国立感染症研究所

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2012/13シーズン夏季に長崎で採取されたA/H3N2インフルエンザウイルスのシークエンス解析結果の報告

(IASR Vol. 34 p. 339-342: 2013年11月号)

 

新潟大学では、インフルエンザウイルスの調査を各地の臨床医と協力して行っている。2013年7月にインフルエンザ感染症例があり、その臨床検体からA/H3N2インフルエンザが分離されたため、遺伝子解析の結果を報告する。

2013年7月9日(第28週)に長崎県長崎市内の医療機関を、発熱(37.9℃)、鼻汁、頭痛を主訴として受診した成人症例(49歳)が1例あり、インフルエンザ迅速診断キットによりA型陽性と判定された。採取された鼻腔ぬぐい臨床検体が新潟大学へ輸送された。MDCK細胞でウイルス分離培養を行い、リアルタイムPCRにより型別判定した結果、A/H3N2(M2蛋白部位)が検出された。

患者は7月6日に、A型インフルエンザと他院で診断された小学生と幼稚園児(5歳)の甥2名に親族の集まりで会い、その時に感染したと考えられる。2名の甥は兄弟で、患者の居住する地域から約20km離れた場所で生活している。5歳児が通う幼稚園ではインフルエンザ感染症例があり、5歳児の感染後、小学生の兄へ家族内感染したと考えられる。さらに、兄弟の母親もインフルエンザ様症状が出現しているが、確定診断はされていない。甥の家族内でその後新たな感染例はなく、また患者の家族内でも、他の感染者は出現していない。

このインフルエンザ分離株A/Nagasaki(長崎)/13N001/2013 (以下13N001とする) の遺伝子解析結果を以下に示す。HA遺伝子を用いた系統樹解析の結果、13N001は2013/14シーズンのインフルエンザA/H3N2ワクチン株であるA/Texas/50/2012と同じサブクレード3C1)に属していた(図1)。A/Texas/50/2012と比較し、MDCK分離株では、N128T、A138S、N144D、N145S、P198S(A/Victoria/361/2011に対してはA198S)のアミノ酸変異がみられた。なお、A138S置換は臨床検体(オリジナル検体:図1のclinical sample)にはみられなかったので、MDCK細胞による培養中の変異と考えられる。アミノ酸変異のあった144位、145位は抗原決定部位Aであり、198位は抗原決定部位Bである2-4)。2012/13シーズンに新潟大学でウイルス分離しシークエンスを行ったA/H3N2インフルエンザの57株すべてがサブクレード3Cに属しており、145位と198位のアミノ酸変異を有した。また、2012/13シーズンのワクチン株であったA/Victoria/361/2011血清(ホモ価640)に対するHI試験では、57株中HI価320の株が3.5%、160の株が24.6%、80の株が54.4%、40の株が17.5%と全体の約30%が抗原性の一致を示したが、残りの70%は抗原性がやや異なるという結果であった。これら57株の中には、今回みられた144位変異をもつ3C 株は存在しなかった。遺伝子データベースGISAID(http://platform.gisaid.org/epi3)でBLAST searchを行った結果、13N001とHA遺伝子が100%一致する株の登録はなかった。このことから、13N001はサブクレード3Cの中で新しいHA遺伝子変異を有するA/H3N2株である。他のサブクレード3C株との違いである144位1カ所のアミノ酸置換により、ワクチン株A/Texas/50/2012から抗原性が変異しているかどうかについては、今後解析していく予定である。

NA遺伝子の系統樹解析の結果、13N001はA/Texas/50/2012と同じサブクレード3Cに属し、さらにH150R変異があった(図2)。もともとクレード3C株は150位がアルギニン(R)であるのに対し、A/Texas/50/2012のみヒスチジン(H)に変異しているため、13N001に特異的な変異ではないと考えられる。また、ノイラミニダーゼ阻害薬剤に対して耐性となるアミノ酸変異はみられなかった5,6)

なお13N001は、リアルタイムPCRによりM2遺伝子S31N変異によるアマンタジン耐性が確認されている。

昨シーズン(2012/13)の日本ではA/H3N2を主とした流行がみられた7)。2013年6~8月のオーストラリアでは、A/H1N1pdm09とA/H3N2の混合流行がみられ、今のところA/H1N1pdm09がやや優勢であるものの、地域差が存在する8)。オーストラリアの状況より、2013/14シーズンの日本においてもA/H1N1pdm09とA/H3N2の混合流行となる可能性がある。また、季節外れの夏季に検出されたウイルス株が今冬流行する可能性もあるため、今後の発生動向を注視する必要がある。

謝辞:今回の株の報告において、適切なアドバイスをご教授いただきました国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センターの藤崎誠一郎先生に深謝いたします。

 

参考文献
1) IASR 33: 288-294, 2012
2) Both GW, et al., J Virol 48(1): 52, 1983
3) Underwood PA, J Gen Virol 62: 153-169, 1982
4) Dapat IC, et al., PLoS One: e36455, 2012
5) Samon M, Antiviral Res 98(2): 174-185, 2013
6) McKimm-Breschkin JL, Influenza and Other Respiratory Viruses 7 (Suppl.1): 25-26, 2012
7) IASR「インフルエンザウイルス分離・検出速報 2012/13シーズン」  http://www.niid.go.jp/niid/ja/iasr-inf.html
8) Australian Influenza Surveillance Report, No.4, 2013, reporting period: 20 July to 2 August 2013  
    http://www.health.gov.au/internet/main/publishing.nsf/Content/cda-surveil-ozflu-flucurr.htm

 

新潟大学大学院医歯学総合研究科国際保健学分野
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