洗浄したが、LC RT法Total Legionella 100 CFU/100 mL、Viable Legionella 88 CFU/100 mL、LC EMA法47CFU/100 mLと改善は認められず、追って平板培養法で40 CFU/100 mLのレジオネラ(L. pneumophila SG1,9)が検出された。施設調査で男性浴槽と女性浴槽の連通管を洗浄していないことが判明し、高濃度塩素で重点的に洗浄したところ、すべての生菌迅速検査が不検出となり、最終的に平板培養法でも陰性が確認された。
まとめ
遺伝子検査の前に液体培養を組み込むことで、レジオネラ生菌を検出、定量する迅速検査法を確立した。LC RT法、LC EMA法いずれも検体搬入の翌日に平板培養法の結果が予測可能であり、また、培養前の試料を評価すれば死菌の有無も確認できることから、汚染状況の把握や洗浄効果の確認などにおいて、今後の活用が期待される。
参考文献
1) Chang B, et al., Appl Environ Microbiol 75: 147-153, 2009
2) Diederen BM, et al., J Med Microbiol 56: 94-101, 2007
愛媛県立衛生環境研究所 烏谷竜哉
横浜市衛生研究所 荒井桂子
富山県衛生研究所 磯部順子 金谷潤一
大分県衛生環境研究センター 緒方喜久代
国立感染症研究所寄生動物部 泉山信司 八木田健司
宮城県保健環境センター 矢崎知子
タカラバイオ(株) 吉崎美和
国立感染症研究所細菌第一部 倉 文明