(IDWR 2007年第19号掲載)
ネッタイシマカやヒトスジシマカなどのヤブカによって媒介されるチクングニアウイルスの感染症である。チクングニアウイルスはトガウイルス科アルファウイルス属のウイルスである。通常は非致死性の発疹性熱性疾患である。
疫 学
アジアでは1958年にタイで流行が報告された後、カンボジア、ベトナム、ラオス、ミャンマー、マレーシア、フィリピン、インドネシアで流行が報告されている。いままでに日本国内での感染、流行はないが、2006年12月に海外からの輸入症例2例が報告された。
<最近の流行>
2005年初頭にコモロ(Comoro)諸島で流行が発生した。その後、チクングニアウイルスはインド洋に位置 する他の島国(モーリシャス:Mauritius、レユニオン:Reunion、セーシェル:Seychelles、マヨット:Mayotte)などに拡 大し流行した。レユニオン島では、2005年の3月から2006年の2月までに15万人以上の患者が発生し、死者237人が報告された。この大流行の主要 な媒介蚊は、日本にも生息するヒトスジシマカであった。2006年にはインドやスリランカでも流行をみており、香港、アメリカ、フランス、スイスなどでも 輸入症例が報告されている。
病原体
チクングニアウイルスは、トガウイルス科アルファウイルス属に分類されるRNAウイルスで、蚊によって媒介されるウイルスである。
臨床症状
症状を示す患者の大多数 はチクングニア熱と呼ばれる急性熱性疾患の症状を呈する。発熱と関節痛は必発であり、発疹は8割程度に認められる。関節痛は四肢(遠位)に強く対称性で、 その頻度は手首、足首、指趾>膝>肘>肩の順であり、関節の炎症や腫脹を伴う場合もある。関節痛は急性症状が軽快した後も、数週間から数ヶ月にわたって続 く場合がある。その他の症状としては、全身倦怠・頭痛・筋肉痛・リンパ節腫脹である。また出血傾向(鼻出血や歯肉出血)、 結膜炎や悪心・嘔吐をきたすこともある。また、重症例では神経症状(脳症)や劇症肝炎が報告されている。
病原診断
治療・予防
通常のチクングニア熱の場合には、輸液や鎮痛解熱剤投与など対症療法を実施する。ただし、出血傾向を呈する場合もあるのでデング熱に準じて鎮痛解熱剤として出血傾向やアシドーシスを 助長するサリチル酸系のものは避け、アセトアミノフェンが望ましい。
予防に関しては、日中に蚊に刺されない工夫が重要である。具体的には、長袖・長ズボンの着用、昆虫忌避剤の使用などである。
感染症法における取り扱い(2012年7月更新)
全数報告対象(4類感染症)であり、診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届け出なければならない。
届出基準はこちら
(国立感染症研究所ウイルス第一部 第2室 高崎智彦)