国立感染症研究所

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東京都におけるヒトパルボウイルスB19の検査および疫学状況

(IASR Vol. 37 p. 4-5: 2016年1月号)

ヒトパルボウイルスB19(PVB19)は、感染症法で5類感染症(定点把握対象)として定められている伝染性紅斑の原因ウイルスである。伝染性紅斑は小児に多く発症し、典型的な症例では両頬の平手打ち様紅斑や四肢の網状紅斑など、特異的な皮疹が認められる上に集団発生になる場合が多く、診断しやすいとされる。しかし、成人においては多彩な症状を呈するため、診断が困難なことも少なくない。

東京都健康安全研究センターでは、感染症発生動向調査事業と積極的疫学調査事業においてVP1領域を対象にしたnested-PCR法を用いたPVB19の検査を行っている。2009年1月~2015年10月末までに、伝染性紅斑患者に限らず、不明発疹症を中心に、麻しん、風しん、川崎病等、臨床症状に発疹の記載がある患者の検体、1,008検体を対象にPVB19を含むウイルス検査を実施し、214検体からPVB19を検出した。

臨床診断名別にみると、伝染性紅斑を疑う患者検体194検体中119検体からPVB19が検出され、PVB19が検出されなかった検体からは、アデノウイルス、エンテロウイルス、ライノウイルス、ヘルペスウイルス等が検出された。不明発疹症患者検体からは約3割にあたる71検体、さらに、麻しん疑い患者検体(麻しんウイルス陰性)224検体中16例、その他、川崎病、風しん、不明熱等の患者からもPVB19が検出されている(図1)。

PVB19が検出された患者の年齢および性別グラフを図2に示す。全体の男女比は、男性103名、女性104名とほぼ同数であった。年齢別ではPVB19陽性者の多くは10歳以下であり、特に0~5歳までが患者の過半数を占めていたが、50歳までの幅広い年齢階層からも検出されており、PVB19の感染年齢の幅広さがうかがわれた。

成人(20歳以上)でPVB19が検出されたのは、伝染性紅斑患者では7.6%(9/119)、不明発疹症患者においては4.2%(3/71)であるのに対し、麻しん疑い患者では31.2%(5/16)と高く、成人におけるPVB19感染症の臨床診断の難しさを反映しているものと考えられた。

また、PVB19が検出された成人患者における男女比は、伝染性紅斑疑い患者では女性の比率が88.9%(8/9)、不明発疹症患者では66.7%(2/3)、麻しん疑い患者においては20.0%(1/5)と、麻しん疑い患者以外では女性が多数を占める傾向があった。

一般的に、伝染性紅斑は4~5年間隔で流行し、季節的には春から初夏にかけて流行がみられるとされている。しかし、近年の東京都における流行状況をみると、季節的な流行パターンはみられず(図3)、2010年の流行時は7月に始まった流行が翌年7月まで続いた。今回も2014年の10月から始まった流行が年を越えて8月まで継続している。流行は複数年にわたることもあるほか、流行していない年であっても、PVB19の検出は一定数認められていた。

 

東京都健康安全研究センター微生物部
   長谷川道弥 鈴木 愛 岡崎輝江 千葉隆司 秋場哲哉 貞升健志

 

 

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