国立感染症研究所

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感染症法に基づくカルバペネム耐性腸内細菌科細菌感染症の届出状況

(IASR Vol. 35 p. 288- 289: 2014年12月号)

平成26(2014)年9月19日の感染症法施行規則改正により、カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)感染症が5類全数把握疾患に追加された。これにより2014年第38週~第44週現在までに、29都道府県より113例の届出があった。届出は東京都からが22例と最も多く、次いで大阪府19例、福岡県と愛知県がいずれも7例だった。

性別は男性66例、女性47例と男性が多かった。診断時年齢は0~97歳までと幅広かったが、65歳以上の高齢者が88例と、全体の78%を占めていた(本号2ページ参照)。    

感染症の種類では、尿路感染症が39例と最も多く、次いで菌血症・敗血症が22例、肺炎21例、胆嚢炎・胆管炎18例、腹膜炎8例、腸炎2例、髄膜炎1例、その他が22例だった。その他では、術後創部感染などの皮膚・軟部組織感染症が8例あった。なお、これらの集計には尿路感染症と菌血症・敗血症など、複数の感染症として報告していた症例が17例含まれていた。

CRE感染症の届出には、通常無菌的であるべき検体から腸内細菌科細菌が分離・同定され、かつカルバペネム系薬剤および広域β-ラクタム剤に対して耐性であることの確認、また、通常無菌的でない検体の場合は、さらに分離菌が感染症の起因菌と判定されることが必要な検査所見とされている。届出113例のうち47例は、血液検体、腹水、髄液等、通常無菌的とされる検体からCREが分離されており、中でも血液検体が27例で最も多かった。一方、66例では喀痰や尿など、通常は無菌的ではない検体からCREが分離されており、最も多いのが尿の32例、次いで喀痰の17例だった。また、届出基準では分離菌の薬剤耐性の確認方法として、メロペネムに耐性であること、またはイミペネムとセフメタゾール両薬剤に耐性であることの2通りが定められている。113例のうち、31例はメロペネム耐性、41例はイミペネムとセフメタゾール耐性、39例は両方により薬剤耐性を確認していた。2例については確認方法は不明だった。

113例のうち、105例は菌種名が報告されていた。Enterobacter cloacae が最も多く34例、次いでEnterobacter aerogenes の22 例だった。1例のみ報告されていたEnterobacter asburiae を含めると、菌種が報告された症例のうち54%をEnterobacter 属が占めていた。Enterobacter 属以外の菌種としては、Escherichia coli 19例、Klebsiella pneumonia 15例、Citrobacter 属5例だった。その他、2例もしくは1例のみ報告された菌種は、Klebsiella oxytocaMorganella morganniiSerratia marcescensProteus mirabilisProvidencia rettgeri だった。またE. coli S. marcescens の2菌種が分離された症例が1例あった。

感染地域・感染経路として、113例のうち109例は国内での感染と報告されていた。感染地域が国外と推定された症例が1例あった。感染経路については、医療器具関連感染や手術部位感染など、医療関連感染が推定される症例が23例あった。CRE対策には、医療機関での院内感染対策が重要であることを改めて示すものと考えられる。  

CREは、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)や薬剤耐性アシネトバクター(MDRA)と比べると、国内の医療機関では分離される頻度が高い薬剤耐性菌である。平成26(2014)年9月に届出対象にされてから毎週10~30例報告されているので、1年間では1,000例程度の届出が予測される。一方、CRE感染症同様、5類全数把握疾患であるVRE感染症の届出数は毎週数例程度で、年間約100例である。MDRA感染症は平成26年9月19日に5類定点把握疾患から5類全数把握疾患に変更された。しかし、CRE感染症が113例報告されたのと同じ期間におけるMDRA感染症の届出数は7例のみである。臨床現場や臨床検体の細菌検査を実施している衛生検査所においては、今後も菌種同定や薬剤感受性試験を適切に実施し、CREを確実に検出していくことが求められる。

 
国立感染症研究所細菌第二部
  鈴木里和 松井真理 鈴木仁人 筒井敦子 柴山恵吾
 

 

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