国立感染症研究所

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A型肝炎検査マニュアル通知法のリアルタイムPCRによる広域株の偽陰性の可能性について

(IASR Vol. 36 p. 7- 8: 2015年1月号)

2014年に発生した急性A型肝炎159例の患者検体からのHAVの構造/非構造 junction領域の配列を決定し、分子疫学的解析を行った結果、genotype IAが137例、IIIAが18例、IBが4例であった。IAのうちの75%は遺伝子解析を行った領域の配列がほぼ完全に同一であった。この株は宮城県から鹿児島県まで広範囲にわたり検出されているため、2014年IA(広域型)と呼ぶ。2014年春季のA型肝炎の流行は、その大部分がこの2014年IA(広域型)によるものであることが明らかとなった。

国立感染症研究所(感染研)で検査を行った急性A型肝炎159例の患者検体について、通知法(A型肝炎検査マニュアル、平成18年8月)https://www0.niid.go.jp/niid/reference/HA-manual.pdf)のリアルタイムPCRでの検出を試みたところ、コンベンショナルPCRにより2014年IA(広域型)と判明した31検体中29検体で検出限界以下と判定された。この結果から、確認のためにリアルタイムPCRを用いると、2014年IA(広域型)の場合は、本来陽性であるべき検体が陰性と判定される恐れがあることが判明した。

2014年IA(広域型)のリアルタイムPCRで増幅される領域の配列解析を行った結果、HAV-449、HAV-557それぞれに1塩基ずつのミスマッチが見出された。HAV-557に存在するミスマッチはプライマーの3’端に近い位置であり、PCRに与える影響が大きいものと思われた。そのため、HAV-557の配列を混合塩基を含むように変更したところ(http://www.niid.go.jp/niid/images/iasr/rapid/graph/vol35/pf41232.gif参照)、リアルタイムPCRで2014年IA(広域型)の増幅が可能になった。

本来、遺伝子検査陽性であった検体がリアルタイムPCRにより陰性と判定されていた可能性について、抗体陽性にもかかわらずリアルタイムPCRで陰性と判定された検体が複数報告された神戸市環境保健研究所で確認を実施した。

神戸市では、2014年4月2~8日に急性A型肝炎4名(男2名、女2名)の患者検便が採取され、神戸市環境保健研究所に搬入された。遺伝子検査として、リアルタイムPCRを実施したところ、全例検出限界以下で陰性と判定した。しかし、患者全員に黄疸などの肝機能障害がみられ、血清IgM抗体も検出されていることから、感染研のコンベンショナルPCRで再検査を実施したところ、全例で明瞭なバンドが確認でき、陽性と判定した。さらに、遺伝子型を決定するために、PCR産物をダイレクトシークエンスしたところ、2014年IA(広域型)であることが判明した。

PCRによる確認検査は、ウイルスの遺伝子配列の変異により使用しているプライマーとの間にミスマッチが生じ、本来陽性である検体が陰性と判定される可能性は否定できない。今回の2014年IA(広域型)はその1つの例である。PCR検査の場合、陰性と判定することに明らかな疑義がある場合は、他の検査結果も参考にするなど、注意深い判定が必要と思われる。

 

国立感染症研究所ウイルス第二部 石井孝司    
神戸市環境保健研究所感染症部 奴久妻聡一

 

 

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