国立感染症研究所

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飲食チェーン店における腸管出血性大腸菌O26による食中毒事例―新潟県

(IASR Vol. 36 p. 79-80: 2015年5月号)

2014(平成26)年5月~6月にかけて、当県に本社のある飲食チェーン店において、加工食肉(脂肪注入された牛ヒレ肉)の加熱不足が原因と考えられる腸管出血性大腸菌O26(以下O26)による食中毒の広域散発事例が発生したので報告する。

平成26年6月25日午後3時頃、福井県から新潟県に対し、「複数のO26感染者が共通して新潟県に本社を置く飲食チェーン店を利用している」旨の連絡があり、当県から同社のチェーン店がある自治体に対し、チェーン店における有症苦情およびO26感染者の利用の有無を照会したところ、新潟県、新潟市、福井県、山形県、富山県の4県1市のO26感染者6人(うち富山県の1人は無症状感染者)が、5月中旬~6月中旬の間に同社のチェーン店で加工食肉のステーキを食べていたことが判明した。

また、当該加工食肉は同社が一括で仕入れていたもので、感染者の店舗利用日から加工食肉の流通履歴をたどった結果、感染者に提供されたと推定される加工食肉のロットは特定の期間のものにほぼ集中していた。

無症状感染者を除く患者5人の主な症状は下痢(1人は血便あり)、発熱で、潜伏期間は3~8日間(平均4.8日間)であった()。

国立感染症研究所(感染研)が感染者6人の便から採取されたO26菌株の遺伝子を解析したところ、すべての遺伝子型が一致した〔解析方法:反復配列多型分析(MLVA)およびパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)〕。

また、感染者に提供されたと推定されるロットと同じ期間に加工された加工食肉(加工施設に保管されていたもの)の一部からもO26が検出され、感染者の菌株の遺伝子型と一致した(遺伝子解析実施機関:新潟県保健環境科学研究所および感染研、解析方法:MLVAおよびPFGE)()。

有症の感染者が利用した店舗を所管する新潟県、新潟市、福井県、山形県は、感染者および加工食肉から同じ遺伝子型のO26が検出されたこと、感染者が共通して加工食肉のステーキを食べていること、各店が加工食肉を十分に加熱することなく提供していたこと、医師から食中毒の届出があったことから、各店で提供された加工食肉のステーキを原因食品とするO26による食中毒と断定した。

また、有症の感染者が利用した店舗を所管する新潟県、新潟市、福井県、山形県は、各店舗に対し7月11日~13日までの3日間、営業の停止を命ずるとともに、従事者に対する衛生教育等を実施した。

チェーン店で提供されていた加工食肉の商品ラベルには「脂肪を注入している」旨と「十分な加熱を要する」旨の表示があった。

しかしながら、本社からチェーン店に対し、当該加工食肉の提供にあたり十分な加熱を要する旨の指示はなされておらず、O26に汚染された加工食肉がチェーン店において十分に加熱されることなく提供され、食中毒の発生に至ったと考えられる。

なお、食中毒と断定する前、同社本社を所管する当県の保健所は、6月25日、同社に対しチェーン店における肉の加熱調理の徹底を指示した。これを受け、6月26日までに同社は、チェーン店での加熱徹底を図った。

本件では、O26感染者2人が同一飲食店を利用していた事実を探知した福井県から、同系列会社のチェーン店を所管する自治体に感染者情報の提供があったことから、比較的早く全容を把握することができた。この情報提供がなかった場合、感染研が自治体から送付されたO26菌株の遺伝子解析を行うまで、感染者の共通性が見出せなかった可能性がある。

本件のように、共通の食材を原因として広域かつ散発的に患者が発生した場合には、できるだけ早い段階で厚生労働省や関係自治体の間で患者の発生情報を共有することが重要と考えられる。

 

新潟県福祉保健部生活衛生課 山内洋之 小松雅美

 

 

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