国立感染症研究所

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臨床検体および下水検体を用いた堺市内のA型肝炎の流行解析

(IASR Vol. 36 p. 6- 7: 2015年1月号)

はじめに
A型肝炎は、感染者の糞便中に排出されたA型肝炎ウイルス(HAV)に汚染された食品や飲料水の喫食等により経口感染し、発症する急性ウイルス性肝炎である。また、魚介類等の喫食が原因と考えられる食中毒としての事例も報告されている1, 2)。2014年当初から国内でA型肝炎患者報告数が過去4年間に比し、大きく増加した3)。堺市内でも2013年10月~2014年5月までに4例の報告があり、過去3年間(2011年0例、2012年1例、 2013年9月まで0例)より多い報告数であった。

そこで、下水流入水およびA型肝炎患者等からHAV遺伝子検出を試み、堺市内におけるHAV流行状況を解析したので報告する。

材料および方法
検査材料には、堺市内の3下水処理場(B~D)への流入水(2013年8月~2014年6月まで月1回採水、計33検体)および同市内で2014年1月に発生した家族内感染事例からの血清3検体および糞便12検体を用いた。HAV遺伝子検出は、nested RT-PCR(primer: JCT-2F/1R-A/2R)により行い、ダイレクトシークエンス法により塩基配列を決定した。遺伝子型は、NJ法による遺伝子系統樹解析により決定した。

結 果
1)下水におけるHAV検出状況
2013年12月にC処理場にて、2014年2月、3月にB処理場にて採水した流入水からHAV遺伝子を検出した。遺伝子型は、2013年12月:III A型、2014年2月:IA型、2014年3月:IIIA型であった(図1)。

2)HAV家族内感染事例発生状況
女性(40歳)が急性肝炎を発症し(症例1)、その家族2名が症例1の発症15日後(症例2:女性66歳)および18日後(症例3:男児10歳)にそれぞれ急性肝炎を発症した。症例1~3の血清および症例3の糞便からHAV遺伝子が検出された。その他の家族3名について積極的疫学調査を実施した。その結果、2名の糞便からHAV遺伝子が検出されたが(症例4:女児2歳、症例5:男児0歳)、2症例とも肝炎を発症しなかった。検出されたHAVの遺伝子型はIA型であった(図1)。症例1~5すべてにおいて、発症または感染確認後2週間以降に採取された糞便からHAV遺伝子が検出され、その検出期間は17~39日間と長期間にわたった(図2)。喫食調査等を行ったが、初発の症例1の感染源は不明であった。

考 察
下水および患者からIA型HAVが検出されたが、系統樹解析結果(図1)では異なる系統のウイルスであり、また、患者の居住地もHAVが検出された下水処理場の地域ではなく、両者の疫学的関連はないものと考えられた。2013年12月、2014年2月、3月に患者報告はなかったが、同時期にBおよびC下水処理場の流入水からHAVが検出されており、この地域にHAV感染者が存在していたと推測された。2014年に全国的に流行しているHAVの主要な遺伝子型はIA型であり、IIIA型は東北地方を中心に限局的に流行している型であったと報告されている3)。しかし、今回の結果より、堺市内においてはIAのみならずIIIA型のHAVの感染者も存在していたと考えられた。

A型肝炎は、今回の家族内感染事例でもみられたように、特に小児(症例4、5)では不顕性感染が多く、また、潜伏期間が約1カ月と長期である。したがって、疫学調査において、感染源の特定や感染実態の把握も一般的には困難な事例が多い。今回下水から検出したHAVは感染者糞便由来と推定され、また、感染者の糞便中にHAVが長期間排泄・検出されることから、下水中のウイルス遺伝子検出や遺伝子型解析は、流入地域における感染や浸淫状況、さらに感染源や経路を把握する上で有用な情報を提供すると考えられる。

謝辞: 検体採取等調査にご協力いただきました堺市下水道部、保健所等関係各位に深謝いたします。

 

参考文献
  1. IASR 23: 273, 2002
  2. IASR 23: 147-149, 2002
  3. 感染症発生動向週報(IDWR)2014年22号:A型肝炎の発生動向

堺市衛生研究所
  三好龍也 内野清子 岡山文香 芝田有理 吉田永祥 小林和夫     
大阪府立公衆衛生研究所 左近直美     
富田林保健所 土生川洋
国保日高総合病院 田中智之
国立医薬品食品衛生研究所 野田 衛

 

 

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