国立感染症研究所

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小児侵襲性B群溶血性レンサ球菌感染症の罹患率推移、2007~2014年

(IASR Vol. 36 p. 158-159: 2015年8月号)

はじめに
小児における髄膜炎や敗血症などの侵襲性感染症の主な病原体は、インフルエンザ菌b型(Hib)と肺炎球菌、そしてB群溶血性レンサ球菌(GBS)である。Hibと肺炎球菌については、本邦でも2008年12月および2010年2月より結合型ワクチンが販売開始され、侵襲性感染症罹患率が著明に減少した1)。しかしながら、GBSには有効なワクチンが存在せず、発症した場合の予後は不良であるため、侵襲性GBS感染症の予防、治療は依然重要な課題として残されている。われわれは厚生労働科学研究事業研究班(神谷班、庵原・神谷班)として、小児侵襲性細菌感染症の人口ベースアクティブサーベイランスを2007年より継続して実施している。今回は2014年までの小児侵襲性GBS感染症に関して、罹患率推移を中心とした疫学的データを報告する。

調査方法
調査対象地域は、北海道、福島県、新潟県、千葉県、三重県、岡山県、高知県、福岡県、鹿児島県、沖縄県の10道県である。2007年1月~2014年12月の8年間に生後0日~15歳未満で、GBSによる侵襲性感染症に罹患した全例を対象に前方視的調査を実施した。血液、髄液などの無菌部位より採取された検体においてGBSが検出された症例を侵襲性感染症と定義した。北海道は髄膜炎症例のみを対象として調査を実施した。沖縄県は2008年より研究に参加した。罹患率の算出には、総務省統計局発表の各年10月1日時点の県別推計人口および出生数を用いた。

結 果
研究期間中に各県より報告された患者数を示した()。5歳未満小児で髄膜炎は119例、敗血症などの非髄膜炎感染症は108例報告された。2007年は調査1年目であり後方視的調査であったこと、および沖縄県が未参加であったことから報告患者数が少ないと考えられた。2008年以降は侵襲性GBS感染症全体で年間25~42名の患者発生であった。5歳未満小児10万人当たりの罹患率は2008年以降髄膜炎で0.9~1.5、非髄膜炎感染症で1.0~2.4であった。2008~2012年および2013~2014年の罹患率を比較し、罹患率比(IRR)および95%信頼区間(CI)を算出した。髄膜炎ではIRR0.93、95%CI:0.61-1.42であったが、非髄膜炎感染症ではIRR2.07、95%CI:1.41-3.04であり、2013年以降の罹患率が有意に増加していた。年齢群別患者数では、91.5%(髄膜炎)、85.2%(非髄膜炎)が生後3か月未満に発症していたため、出生数1万人当たりで罹患率を算出した(表)。2008年以降の生後3か月未満罹患率は0.4~0.8(髄膜炎)、0.4~1.1(非髄膜炎)であり、5歳未満と同様に非髄膜炎感染症において2013年以降に有意な増加を認めた(IRR1.71、95%CI: 1.11-2.62)。2014年の罹患率は侵襲性GBS感染症全体で1.8/1万出生であった。発症日齢が明らかであり、早発型(生後0~6日発症)と遅発型(生後7~89日発症)の区別が可能であった症例は87例であり、早発型26例(29.9%)、遅発型61例(70.1%)であった。患者性別は、髄膜炎、非髄膜炎感染症ともに男児の比率が高く(53.8%、57.7%)、Hibおよび肺炎球菌による侵襲性感染症での既報と同様の傾向を示した。予後に関しては、5.9%(髄膜炎)、7.4%(非髄膜炎)、6.6%(全体)が死亡し、21.2%(髄膜炎)、5.6%(非髄膜炎)、13.7%(全体)において何らかの後遺症を認めた。

考 察
全国規模の人口ベースアクティブサーベイランスにより、侵襲性GBS感染症の罹患率が近年増加傾向を示していることが明らかとなった。GBSの主たる感染経路として、母体からの垂直感染が最も重要であり、本邦でも感染予防ガイドラインが2008年より提唱されている2)。Matsubaraらは、病院ベースの後方視的なGBS感染症の疫学調査を行い、ガイドライン導入による変化について報告している3)。それによると、生後3か月未満の罹患率(/1,000出生)は、早発型で0.08、遅発型で0.10であり、ガイドライン開始前(2004~2008年)、後(2009~2010年)で有意な変化は認められなかったものの、致命率は14.8%から11.8%(早発型)、9.8%から2.5%(遅発型)に減少していた。本研究の調査期間は主にガイドライン開始後であるが、2011年以降も罹患率の減少は認めていない。2014年の生後3か月未満の罹患率(/1万出生)は1.8であり、Matsubaraらの報告の早発型と遅発型を合わせた罹患率と一致していた。また、ガイドライン開始後の早発型と遅発型を合わせた致命率は7.1%であり、本研究の致命率(6.6%)とほぼ同様であった。

本研究においては、侵襲性GBS感染症の罹患率が増加傾向であった原因は明らかではない。早発型と遅発型の区別ができていない症例があるため、垂直感染対策の有効性に関する検証を行うためにはデータは不十分であると考える。本研究は人口ベース全数把握調査であることより、侵襲性GBS感染症は、本邦において年間200人程度発生していると推定される。また、依然として高い致命率であり、救命し得た場合でも重篤な神経後遺症が高頻度に認められていることより、予防対策の向上が必要であると考える。今後本研究班では、現行ガイドラインの実施状況、実施内容などについて、より詳細な患者情報とともに収集し、感染危険因子とその対策に関して解析、検討を進める予定である。

 
参考文献
  1. IASR 35: 233-234, 2014
  2. Minakami H, et al., Guidelines for obstetrical practice in Japan: Japan Society of Obstetrics and Gynecology (JSOG) and Japan Association of Obstetricians and Gynecologists (JAOG); 2011, Available at:
    http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1447-0756.2011.01653.x/full 
  3. Matsubara K, Hoshina K, Suzuki Y, Int J Infect Dis 2013; 17(6): e379-384

国立病院機構三重病院小児科
  菅 秀 庵原俊昭 浅田和豊
札幌市立大学 富樫武弘
福島県立医科大学 細矢光亮 陶山和秀
千葉大学 石和田稔彦
新潟大学 齋藤昭彦 大石智洋
岡山大学 小田 慈
高知大学 藤枝幹也 佐藤哲也
福岡歯科大学 岡田賢司
鹿児島大学 西 順一郎
沖縄県立南部医療センター ・こども医療センター 安慶田英樹

 

 

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