国立感染症研究所

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花火大会関連腸管出血性大腸菌O157 VT1&2集団発生事例-静岡市

(IASR Vol. 36 p. 80-81: 2015年5月号)

概 要
2014(平成26)年8月1日、市内医療機関から、「下痢や嘔吐等の胃腸症状を呈して入院した患者4人が腸管出血性大腸菌O157(以下O157)の迅速キットで陽性となり、食中毒が疑われる。」との連絡があり、直ちに調査を開始した。

8月2日、静岡市保健所は、2014(平成26)年7月26日に開催された花火大会の露店(同じ営業者が出店した2店舗)にて提供された「冷やしキュウリ」を原因食品とするO157の集団食中毒と断定した。最終的には、患者数は510人(うち、入院は114人)となり、O157を原因とする食中毒としては過去10年で最悪な事例となった。

冷やしキュウリについて
営業者の証言によると、「冷やしキュウリ」とは、ヘタを取り、縞状に皮を剥いたキュウリを、水で希釈した市販の浅漬けの素に浸漬後、割りばしを刺し、冷やして客に提供するものである。当該花火大会に2店舗を出店し、販売数は併せて約1,000本とのことであった。原材料のキュウリは当日の朝仕入れ、下処理し、14時頃から大型ポリバケツで200~250本単位で2~3時間の漬け込みをした。バケツは4つあり、計5回漬け込みをした。使用した水は、市販のミネラルウォーターのみであった。客は、付け合せ(みそ、塩、マヨネーズ)を好みにより利用した。

患者の発症状況
初動調査の結果、症例の定義を「7月26日に開催された市内花火大会に参加し、7月26日~8月16日の間に少なくとも一つの消化器症状(腹痛、下痢、血便)を呈した者」とした。症例は、513人であった。

初発例は7月27日(男性5人、女性15人)、発生のピークは7月31日(男性30人、女性77人)であった()。主な症状は、腹痛、下痢、血便であり、溶血性尿毒症症候群発症者は5人(1~19歳のいずれも女性)であった。

患者の喫食状況および原因食品の断定
症例513人のうち、当該露店が提供した冷やしキュウリの喫食者は510人で99.4%であった。症例対照研究による解析疫学の結果、冷やしキュウリの喫食と発症の間に強い関連性が示された()。

原因物質の特定
症例の検便を199検体実施し、193検体から腸管出血性大腸菌(O157およびO抗原不明)を検出した。また、従事者6人のうち、1人の検便からO157を検出した。当日使用したとされるポリバケツやその他の器具のふき取り検体から、O157は検出されなかった。

検便結果および症例の潜伏期間、症状等を勘案し、原因物質をO157と断定した。パルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)法による遺伝子解析では、症例8人中5人と従事者1人のパターンは一致し、残り3人の患者のパターンもバンド1本の違いであった。

食中毒事件としての判断
以上により、静岡市保健所は、集団食中毒事件として断定した。

本事件における患者の定義は、「当該露店(2店舗のいずれか)で提供された冷やしキュウリを喫食し、平成26年7月27日~8月7日までの間に、食中毒症状〔腹痛または下痢(血便を含む)〕を呈していること」とし、症例のうち510人が該当した。

考察・再発防止策
考えられる汚染原因は、①原材料、②使用した器具、③従事者および④環境由来であったが、証言に裏付けがなく、特定することはできなかった。

①使用した原材料〔キュウリ、その他原材料(付け合せ、浅漬けの素等)、水〕はいずれも広く流通する市販品であったが、これらを原因とする有症苦情は確認されなかった。したがって、原材料がはじめから汚染されていた可能性は低いと考えられた。

②使用器具は、当該花火大会の翌日にも別のイベントで使用し、さらに洗浄されていたため、汚染の有無の判断はできなかった。

③営業者の証言によると、従事者は、ミネラルウォーターで手を洗い、使い捨て手袋やアルコールを使用して作業に当たっていた。従事者の1人からO157を検出したが、当該従事者は健康保菌者であったことに加え、販売時に冷やしキュウリを喫食したと証言したことから、汚染原因となったか否かは判断できなかった。

④ 環境由来については、判断材料がなかった。

本事例の冷やしキュウリは、浅漬けに該当し、食品衛生法に基づく許可は必要としない。また、保健所がイベント等における当該行為を事前に把握することは極めて困難である。今後は、イベント主催者に対し冷やしキュウリ等の販売自粛を求めるとともに、監視指導、事前相談等を強化することで再発を防止することとしたい。

 

静岡市保健所食品衛生課
  浅沼貴文 井手 忍 渡邊由佳 小田真也 塩野正義
  星 雪野 山口真澄 井上 一 鈴木 忍

 

 

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