国立感染症研究所

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浴槽水のモノクロラミン消毒

(IASR Vol. 34 p. 168-169: 2013年6月号)

 

レジオネラ汚染防止対策として、浴槽水の遊離残留塩素濃度を、通常0.2mg/L~0.4mg/L程度に保ち、かつ最大1.0mg/Lを超えないように務める等、適切に管理を行うことが「レジオネラ症を防止するために必要な技術上の指針」(平成15年7月厚生労働省告示)に示されている。使用される次亜塩素酸ナトリウムは、殺菌効果は優れているが、アルカリ泉質やアンモニア態窒素が多く含まれる泉質等では濃度管理が困難で殺菌効果が低下する問題、またカルキ臭やトリハロメタン等の消毒副生成物の問題がある。これらを解決するための方法として、水道法施行規則第17条に記載されている結合塩素に着目し、結合塩素の一種であるモノクロラミンを使用して浴槽水消毒の実証試験を行った。モノクロラミンは、すでに米国の給湯/給水系でレジオネラ症発生を抑制している実績がある。

循環式浴槽での試験
本試験に先立ち、実験用の循環式浴槽を用いて、モノクロラミンの生成、注入、測定を自動化した設備・設計とその消毒効果について確認した。その後、営業中の3入浴施設で各6週間の検証試験を行った。次亜塩素酸ナトリウムと塩化アンモニウムの溶液を水道水に一定比率混合することでモノクロラミンを生成し、モノクロラミン濃度が3 mg/Lになるよう注入した。対象施設は、1日平均利用者数300~ 600人規模の露天風呂浴槽(総容量 6.5~28m3)で、泉質は主に塩化物泉、pH7.8~9.0、アンモニア態窒素濃度(アンモニウムイオン×0.77) 0.4~4.3 mgN/Lであった。

(1)微生物に対する消毒殺菌効果:3施設ともモノクロラミン消毒試験中、レジオネラは一切検出されなかった。また、レジオネラの増殖の場となる自由生活性アメーバも検出されず、アメーバ増殖のエサとなる従属栄養細菌数は低値に推移した。一方、レジオネラの遺伝子検査では僅かに検出されたことから、本菌は循環ろ過装置や配管系内部に付着した生物膜に生残していると考えられる。

(2)モノクロラミン濃度の推移:モノクロラミン濃度は2施設の浴槽水において目標値3±1mg/Lの範囲内を保持できたが、1施設においては目標値からの逸脱があった。逸脱の原因は、硬度の高い泉質のため、濃度測定センサーにスケールが付着したことによる感度低下であった。センサーの洗浄や校正を定期的に行い、適正な濃度に保持されるよう改善できた。

(3)臭気と消毒副生成物の問題:カルキ臭の原因物質の一つであるトリクロラミンは、試験中全く検出されなかった。また、モノクロラミン濃度を適正に保持した2施設では消毒副生成物のトリハロメタン類は、試験前(または対照浴槽)の22.2~ 194.6 μg/Lに比べて1/100程度に低減した。

(4)アンモニア態窒素の影響:今回試験した2施設の源泉にはアンモニア態窒素が1.9~4.3 mgN/L含まれ、浴槽水に次亜塩素酸ナトリウムを投入してもアンモニアと反応した結合塩素が生成され、遊離残留塩素は存在していなかった。しかし、現場におけるDPD法による遊離残留塩素濃度測定では、結合塩素の影響で見掛け上0.2 mg/L程度の呈色がみられ、管理上問題ないと誤解されていた。アンモニア態窒素が多く含まれる泉質では、遊離塩素の濃度調整は困難を極めることから、モノクロラミン消毒がより適していると考えられる。

掛け流し式浴槽での試験
静岡県内のアルカリ泉質(pH9.0)の掛け流し式温泉を対象とした。次亜塩素酸ナトリウムと塩化アンモニウムの各溶液を水道水に一定比率混合することでモノクロラミンを生成し、それをモノクロラミン濃度が3mg/Lになるよう源泉タンク内に連続注入し、これを1年間以上にわたり継続した。消毒前の源泉水からレジオネラ属菌が継続して検出されたが、消毒後は浴槽水からレジオネラ、自由生活性アメーバともに検出されず、従属栄養細菌数もわずかの検出に止まり、十分な消毒効果が確認された。

以上の結果から、浴槽水のモノクロラミン消毒は安全で快適な新たな消毒法として期待される結果が得られた。

モノクロラミン消毒の条例への記載
静岡市内には高pHやアンモニア態窒素を含む泉質が多いことから、静岡市は、本研究成果等を根拠として、静岡市公衆浴場法施行条例および静岡市公衆浴場法等の施行に関する規則ならびに静岡市旅館業法等施行条例および静岡市旅館業法等の施行に関する規則において、2013(平成25)年4月1日から、浴槽水の消毒方法として遊離残留塩素による方法とモノクロラミンによる方法を併記し、どちらかを選択できることとした。具体的にモノクロラミン消毒を条例に盛り込むのは全国で初めてである。

本研究は、厚生労働科学研究費補助金(健康安全・危機管理対策総合研究事業)公衆浴場等におけるレジオネラ属菌対策を含めた総合的衛生管理手法に関する研究(研究代表者:倉 文明)により実施した。

 

静岡県環境衛生科学研究所微生物部
  佐原啓二 神田 隆 八木美弥 道越勇樹
(株)マルマ 研究開発部 杉山寛治
アクアス(株)つくば総合研究所 縣 邦雄    
ケイアイ化成(株) 江口大介 市村祐二
中伊豆温泉病院臨床検査科 久保田 明
静岡市環境保健研究所 富田敦子
静岡市保健所 片山富士男
国立医薬品食品衛生研究所生活衛生化学部 神野透人
国立保健医療科学院生活環境研究部 小坂浩司
国立感染症研究所寄生動物部 泉山信司 八木田健司
国立感染症研究所細菌第一部 遠藤卓郎 倉 文明

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