国立感染症研究所

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米国領サモアの小児におけるリウマチ熱およびリウマチ性心疾患の実態調査、2011~2012年

(IASR Vol. 36 p. 160: 2015年8月号)

リウマチ熱は、A群溶血性レンサ球菌(GAS)による咽頭炎に続発する非感染性の免疫性疾患である。好発年齢は5~15歳の小児で、咽頭炎が適切に治療されなかった場合、2~3週後に発症する。菌体に対する抗体と心臓、神経、滑膜組織との交差反応が病因であり、心炎、関節炎、舞踏病などが主症状である。このうち特に心炎は感染性心内膜炎、脳卒中、心不全などの後遺症の原因となる。リウマチ熱はペニシリンで予防できることが示されており、咽頭炎の発症から遅くとも9日以内の開始が推奨されている。リウマチ熱は米国本土では20世紀後半にかけて0.04~0.06/1,000児/年まで罹患率が減少したが、ハワイや米国領サモア在住のサモア人では0.1/1,000児/年が罹患しており、人種の違いを加味しても高い率であった。

2013年8月、米国疾病管理予防センター(CDC)と米国領サモア唯一の病院であるLyndon B. Johnson熱帯医学センターは共同で、米国領サモアにおけるリウマチ熱およびリウマチ性心疾患の実態を調査した。症例を2011~2012年の間に病院を受診し、リウマチ熱あるいはリウマチ性心疾患と診断された18歳以下の小児と定義し、患者の診療録から症例を探索した。リウマチ性心疾患の診断は、2012年夏まではJones criteriaを用い、その後はより感度の高いオーストラリア・ニュージーランドのガイドラインが用いられた。

2011年、2012年の罹患率はそれぞれ1.1、1.5/1,000児/年であり、期間中に65人がリウマチ熱と診断された。そのうち60%が男児で、年齢中央値は11歳(範囲:2-18)であった。32人(49%)は、後にリウマチ性心疾患を合併した。リウマチ熱の診断から遡って6カ月以内に咽頭炎と診断されていた人は12%であった。予防治療の遵守状況は22人(34%)で不良であった。リウマチ性心疾患を合併した32人のうち、21人(66%)はリウマチ熱の既往が明らかではなく、重症になるまで受診をしない場合が多いと考えられた。2013年8月時点の有病割合は3.2/1,000児であった。診療録で確認された咽頭炎34人は、迅速抗原検出で3人(9%)、咽頭培養で15人(44%)が診断されており、16人(47%)は臨床診断のみであった。

米国領サモアにおけるリウマチ熱、リウマチ性心疾患の制御に向けた提言は、咽頭炎の診断および治療の改善、ペニシリン予防治療の遵守向上など多岐にわたる。米国領サモアでは医療機関での治療よりも伝統的な治療法を好む傾向があり、医療者の中にも検査診断よりも臨床診断に頼る傾向がある。GAS咽頭炎の診断や治療の向上により、20世紀半ば以降米国本土やその他の先進国ではリウマチ性心疾患の患者が急激に減少したが、サハラ砂漠以南のアフリカや、オーストラリア、ニュージーランド等いくつかの地域では今もなお小児や若年者における心疾患の主要因である。米国領サモアを含めたこれらの流行地域では、社会啓発による咽頭炎の受診率の向上、エビデンスに基づいたGAS咽頭炎の診断およびペニシリンによる治療戦略(一次予防)、リウマチ熱の早期診断や再発予防策(二次予防)、強制力のある報告制度等を包括した対策が重要である。

〔出典:Beaudoin A et al., CDC, Morb Mortal Wkly Rep 2015 May 29; 64(20): 555-558〕

抄訳担当:国立感染症研究所感染症疫学センター 小林彩香 山岸拓也

 

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