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<速報>水痘入院例全数報告の開始と水痘ワクチン定期接種化による効果
      ~感染症発生動向調査より~

(掲載日 2015/5/26 更新日 2015/6/18)  (IASR Vol. 36 p. 143-145: 2015年7月号)

はじめに
水痘は水痘帯状疱疹ウイルス(varicella-zoster virus: 以下、VZVという。)の初感染によって発症し、小児では一般に軽症であるが、多数の合併症が存在することや、将来の帯状疱疹の発症リスクなどもあり、決して軽症疾患と侮ることはできないウイルス感染症である。重症のハイリスク者として15歳以上、乳児期後半、免疫不全患者、妊婦等が挙げられている。また、冬から春を中心に毎年流行がみられてきた。

水痘ワクチン(岡株)は、白血病やネフローゼ症候群等、免疫不全状態の小児を水痘から守るために、大阪大学の高橋理明博士らによって開発された、わが国発のワクチンである。日本では1987年から1歳以上の小児への接種が認可されたが、任意接種であったため接種率は低く推移していた。2014年10月1日(第40週)から水痘ワクチンが定期接種化された。生後12月~生後36月に至るまでに3月以上(標準的には6月~12月まで)の間隔をおいて2回の接種を行うこととなり、2014年度については、生後36月~60月に至るまでの者にも1回の接種が定期接種として実施された。

これに先立ってサーベイランス体制が変更となった。従来の感染症発生動向調査では水痘は5類感染症定点把握疾患に指定され、全国約3,000箇所の小児科定点から毎週患者数が報告されていたが、成人例、重症例、予防接種歴の把握ができなかった。また、医療機関では水痘の院内感染が問題になることが多かったが、その実態も不明であった。これらのことから、2014年9月19日(第38週)から小児科定点からの報告は継続したまま、24時間以上の入院を要した水痘症例が全数届出対象となり、他疾患で入院中に発症し、その後24時間以上入院した症例も届出対象となった。本稿においては、定期接種化とほぼ同時期に全数届出対象疾患として開始され約半年を経た、入院を要した水痘の状況について、概要を記述することを目的としている。  

方 法
2014年9月19日(第38週)~2015年4月26日(第17週)までに(2015年4月30日現在暫定値)、感染症発生動向調査に基づいて報告された入院水痘症例について、報告時期と年齢分布、診断方法、臨床像、院内発症例について疫学的にまとめた。

結 果 
全報告数は231例(男性131例、女性100例)であった。年齢中央値は26歳(範囲0–90歳)で、年齢分布としては0歳、1歳が各19例(各8.2%)と最多で、学童期にかけて減少し、30~40代に小さなピークを形成した。また、50歳以上が58例(25.1%)であった(図1)。

年齢分布を診断時期に基づいて、2014年第38~52週(15週間)、2015年を大きく等分して第1~9週(9週間)、同第10~17週(8週間)に分けて集計した(図2)。この時期的区分からは、0~3歳の割合は2014年第38~52週の29.6%から、2015年第10~17週では8.6%へと減少した。一方、同じ期間で、20~40代の割合は30.3%から40.0%に増加した。

合併症については、全症例中で肺炎・気管支炎15例(6.5%)、膿痂疹12例(5.2%)、肝炎8例(3.5%)、脳炎・髄膜脳炎5例(2.2%)、DIC 3例(1.3%)、多臓器不全2例(0.9%)、敗血症1例(0.4%)、小脳失調1例(0.4%)、急性散在性脳脊髄炎(ADEM)1例(0.4%)であり、他疾患入院中の発症26例(11.2%)、妊婦の水痘3例(1.3%)であった(いずれも重複例を含む)。届出時点での死亡例は無かった。

診断方法については、検査診断例が82例(35.5%)で、残りは臨床診断例であった。検査方法としては、分離同定18例、PCR法15例、蛍光抗体法11例、その他1例(複数検査実施3例)であった。ツァンク試験は報告基準の検査には含まれていないが14例で実施されていた。血清学的検査はVZV-IgM抗体価77例(33.3%)、VZV-IgG抗体価11例(4.8%)で測定されていた(重複あり)。IgG抗体価をペア血清で評価されていたのは5例であった。発症3日目に既にVZV-IgG抗体価が高値であった者が2例存在し、共に80代であった。

考 察
定期接種導入とほぼ時期を近くして開始された、24時間以上入院した水痘例の全数サーベイランス報告例の年齢分布については、全調査期間中では0~1歳が最多であったが、経時的に乳幼児例は減少し、相対的に成人の割合が増加していることが観察された(図2)。小児科定点把握疾患としての水痘報告数を見ても、2014年第45週頃から例年を下回り、2015年は過去10年間で最低となっている(http://www.niid.go.jp/niid/ja/10/2096-weeklygraph/1648-05varicella.html)。全体として、幼児を中心とする小児における水痘患者減少の理由としては、定期接種化による幼児での接種が促進され、この年代の感受性者が減少したことによる影響の可能性がまず考えられる。

次に、小児科定点には含まれず、今回、入院を要する水痘という形で初めて情報収集がなされた成人については、50歳以上が25%を占めたことは予想以上に高い割合であった。2014年度から、予防接種法に基づいて感染症流行予測調査事業で水痘の感受性調査が実施されており(http://www.niid.go.jp/niid/ja/y-graphs/5570-varicella-yosoku-serum2014.html)、50歳以上のVZV-IgG抗体保有率が90%以上であることも考えると、今後さらなる情報収集と分析が必要である。一般にVZV初感染においては発疹の出現から4日頃までにIgGが上昇するとされる1)。本報告において、80代で発症早期にVZV-IgG抗体価が高値であった2例はVZV既感染の可能性が考えられた。水痘の既往歴不明の高齢者の場合、臨床症状、VZV-IgM抗体2)、VZVあるいはVZV遺伝子の検出のみでは播種性帯状疱疹との鑑別は困難であり、VZVの初感染としての水痘と診断するためには発症早期のVZV-IgG陰性、およびペア血清での抗体陽転あるいは有意上昇の確認が診断の一助になると考えられた。

本報告においても重症合併症が複数みられており、今後の接種率向上による患者数ならびに重症例の減少が期待される。加えて、他疾患入院中の水痘発症が全報告例の10%以上に及んだことは注目される。院内で水痘患者が発生した場合、易感染性を有する他の入院患者への感染拡大の懸念や病棟閉鎖等への影響は大きく、その把握と対策は極めて重要である。

今後、水痘の定期接種化以後の、従来の小児科定点による水痘流行の監視に加え、入院を要した水痘患者の動向分析によって得られる水痘の疫学の変化を定期的に把握し、中長期的な対策に繋げていくことが重要である。

 
参考文献
  1. Plotkin SA, Varicella vaccine, Vaccine 6th Ed Philadelphia PA, 2013; pp837-869
  2. Dobec M, Serology and serum DNA detection in shingles, Swiss Med Weekly, 2008; 138: 47-51
 
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