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2013/14シーズンの季節性インフルエンザにおける入院サーベイランス動向の変化

(IASR Vol. 35 p. 261-262: 2014年11月号)

入院サーベイランスの概要
インフルエンザ入院サーベイランス(以下、入院サーベイランス)は平成23(2011)年9月より開始された。インフルエンザによる入院患者の発生情報や重症化の傾向を継続的に把握するために通年で実施される。対象医療機関は基幹病院定点あり、患者を300人以上収容可能な、内科および外科を標榜する病院であり、2次医療圏域ごとに1カ所以上指定され、全国では約500医療機関が指定されている。調査項目はインフルエンザによる入院患者の性別、年齢とともに、入院時の医療・検査対応として、ICU入室、人工呼吸器の利用、頭部CT検査、頭部MRI検査、脳波検査(以下、頭部CT検査、頭部MRI検査、脳波検査の3つを頭部CT検査等と総称する。頭部CT検査等については実施予定を含む)の有無である。届出は入院時1回のみ、週ごとの報告で、人工呼吸器利用の有無は主に肺炎の傾向把握、頭部CT検査等の有無は急性脳症の傾向把握などの重症化把握を目的としている。毎年の傾向を把握することで、季節性インフルエンザにおけるベースラインの情報を把握することができる。

方 法
季節性インフルエンザによる入院や重症の状況について、入院サーベイランスで報告されたインフルエンザによる入院例を示した。また、入院の傾向を把握するため、入院サーベイランス報告週別の入院総数を、年齢群別・報告週別の入院総数、ICU入室あり、人工呼吸器利用あり、頭部CT検査等のいずれかがある報告数でまとめた。年齢群は0~14歳、15~59歳、60歳以上の3群とした。

結 果
2011/12、2012/13、2013/14シーズンの入院サーベイランス報告数は、それぞれ11,427例、10,373例、9,905例であり、ピークは第6週、第5週、第5週であったが、2013/14シーズンにおいてはピーク週の報告数は前シーズンの4分の3程度であった(図1上)。年齢群別の傾向について(図1下)、2013/14シーズンの入院総数に占める各年齢群の数と割合は、0~14歳(4,590例、46.3%)、15~59歳(1,294例、13.1%)、60歳以上(4,021例、40.6%)、となり、前2012/13シーズンと比較して、0~14歳では+14.6%、15~59歳では+1.9%、60歳以上では-16.5%となり、入院患者に占める若年者の入院割合の増加が認められた。

全体の重症度の傾向として、ICU入室数はシーズンごとに変動が大きいものの(294例、322例、396例)、割合として60歳以上の群は56.1%、72.7%、56.3%と過半数を占めた。各シーズンの人工呼吸器利用においては60歳以上の割合が58.9%、72.2%、53.7%と高く、「頭部CT検査等いずれかあり」においては0~14歳の割合が62.9%、46.1%、50.0%と高かったことと対照的であった(図2)。

2013/14シーズンの人工呼吸器利用報告数に注目すると、0~14歳と15~59歳は、2014年1~13週頃にのみ多く報告されていたことに対して、60歳以上における報告は流行期間のほぼ全期間(2014年1~18週頃)にわたっていた(図2)。この傾向はICU入室ありの者と同様であった。

考察とまとめ
病原体サーベイランスによると、2011/12、2012/13シーズンはAH3亜型が主流であったのに対し、2013/14シーズンは前半にAH1pdm09の流行が検出された。また、B型は例年のシーズンよりも早くから(年明け頃から)A型とともに流行した1)。そのため、入院サーベイランスにおける動向が2013/14シーズンは他のシーズンとは異なった可能性が考えられる。60歳以上の入院総数が減少し、また、流行期間の前半に0~14歳、15~59歳の、入院サーベイランスにおける「ICU入室」や「人工呼吸器利用あり」の割合が増加傾向を認めたことが特徴であり、3シーズンぶりのAH1pdm09流行との関連が考えられる。その一方で、AH1pdm09が流行した2009年には小児・若年層におけるインフルエンザ脳症の報告が増加したが2)、同じくAH1pdm09流行が前半に顕著であった2013/14シーズンでは、入院サーベイランスにおいては急性脳症増加の傾向を示唆すると考えられる「頭部CT検査等いずれかあり」の0~14歳の動向にシーズン全体で明らかな変化を認めなかった。この疫学的な特徴について、さらに分析が必要である。

以上、入院サーベイランスの結果から、過去3シーズンの年齢群を中心とした動向変化のパターンが示された。2013/14シーズンにおいては、前・前々シーズンとの流行ウイルス株の違いから、入院患者の年齢群などに変化をもたらした可能性が示唆された。しかし、本サーベイランスでは入院患者の病原体情報は報告される仕組みとなっていないため、ウイルス型別を加味した重症化傾向が把握できない。今後の検討が必要である。

謝辞:医療機関、自治体等入院サーベイランス報告に従事されている関係者に感謝致します。

 
参考文献
  1. 厚生労働省健康局結核感染症課、国立感染症研究所.今冬のインフルエンザの発生動向(2013/14シーズン)
    http://www.niid.go.jp/niid/ja/flu-m/2066-idsc/related/4522-fludoko-2013.html
  2. Gu Y, et al., PLoS ONE 8(1): e54786, 2013 doi:10.1371/journal.pone.0054786
 
国立感染症研究所感染症疫学センター

 

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