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成人水痘-自験例からの考察

(IASR Vol. 34 p. 292-293: 2013年10月号)

 

水痘は、αヘルペスウイルス亜科の水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)の初感染で生じる小児の急性熱性発疹症である。水痘は感染症法の5類感染症に指定されており、学校保健安全法による第2種学校感染症に分類されている。本邦では4歳以下での感染が例年全報告数の70%以上を占め、9歳までに90%が罹患すると報告されている。仕事を持つ母親が増え、集団保育の開始時期が早くなっていることが関連して最近では発症年齢のピークは1~2歳と低年齢化の傾向がみられ、毎年約100万人が罹患していると推定されている。季節的には毎年12~7月に多く8~11月には減少するが、この波形は毎年変わらず、気温が25℃以上になるとウイルスの感染力が低下することと、夏休みにより、水痘患者との接触機会が減少するためといわれている。熱帯地方では成人までの罹患率が低いことは気温が関与している可能性を示唆している。

1987年より水痘ワクチンの任意接種が承認され、さらに公費助成の普及により、2013年度の季節性の波形が変化してきている。しかし、水痘ワクチンの普及率は45%に過ぎず、2004~2011年までのIDWRの報告1)によると、小児科定点医療機関から15歳以上の成人水痘は年間0.5~0.8%にみられている。小児科定点なので実際の成人水痘は、もっと多いものと思われる。

我々の施設での1990~1996年の成人水痘の年齢分布を図1に示したが、20代に多いことがわかる。ちなみに2010(平成22)年度は4例(24~46歳)、2011(平成23)年度は9例(21~84歳)であった。60歳の典型的な水痘を経験したが、その患者以外の60歳以上の高齢者水痘は、VZV特異的IgM抗体の上昇がみられない水痘様疹で、神経節内で再活性化したウイルスが帯状疱疹のように神経を経由しないで、T細胞に感染し、血流を介して全身に播種したものと考えられている2)。一般に軽症に経過するが、免疫不全者の場合、播種性血管内凝固症候群を起こして死亡することがある。

成人水痘では、高熱を伴うことが多く、有熱期間や発疹数ともに小児よりも多く、重症になりやすい(図2)。特に成人の場合、水痘肺炎を発症することが多いとされている3)。これは、小児よりも成人でskin horming markerをもつT細胞数が多いためといわれている4)。また、喫煙している患者が多い5)。多屋ら6)の全国アンケート調査によると、水痘入院患者数は、成人が小児よりも1.5倍多く、小児は水痘合併症ための入院と水痘のための入院がほぼ同数であるが、成人は水痘のために入院している。水痘入院患者1,656例中7例が死亡しており、うち小児が2例、成人が5例であり、成人の3例は50歳以上で水痘様疹と考えられる。基礎疾患のないものは2例のみである。

妊婦では、さらに免疫の低下がみられるために重症化しやすく、水痘に罹患した妊婦の5.2%が肺炎を発症する7) といわれている。以前は妊婦の死亡率は20~45%といわれていた8)が、有効な抗ウイルス薬が開発されてから予後は改善している。しかし、現在においても免疫抑制状態下で発症した場合は時に致死的になる。先天性水痘症候群(congenital varicella syndrome、CVS)は、妊婦が妊娠中期に水痘に罹患した場合にみられ、13週までの報告は少ないが(0.4%)、流産になるケースが多い。CVSの好発時期は妊娠13~20週までである9)が、28週でみられたという報告もある10)。従って、水痘の既往のない成人も水痘ワクチン接種が勧められる。

 

参考文献
1) http://www.niid.go.jp/niid/ja/varicella-m/ varicella-idwrc/1296-idwrc-1999-2011.html
2) Cohen JI, et al., Varicella-Zoster Virus Replication,Pathogenesis, and management, In Knipe DM, Howly PM, editors, Virology 5th ed, Philadelphia; Wilkins, p2773-2818, 2006
3) Haake DA, et al., Rev Infect Dis 12: 788-98,1990
4)Ku CC, et al., J Exp Med 200: 917-925, 2004
5) Grayson ML, et al., J infect 16: 312, 1988
6)多屋馨子, 他,厚生労働科学研究補助金(新興?再興感染症研究事業) 「予防接種で予防可能疾患の今後の感染症対策に必要な予防接種に関する研究」(主任研究者:岡部信彦)
7) Tan MP and Koren G, Reprod Toxicol 21: 410-420, 2006
8) Harger JH, et al., J Infect Dis 185: 422-427,  2002
9) Enders G, et al., Lancet 343 (8912): 1548-1551, 1994
10) Michie CA, et al., Pediatr Infect Dis J 11: 1050-1053, 1992

 

東京慈恵会医科大学葛飾医療センター  皮膚科 本田まりこ

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