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原虫による水系感染:世界における集団発生事例の更新情報、2004~2010年(文献レビュー)

(IASR Vol. 35 p. 194-195: 2014年8月号)

下痢症は年間40億人が罹患し、160万人が死亡、6,250万障害調整生存年数が失われているが、原虫による水系感染症がその主要な原因の一つであり、世界中で発生している。原虫による水系感染症の多くは糞口感染で伝播し、ヒトへの感染は下水、または動物や人の便に汚染された土、河川を介して起こる。効果的な水道施設の整備が、原虫による健康被害への主な対応である。ここでは、2004~2010年に発生した水系原虫感染集団発生事例の文献上の報告を紹介する。Medline/PubMed、MEDPILOT、Scopusでのキーワード(outbreakと病原体名)検索や、各国保健当局の定期刊行誌での検索を実施した。

2004~2010年の7年間に水系原虫感染症の集団発生事例199事例が報告されていた。原因微生物の内訳は以下のとおりである。Cryptosporidium 属が120事例(全体の60.3%)、Giardia lamblia が70事例(35.2%)、その他の原虫が9事例(4.5%)を占めた。その他の内訳はToxoplasma gondii が4事例(2%)、Cyclospora  cayetanensis が3事例(1.5%)、Acanthamoebaが2事例(1%)であった。

地域については以下のとおりである。オセアニアからは、93事例(46.7%)が報告された。このうちニュージーランドが80事例(40.2%)、オーストラリアが13事例(6.5%)を占めた。アメリカ大陸では66事例(33.1%)が報告された。北米の61事例(30.6%)のうち、60事例(30.1%)は米国、1事例(0.5%)はカナダからの報告だった。南米の5事例(2.5%)のうち、2事例(1%)はペルー、2事例(1%)はブラジル、1事例(0.5%)は仏領ギニアだった。ヨーロッパ大陸では、33事例(16.5%)が報告された。このうちアイルランドから13事例(6.5%)、英国から11事例(5.5%)、ノルウェーから11事例(5.5%)、スウェーデンから2事例(1%)、フィンランド、デンマーク、ドイツから少なくとも1事例(0.5%)ずつ報告された。アジアでは7事例(3.5%)が報告された。このうちトルコから3事例(1.5%)、日本、中国、インド、マレーシアからから1事例ずつ報告された。

感染経路・要因については以下のとおりである。72事例(36.2%)は、適切に処理されていない水道、水源の汚染、処理の失敗、貯水槽の汚染や処理後の汚染といった種々の要因により生じていた。67事例(33.7%)では水泳プールや噴水といった親水施設の水における、主にCryptosporidium 属の汚染(65事例、32.7%)が確認された。

情報収集は集団発生事例の探知、調査、報告システムに依存するため、多くの水系原虫感染集団発生事例は認識されないか、未報告のままであり、実際の10分の1程度しか探知と報告が行われていないという推計もある。先進国ではサーベイランスシステムが確立しているが、国際的な報告基準についての合意はまだ得られていない。米疾病管理予防センターは個々の水系感染症集団発生事例を病原体、発生場所、感染者数で登録しており、ヨーロッパのサーベイランスシステムは国全体の発生率を知るために利用されているが、水系感染症集団発生事例の詳細については考慮していない。日本のサーベイランスにおいても、集団発生事例や症例について記述されていない。サーベイランスの質が問題視されるが、分子疫学的手法の導入は、原虫による水系感染集団発生のサーベイランスの向上に寄与するだろう。

 

参考文献
Baldursson S, Karanis P, Waterborne transmission of protozoan parasites: review of worldwide outbreaks - an update 2004-2010, Water Res 45(20): 6603-6614, 2011


国立感染症研究所感染症疫学センター 金山敦宏 山岸拓也

 

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