国立感染症研究所

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献血血液のヒトパルボウイルスB19スクリーニングの報告

(IASR Vol. 37 p. 8-9: 2016年1月号)

はじめに
ヒトパルボウイルスB19(以下PVB19)は、1975年Cossartらによってヒト血清中から発見され、本邦では1979年に山野らによって献血血液中にNAKATANI抗原として見いだされていたものが、1984年に大河内らによってPVB19と同一であることが報告された。

本稿では、献血血液のPVB19抗原検査の状況、献血者のPVB19抗原・抗体、PVB19 DNAの分布、PVB19陽性献血者の関連マーカーの動態、および輸血によるPVB19感染の発生状況について報告する。

1.献血血液のPVB19抗原検査
日本赤十字社血液センターでは、血漿分画製剤の原料血漿からPVB19陽性血液を除外する目的で、1997年9月からRHA法(receptor mediated hemagglutination assay)により全献血血液のPVB19抗原スクリーニング検査を開始した。この検査におけるRHA法の検出感度は概ね1010 copies/mLであり、血漿分画製剤の原料血漿からPVB19ウイルス血症期と想定される高ウイルス量の血液を除外することが可能となった。2008年より検査方法をCLEIA法(chemiluminescent enzyme immunoassay)に変更したことにより検出感度は約106 copies/mLに向上した。

2.献血者のPVB19抗原・抗体、PVB19 DNAの分布
PVB19抗原:献血者のPVB19抗原陽性率(RHA法)は、2001~2007年の全国調査の結果、0.004%~0.01%(陽性数:2,806/概算献血実人数:30,360,000、平均0.009%)であった。各年および季節間の陽性率は、国立感染症研究所による伝染性紅斑の定点報告集計数と連動していることを認めた。年齢別陽性率は、18~19歳 0.0055%、20代 0.0061%、30代 0.016%、40代 0.012%、50代 0.0035%、60代 0.0028%で、男女差は認められなかった1)

PVB19抗体:2008~2009年の大阪府内の献血者のうち、PVB19抗原陰性者(RHA法)、すなわちPVB19ウイルス血症期と想定される献血者を除外し、献血月、年代、性別の数を均等化した計651名を対象とした調査を実施した。その結果、PVB19 IgG抗体陽性は369名、56.7%で、献血月、年代、男女差は認めらなかった1)

PVB19 DNA:上記651名中のPVB19 DNA陽性は88名、13.5%で、10代23.4%、20代10.8%、30代11.7%、40代25.9%、50代8.3%、60代0%で、男女差は認められなかった。また、PVB19 DNA陽性全例がウイルス量103 copies/mL以下で、PVB19 IgG抗体が陽性であった1)

3.PVB19陽性献血者の関連マーカーの動態
1997~1999年の大阪府内での献血者979,052人のうち、PVB19抗原(RHA法)が陽性となった102人のうち20人について、その後の献血をフォローしてPVB19関連マーカーの動態を調査した。フォローアップ対象者は男性15人、女性5人、平均年齢34歳、フォロー期間は101~1,749日であった。

その結果、20例中18例は、14~70日後にPVB 19 IgM、 IgG抗体ともに陽転化し、73~181日後にはIgM抗体のみが陰性化した。18例中1例はIgM抗体が463日後に再び陽転化し、直近の陰性時点に比べIgG抗体がC/I値で2倍以上、PVB19 DNA量が730から4,840 copies/mLに増加していた。他の2例は、729日および743日のフォローアップ終了時点までIgM抗体が陽性であった。また、20例すべてがフォローアップ全期間においてIgG抗体が陽性を示した。

PVB19 DNA量は、PVB19抗原陽性時点は全例が1012 copies/mL以上であったが、14~28日後には105 copies/mLまで急減した。20~336日には104、131~624日後には103、206~1,749日後には102 copies/mLと減少したものの、検出限界以下となった例は認められなかった1,2)

4.輸血によるPVB19感染の発生状況
献血血液のPVB19抗原スクリーニング開始後18年余の間に輸血後PVB19感染が10例確認され、それら受血者の原疾患は10例中7例が血液疾患関連、2例が妊娠出産、1例が固形腫瘍であった。

佐竹らは10例中5例の受血者について輸血後の症状を調査した結果、いずれの例も輸血後に発熱、貧血、網赤血球減少等が認められたものの、その後回復していることを報告している3)。輸血された血液の保管検体による調査の結果、10例すべてがPVB19 DNAかつPVB19 IgM抗体陽性であったことから、献血時はPVB19感染の初期状態であったと考えられる。

輸血によるPVB19感染の発生頻度は、RHA法によるスクリーニング検査を開始した1997~2007年の11年間で9例であったが、2008年からCLEIA法に変更して検出感度を向上した結果、2015年までの8年間では1例であった4)

なお、献血血液を原料とした血漿分画製剤については、スクリーニング検査開始以後PVB19感染は認められていない。

 

参考文献
  1. 日本赤十字社ヒトパルボウイルス陰性血液の確保に関する研究グループ,血液事業 35: 232-238, 2012
  2. Matsukura H, et al., Transfusion 48: 1036-1037, 2008
  3. Satake M, et al., Transfusion 51: 1887-1895, 2011
  4. Matsukura H, Japanese Journal of Transfusion and Cell Therapy 60: 561-564, 2014


日本赤十字社
  近畿ブロック血液センター検査部 松倉晴道

 

 

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