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米国での水痘ワクチン定期接種化による水痘関連死亡の大幅な減少(文献レビュー)

(IASR Vol. 34 p. 295-296: 2013年10月号)

 

米国では1995年から水痘ワクチンが小児期に定期接種化されている。当初は12カ月~18カ月の間の1回接種と、ハイリスクな場合の追加接種として開始され、2006年には定期の2回目の接種も勧奨された。ワクチン接種率が90%を超える地域では1995年に比して2005年には水痘の年間発生率が90%以上減少、水痘関連死亡も、定期化前より66%減少、死亡率は50歳以下で74%以上減少、特に10歳以下で約90%減少したことが観察されていた。新たに2002~2007年の水痘による死亡(水痘死)を分析し、米国での水痘ワクチン接種を12年間行ったことによる影響をまとめた。

方法として、一般利用可能な死因統計を利用した。死亡診断書の中に水痘が記載されていた場合、水痘死と定義した。2001年までの調査と比較するため、水痘が死亡の引き金となった直接因子であるか、死亡に影響を与えたが直接の死因に関係しない間接因子であるかによって分類した。年齢調整は2000年の国勢調査をもとに行い、年齢階級は20歳未満、20~49歳、50歳以上で分類した。死亡率の計算には2002~2004年と、2005~2007年の二つの期間を用い、1990~1994年を予防接種前の期間の代表とした。死亡はポアソン分布に従うと仮定し、傾向検定と95%信頼区間をSASで計算、P値が0.05以下を統計的に有意とした。

水痘のハイリスク群とされる者が持っている基礎疾患を以下とした:がん、HIV感染ないしAIDS、免疫不全、妊娠(ワクチン接種不適当者でもある)。水痘の重症化として二次細菌感染、肺炎、中枢神経障害、出血傾向、を合併症とした。

結果として、直接因子による水痘死は2002~2007年に112例あった。年平均は1990~1994年の人口100万当たり0.41から、2005~2007年の0.05へと、88%の減少がみられた。人種差はどの時期でもみられなかった。水痘死は全年齢階級で減少し、1990~1994年と比較して2005~2007年は20歳未満で97%、20~49歳で90%、50歳以上は67%の減少だった。

間接因子による水痘死は2002~2007年に116例(年平均19.3)あった。1990~1994年と比較して2005~2007年は20歳未満で94%の減少、20~49歳で80%の減少に対し、50歳以上は18%の減少とその幅は小さかった。

ハイリスクな基礎疾患に関しては、水痘が直接死因になった症例では2002~2007年の調査で12例(112例中の11%、いずれも20歳以上の白血病やがん)、1999~2001年は14%、1990~1994年は19%だった。基礎疾患に骨髄異形成症候群など骨髄疾患が記載された症例もみられたが、免疫不全の状況を見定めるほどの情報は得られなかった。水痘が間接因子になった症例ではハイリスクな基礎疾患は56例(116例中48%)にみられ、がんが52例とHIV/AIDSが4例だった。

合併症に関しては、水痘が直接因子になった2002~2007年の症例のうち90例(112例中の80%)は少なくとも一つ以上の水痘関連の合併症がみられた。年齢階級ごとの差は少なかった。最も多い合併症は20歳未満では二次細菌感染(67%)、20~49歳および50歳以上では肺炎。水痘が間接因子だった症例では50例(116例中の43%)にみられ、二次細菌感染は19%、肺炎は16%であった。

以下、考察として、水痘ワクチン1回接種の定期プログラムを12年間行ってきた結果、水痘が直接因子となる死亡は88%減少、特に若い世代で大きな減少だった(20歳未満で97%、50歳未満全体で96%)。死亡例のほとんど(89%)はワクチン適応であったと考えられる。水痘が間接因子となった死亡の減少も認めた。これは定期接種導入前の費用対効果分析で仮定されたものより大きかった。水痘による死亡は少なく、ワクチンは欠勤予防や医療資源節約に有効と考えられるが、死亡は依然として重要な指標である。

水痘ワクチンの導入前の米国の水痘患者は90%が小児であったことから、水痘の減少や水痘関連死亡の減少はワクチン接種プログラムの実施成功の直接的な成果といえる。さらに、小児期への接種プログラムにより、ハイリスク化する疾患(白血病など)に罹患する前に水痘から守られるようになる。2001年から2007年での接種率向上に伴い、さらに水痘死亡は減少している。特筆すべきは乳児期(1歳未満)で、2003年以降4年連続で死亡がみられていない。1歳未満はワクチン非対象であることを考えると、集団内での高い免疫保有により、乳児がウイルスに曝される機会を減らしたといえる。

水痘ワクチン1回接種プログラムの効果を評価した他の研究の所見も同様に水痘死亡の劇的な減少を支持している。水痘ワクチンの1回接種は水痘罹患を85%妨げ、重症化は97~100%防ぐとされる。1回接種を受けた小児は受けていない小児に比べて中等度から重症(皮膚病変が50か所以上)の割合が13分の1になり、接種されると入院のリスクが67%減少するとされる。50歳以上の成人での水痘を直接因子とする死亡も67%減少していたのが新たな所見であったが、間接因子は主に50歳未満の集団で減少していた。1回のワクチン接種では、水痘帯状疱疹ウイルスの伝播を完全に集団内で遮断するほどの十分な集団免疫効果をもたらさない。この課題に対応するため、2006年からは2回目の水痘ワクチン接種が定期的に勧奨されている。2回接種により液性・細胞性免疫が向上することは知られており、2回目の接種が集団免疫を強め、ワクチン禁忌の患者に対しても防御効果を発揮することが期待される。 

 

参考文献
Marin M, et al., Near elimination of varicella deaths in the US after implementation of the vaccination program, Pediatrics 128(2): 214-220, 2011

 

国立感染症研究所感染症疫学センター 牧野友彦

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