国立感染症研究所

ヒトパルボウイルスB19母子感染の実態

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ヒトパルボウイルスB19母子感染の実態

(IASR Vol. 37 p. 7-8: 2016年1月号)

はじめに
ヒトパルボウイルスB19(以下PVB19)は、小児でよくみられる両頬の紅斑を特徴とした伝染性紅斑(リンゴ病)の原因ウイルスである。通常は年長児に好発する予後良好な急性感染症である。成人では不顕性感染が多いが、妊娠中の初感染によって胎児水腫や胎児死亡を引き起こすことがある。日本人妊婦の抗体保有率は、20~50%とされる。伝染性紅斑は春から夏にかけて流行する傾向があり、4~5年周期で流行がみられる。近年では、2007年と2011年の流行の後、2015年に全国的な流行があった。

妊婦が初めて感染した場合、約2割でウイルスが胎盤を通過し胎児感染を起こし、そのうち約2割が胎児の貧血や胎児水腫を起こす。これは、全初感染妊婦のおよそ4%にあたる。胎児水腫の発生機構としては、ウイルスが胎児赤血球系前駆細胞に感染し、造血障害による重症貧血、心不全、低酸素血症を引き起こす。PVB19は心筋細胞にも感染し、心筋の障害が胎児水腫や胎児死亡の発生に関与する。重篤な血小板減少が胎児水腫の約半数にみられる。胎児水腫は母体感染から9週以内に発症し、その多くは2~6週に発症する。特に妊娠早期の感染が問題となる、妊娠28週以降の母体PVB19感染による胎児水腫や胎児死亡の発生率は低いとされる。胎児水腫の約3割は自然に軽快する1,2)

一般的な、PVB19 感染が疑われる妊婦の管理方法を図1に示す。

1. 母子感染の全国調査
本邦における母子感染の実態を明らかにすることを目的に、2011~2012(平成23~24)年度の厚生労働科学研究(山田班)によって全国調査を行った。倫理委員会承認のアンケート方式とし、全国 2,714の妊婦健診施設における2011年1~12月の間に経験した症例を調査の対象とした。1,990施設より回答が得られ、アンケート回収率は74%であった。回答施設での分娩数は合計788,673で、2011年の総分娩数の75%を占めた。

臨床症状および検査結果の情報を収集・分析して、先天性感染あり、ないし不確定と最終的に判定した症例数を表1に示す。分娩、死産、流産および人工妊娠中絶を含めた先天性感染数は、サイトメガロウイルス 34人、トキソプラズマ1人、風疹4人、梅毒5人、新生児ヘルペスは8人であった。予想される先天性感染数に比べて、サイトメガロウイルスやトキソプラズマの診断症例が少な理由として、これらの母子感染では予防対策や検査・診断法がまだ確立されていないためと推察した。そして、先天性PVB19感染が最も多く69人であった3)

2. 先天性PVB19母子感染の実態
先天性PVB19感染の確定69人の内訳は、中絶3人、流産35人、死産14人および分娩17人であり、PCR陽性(羊水、血液ないし胎盤組織)、児IgM陽性、貧血や胎児水腫などの症状によって診断した。先天性感染69人のうち49人(71%)が流死産の妊娠帰結であった。流死産時期は中央値妊娠18週(範囲12~26週)であり、17人の分娩時期は38週(22~40週)で、うち15人は正期産であった。

先天性感染69人のうち、34人(49%)が母体に伝染性紅斑の症状は無く(不顕性感染)、37人(54%)は家族(うち94%は子供)に伝染性紅斑の症状が出ていた。また、58人(84%)に同胞(上の子供)がいた。特に家族や周囲に発症者が居る場合は、母子感染に注意が必要である。

出生前の超音波異常は65人で認められ、胎児水腫、胎児腹水・胸水、胎児貧血(middlecerebral arterial peak systolic velocity, MCA-PSVの高値)、心拡大、胎児発育不全、肝脾腫の順で多かった(図2)。超音波異常の出現時期は中央値妊娠17週(範囲10~26週)であり、27週以降の初発出現はなかった。母体の伝染性紅斑症状の出現時期が明らかな27人において、母体症状の出現から超音波異常出現までの期間は、中央値3.5週(1~9週)であった。超音波異常の発生頻度は、母体症状が10週未満に出現した場合には100%(2/2)、10~19週で64%(14/22)、20~24週では50%(1/2)、31週は0%(0/1)であった。母体症状出現の週数が早いほど、超音波異常の発生頻度が高かった。妊娠8週~20週は胎児の肝造血期前半に相当し、赤血球半減期が、妊娠後半期の骨髄造血期の赤血球半減期と比較して短いことが、その理由とされる。

先天性感染69人中11人において、妊娠20~24週に胎児治療が行われた。内訳として、胎児輸血単独9人、胎児輸血+母体静脈内免疫グロブリン投与2人であった。胎児輸血単独の3人(27%)は無症候性の先天性感染(障害なし)で出生したが、それ以外の8人全員、20~26週に流死産に至っていた。過去の報告1), 2)に比べて、実際の胎児輸血効果は低かった。

この全国調査によって、伝染性紅斑の流行期にはPVB19母子感染は流産や死産の原因となっていることが明らかとなった。初感染母体からの出生児に対してIgM検査がなされていないため、先天性感染の有無が判断できない報告例が多かった。PCR検査はごく一部でしか実施されていなかった。適切な医療管理を実施する観点から、出生児IgM検査の実施と、現時点で保険収載されていないPCRやIgG検査の導入が今後必要である。妊婦感染予防のための啓発パンフレット「パルボウイルスB19によるリンゴ病の感染予防について」は、http://www.med.kobe-u.ac.jp/cmv/からダウンロードが可能である。

 
参考文献
  1. Rodis JF, et al., Am J Obstet Gynecol 179: 985-988, 1998
  2. Enders M, et al., Prenat Diagn 24: 513-518, 2004
  3. Yamada H, et al., J Infect Chemother 21: 161-164, 2015


神戸大学大学院医学研究科外科系講座
  産科婦人科学分野教授 山田秀人

 

 

最終更新日 2016年2月23日(火曜)15:35

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