(IASR Vol. 34 p. 302-303: 2013年10月号)
水痘帯状疱疹ウイルスによる疾患
水痘(水ぼうそう)は水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)の初感染として現れる疾患である。初感染後のVZVは、脊髄後根神経節に潜伏感染し、宿主は長期間、無症状に過ごす。しかし、宿主の加齢、免疫低下に伴い、潜伏感染していたVZVが再活性化し、神経の支配領域に限局して疾患を起こしたものが帯状疱疹である1)。免疫不全状態の患者では帯状疱疹から重篤なVZVの全身感染に進展する症例もある。妊娠初期(8~20週)に水痘に罹患すると、胎児に低体重出生、四肢の形成不全、片側性皮膚瘢痕、部分的筋肉萎縮、脳炎、小頭症など、先天性水痘症候群の症状が現れることがある2)。エイズ患者では抗レトロウイルス療法の開始後まもなく、帯状疱疹が発症する例があり、免疫再構築症候群で現れる症状の一つとされる3)。
帯状疱疹の病理
発疹は体幹部、頭頚部に多く、神経の走行に沿って、片側のみにみられることが大きな特徴である。病理学的に、初期病変では表皮の有棘細胞層に腫大した核を持つ細胞と周囲の細胞間浮腫から水疱の形成が観察される(図)4,5) 。真皮浅層には血管周囲、および、毛嚢、皮脂腺などの皮膚付属器官周囲にリンパ球を主体とした軽度、ないしは中等度の炎症性細胞浸潤を認める。この段階では好中球の浸潤は見られない。さらに病期が進むと、表皮内には明らかな水疱が形成され、水疱内腔に面した表皮細胞にはfull型、ないしは、Cowdry A型の核内封入体を持つものが目立つようになる。免疫組織化学では、これら核内封入体を持つ細胞の周囲だけではなく、真皮内の血管内皮、リンパ管内皮、神経周膜に広く、VZVの抗原を認める(図)6)。真皮内に多くの抗原が認められるのは帯状疱疹の特徴であり、単純ヘルペスウイルスによる水疱ではこのような真皮内への広い抗原の分布はみられない。神経周膜への感染がしばしば観察され、ときに、Schwann細胞や軸索の変性を伴い、帯状疱疹時の疼痛の原因とされる。大きな水疱が形成されると、水疱内に組織球、好中球が浸潤し、膿疱となり、やがて水疱蓋が破れ、潰瘍となる。潰瘍底部には核内封入体を伴う細胞がみられる。皮膚粘膜病変としての水痘と帯状疱疹は病理組織学的には区別できない。また、核内封入体の大きさや形態から単純ヘルペスウイルス感染と区別することは困難である。
VZVの全身感染症の病理
VZVの全身感染症としては初感染時の水痘と、エイズ、移植患者などの免疫抑制剤を使用する患者など、宿主の免疫抑制状態に伴う全身感染症がある。全身感染症の場合、多くの症例で血中のウイルス量が増加しており、ウイルスが血行性に広がっていることが考えられる7)。また、成人例で帯状疱疹から全身感染症に及ぶ症例もある。皮膚病変は、分布が異なることを除けば、帯状疱疹と同じである。水疱形成は皮膚のみならず、口腔や消化管粘膜に見られることもあり、びらんや潰瘍の原因となる。免疫不全症を伴う全身感染ではなんらかの内臓病変を伴うことが多いと考えられる。VZVは神経のみならず、血管内皮細胞、線維芽細胞など、多くの細胞種に感染可能であり、血行性にさまざまな臓器に分布し、発症する。脾臓は主要な標的臓器の一つであり、脾柱結合組織、および周囲の赤脾髄の内皮細胞に多くの感染細胞を認める。肝臓も比較的頻度の高い標的臓器であり、グリソン鞘から肝実質の細胞まで、多くの細胞が標的となる。その他、肺、胸腺、扁桃、食道、卵巣、精巣、腎臓、膵臓、心臓、脳、神経節など、あらゆる臓器に感染細胞がみられる。いずれも、血管内皮や周囲の線維芽細胞、末梢神経などからウイルス抗原が検出される。神経組織はVZVの重要な標的であるが、帯状疱疹から髄膜炎に至る症例は頻度的には多くない。さらに、脳炎まで進む症例は極めて稀で、エイズなどの免疫不全症に報告される(図)。移植患者では、帯状疱疹として発症することが多いが、肝炎、脳炎、髄膜炎などを発症する例もみられる。移植後100日以上の慢性期に発症する例が多い。
参考文献
1) Lungu O, et al., Proc Natl Acad Sci USA 92: 10980-10984, 1995
2) Dworsky M, et al., Am J Dis Child 134: 618-619, 1980
3) Novak RM, et al., AIDS 26: 721-730, 2012
4) 佐多徹太郎, 倉田毅, 青山友三, 水痘帯状疱疹ウイルス, In: 青山友三, 南谷幹夫, 倉田毅 編集, ウイルス感染症の臨床と病理, 東京: 医学書院, 53-56, 1991
5) 堤寛, ヘルペスウイルス感染症II:水痘・帯状疱疹ウイルス, 感染症病理アトラス, 東京: 文光堂: 153-155, 2000
6) Iwasaki T, et al., Arch Virol Suppl: 109-119, 2001
7) Kimura H, et al., J Clin Microbiol 38: 2447-2449, 2000
国立感染症研究所感染病理部 片野晴隆