国立感染症研究所

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ペットからSFTSウイルスに感染し, SFTSを発症した事例報告

(IASR Vol. 40 p117-118:2019年7月号)

重症熱性血小板減少症候群(SFTS)は, SFTSウイルス(SFTSV)による感染症で, これまでヒトはウイルスを有するマダニに咬まれてSFTSVに感染し, SFTSを発症するものと考えられていた。また, SFTS患者との濃厚な直接的接触によりヒトからヒトにSFTSVが感染することも報告されていた。動物はSFTSVに感染すると多くの場合, 不顕性であると考えられてきたが, 広島でチーターがSFTSVに感染して発症した事例が報告された1)。このことは動物であってもSFTSVに感染して致死的な疾患を引き起こすことを示している。また, ネコやイヌがSFTSVに感染してヒトにおけるSFTS様の症状を呈し, 致死的であることが多いと日本の研究者らにより発表されている。

SFTSVに感染してSFTSに類似する症状を呈したネコに噛まれてSFTSを発症した患者が確認された。また, 同様にSFTSVに感染してSFTS様症状を呈したイヌとの接触によりSFTSを発症した患者も確認された。これらの患者報告が, 2018年に岡山で開催された第92回日本感染症学会学術総会で発表された。

ネコから感染したと考えられる前者の患者の概要は以下の通りである2)。患者は生来健康な50歳代の女性で, 発熱, 食欲低下, 嘔吐等の症状を呈し, 末梢血液検査で白血球減少と血小板減少が認められ, 症状が悪化し死亡した。病理解剖の所見から, SFTSが疑われ, 詳細な検査の結果SFTSが原因であったことが明らかになった。餌付けしていたネコに噛まれ, その2日後に発症していること, また, そのネコもSFTSV感染症を疑わせる症状, 検査結果が認められたことから, ネコから感染したSFTS患者と考えられた。

イヌから感染したと考えられる後者の患者概要は以下の通りである3)。生来元気であったイヌが元気消失, 食欲低下を呈した。そのイヌは回復したが, イヌの発症から10日目に飼い主が発熱, 関節痛, 頭痛等の症状に引き続き下痢等の消化器症状を呈した。後方視的に当該イヌおよび当該患者について, SFTSに関するウイルス学的な検査を実施したところ, ともにSFTSVに感染して発症していたことが明らかになった。

流行地ではSFTSV感染症を発症したネコやイヌからSFTSVに感染し, SFTSに罹患するリスクがあることが明らかになった。飼い主等は原因不明の病気のネコやイヌには, 直接触れないようにすることがSFTSV感染予防に重要である。また, 病気のネコやイヌに触れる機会の多い獣医療関係者はSFTSV感染リスクがより高いと考えられることから, 標準感染予防策, 必要に応じて接触感染予防策を講じる必要がある。

 

参考文献
  1. Matsuno K, et al., Emerg Infect Dis 24(9): 1726-1729, 2018
  2. O1-068:鶴 政俊ら, ネコ咬傷により重症熱性血小板減少症候群(SFTS)を発症したと考えられる1例, 第92回日本感染症学会, 岡山, 2018年5月
  3. O1-079:西條政幸ら, 飼い犬から重症熱性血小板減少症候群(SFTS)ウイルスに感染し, SFTSを発症した患者例, 第92回日本感染症学会, 岡山, 2018年5月

 

国立感染症研究所 西條政幸
国立病院機構関門医療センター 鶴 政俊
おおしま動物病院 大島寛彰
内科クリニック・オクムラ 奥村博信
国立感染症研究所
山口大学共同獣医学部獣医微生物学
 前田 健

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