国立感染症研究所

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スウェーデンの公共水道で発生したCryptosporidium hominis の大規模集団感染(文献レビュー)

(IASR Vol. 35 p. 195-196: 2014年8月号)

クリプトスポリジウムは人や動物に水様性下痢等の消化器病変を起こし、同定されている26種の中でCryptosporidium parvum C. hominis が人への感染例では最も多く検出されている。オーシスト(嚢子)は患者の便から大量に排泄されて環境中に数カ月間生存し、飲用水中の通常濃度の塩素には耐性があり、わずかな数でも糞口感染により集団感染を起こす。健康人は1~2週間で自然治癒し、無症候性もあるが、免疫不全者は重症化する。スウェーデンでは2004年から届出対象疾患で、2009年まで毎年約150例(約1.7例/10万人)が報告されている。

2010年11月にスウェーデンのÖstersundの保健所は、1~2割の従業員が胃腸炎を起こしているとの報告を、複数の事業者から受けた。その後多くの市民から胃腸炎の報告があり、患者検体からクリプトスポリジウムが検出された。これを受けて集団感染の調査を行った。なお、Östersundはスウェーデンの中心に位置する人口約6万人の都市で、主要な浄水場は近くのStorsjön湖より表流水(訳者注:ここでは湖水のこと、地下水ではなく汚染を受けやすい)を取水して浄水処理を行い、51,000人に給水している。発生当時の浄水処理は、前オゾン処理、凝集・沈殿処理、急速ろ過、結合塩素消毒であった。浄水場の取水は下水放流水の影響を受けないように、主要な下水処理場から4km上流に位置している。

患者の症例定義は、2011年1月中旬にÖstersundに在住、2010年11月1日~2011年1月31日の期間に、下痢もしくは水様性下痢を1日3回以上認める人、とした。2010年11月27日~12月13日までの間にウェブサイトを使用して、質問を行った。Östersundに在住し消化器症状がある人から、発症日、自宅の住所、最近の喫食物を確認した。集団感染から2カ月後に、Östersund在住の1,524人をランダムに抽出し、集団感染の範囲、臨床像、リスク因子を明らかにするための質問票を用いた後ろ向きコホート研究を行った。症例定義の時期に、消化器症状のあるÖstersund在住者の糞便より、クリプトスポリジウムを含む種々の病原体を検索した。また、水道水、(浄水処理前の)水道原水、下水などからクリプトスポリジウムの検出を行った。

ウェブ調査の結果、2週間半の間に10,653人の消化器症状が報告され、大規模集団感染が確かめられた。症例は11月中旬から増加し、11月26日に飲用水を煮沸するよう助言した3日後の11月29日をピークとして報告数は減少した()。質問票による後ろ向きコホート研究では、1,524人中1,044人より回答があり、性差は無かったものの、年齢では高齢者で回収率が良かった(60代90.0%、20代43.8%)。症例定義に合致したのは45.2%で、この数字を人口にあてはめると、住民約27,000人(95%信頼区間は25,049~28,738)が感染したと推測された。年齢別には若年者で発生率が高かった(20代58.1%、70歳以上26.1%)。

発症の危険因子は、若年者、家族内感染者数、飲水量、グルテン不耐性(17人からの参考情報)であり、下痢の持続期間はグルテン不耐性を含む慢性腸疾患や若年者で長かった。人の糞便および環境検体からはC. hominis IbA10G2のみが同定された。水道原水や水道水中の嚢子は、2カ月以上も検出され続けた。

浄水場上流側のStorsjön湖につながる小川から高濃度の嚢子が発見され、集団感染の原因は共同住宅から小川に漏れた下水と推測されたが、集団感染の結果である恐れもあり、断定はできなかった。集団感染は湖が氷で覆われる冬に発生したので、嚢子は長期間存在できたと考えられた。スウェーデンの飲料水規則では2つの微生物学的防護策(オゾン処理と結合塩素消毒)が推奨されていたが、これらの防護策はクリプトスポリジウムの不活化には不十分であった。Östersundの感染性微生物を減らす長期的な解決策として、紫外線消毒を集団感染後の2010年12月から導入した。さらに、繰り返し配水管の洗浄と検査を行った。Östersundの集団感染の6カ月後に、450km離れたSkellefteåで、Östersund帰りの住民から拡大したと推測されるC. hominis IbA10G2による別の集団感染が発生した。

今回のクリプトスポリジウムの集団感染は、ヨーロッパで過去最大規模であり、終息後2カ月以上にわたり水道水から嚢子が検出され続けた。この集団感染以降、スウェーデンでは寄生虫による水系感染の危険への関心が高まり、多くの浄水場が、たとえば定量的微生物リスク評価により、現在の浄水処理の性能評価を行うようになった。我々の経験から、原水における微生物汚染のリスクを評価することの価値、それから浄水場でクリプトスポリジウムを含むあらゆる微生物を除去不活化するための多段防護策(マルチプルバリア)を使用する価値を強調したい。

 
参考文献
Widerstrom M, et al., Large Outbreak of Cryptosporidium hominis Infection Transmitted through the Public Water Supply, Sweden, Emerg Infect Dis 2014 Apr;20(4):581-589, doi: 10.3201/eid2004.121415
 
国立感染症研究所感染症疫学センター 石金正裕 山岸拓也

 

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