国立感染症研究所

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小児における伝染性紅斑の概要と地域における状況

(IASR Vol. 37 p. 3-4: 2016年1月号)

1.概念・定義
伝染性紅斑(erythema infectiosum)は、ヒトパルボウイルスB19(以下、PVB19)による感染症である。小児では頬がリンゴのように赤くなる(写真1)ことから、文字通り“リンゴ病”としてよく知られる。英語でも「頬が赤くなる」との意で “slapped cheek”と称されることもあるが、“fifth disease(第5の発疹症)”の方がより一般的に用いられている模様である。

2. 疫 学
伝染性紅斑は、5類感染症として小児科定点報告の対象疾患である。概ね数年おきに流行がみられる。流行年には春先から夏にかけて患者数が増加して秋になると落ち着くという傾向はあるが、明確にパターン化したものではない(https://www0.niid.go.jp/niid/idsc/idwr/IDWR2015/idwr2015-42.pdf; 2015年12月9日閲覧)。流行はその地域の感受性者の集積状況とも関連すると考えられ、実際に全国と地域とで流行年や季節性に若干の相違が生じている。たとえば、静岡市における大きな流行は2010年と2015年で、2011年は前半に前年の名残り、2014年は初冬から翌年にかけての流行の立ち上がり程度の小流行であった(http://www.city.shizuoka.jp/000_003584.html; 2015年12月9日閲覧)が、全国データとは季節性も含めて異なっていた印象である。

3. 症状・所見
リンゴ病自体は、頬が赤くなる(写真1)ことを最大の特徴とする予後良好な感染性疾患である。四肢を中心として特徴的な紅斑を呈することもある(写真2)。しかしPVB19は、神経(脳炎、脊髄炎、末梢神経痛)、循環器(心筋炎、房室ブロック)、造血器(溶血性貧血)、運動器(関節炎)、妊婦の場合には胎児(胎児貧血、胎児水腫)等々、各臓器に対して侵襲性の影響を及ぼすこともあるウイルスである。臨床症状・所見は年齢と関係しており、成人では典型的なリンゴ病の症状よりも、発熱、関節痛、四肢中心の皮疹、頭痛のほか、貧血など造血器系への影響が前面に出ることが少なくない。皮疹は、いったん収まった後でも日光への曝露によって再燃や遷延することがしばしば経験される。また、不顕性感染の頻度が高いとされている。

 頬に発疹が出現する1週間~10日ほど前に、前駆症状として感冒様症状がみられることがある。この時期にウイルス血症を起こしており、ウイルスの排泄量が最大になるとされる。特徴的な発疹を呈した時点ではウイルスの排泄はほとんどなく、感染性は失われていると考えられる。通常は飛沫または接触感染である1)

4. 診 断
小児科領域では、地域の流行状況を踏まえた上で、主に頬や四肢の特徴的な皮疹と、一方で元気であることの多い全身状態を捉えて、臨床的に「リンゴ病でしょう」と診断することが一般的である。PCR法によるPVB19のDNAの確認や、EIA法によりPVB19に対する血中のIgG/IgM抗体を測定する方法もあるが、小児科の日常診療において頻用されるものではない。

5. 治 療
伝染性紅斑に特異的なものはない。皮疹に掻痒感を伴う場合や、年長児で発熱、関節痛、頭痛等を訴えた場合に、対症療法として投薬することはあるが、いずれも頻度は高くない。

6. 小児科の日常診療の中で
小児科で診療する伝染性紅斑は、リンゴ病の俗称の通り、“真っ赤なほっぺ”をしているが、発熱もなく元気なことがほとんどである。本人および保護者に対しては、見た目が派手でわかりやすいが、基本的に予後良好な感染症であること、皮疹が出てそれとわかる時点ではすでに周囲への感染性はないため出席停止の対象にはならないこと、ただし、日光に当たることによって皮疹の悪化がみられることがあるので注意すること、などを説明する。

妊娠中に伝染性紅斑に罹患した場合に、胎児に影響が及ぶ場合があることが知られている2)。患児の母親が妊婦であった場合には、念のため注意を喚起する。しかし、母親の罹患歴の把握は困難であり、予防法もなく、すでに感染性のある時期は過ぎていること、さらには胎児に影響するリスク自体は高くないことから、無用な不安感を煽るべきではない。抗体検査で感受性の有無を確認すること、自身の症状の推移に注意すること、産科の主治医とよく相談して胎児エコーを励行していただくことなどは、小児科医からでも提案が可能である。

7. まとめ
伝染性紅斑は、小児にとっては時に微笑ましくもある所見を呈する、基本的に予後良好な感染症である。その感染性の時間経過を理解し、目立つ見た目に振り回されるべきではないという認識を、患者や家族、学校や園の関係者と共有することが肝要である。

  
参考文献
  1. https://idsc.niid.go.jp/idwr/kansen/k04/k04_23/k04_23.html
  2. 田中敏博, 日本臨床 別冊感染症症候群(下): 694- 698, 2013


JA静岡厚生連
  静岡厚生病院小児科 田中敏博

 

 

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