国立感染症研究所

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<速報>重症熱性血小板減少症候群(SFTS)ウイルスの国内分布調査結果(第一報)

(掲載日 2013/8/29)

 

マダニ媒介性の重症熱性血小板減少症候群(SFTS)は、2013年1月に国内の患者が初めて確認され、遺伝子検査(RT-PCR)法によるSFTSの診断検査体制が全国的に整備された。その結果、2013年春(マダニの活動開始期)以降、28名のSFTS患者が確定されている(8月26日時点)。遡り調査の結果も含めると、2005年から現在までに計39名の患者が九州・四国・中国・近畿地方の13県(兵庫、島根、岡山、広島、山口、徳島、愛媛、高知、佐賀、長崎、熊本、宮崎及び鹿児島県)から報告されており、同地域にはSFTSウイルス(SFTSV)が分布していることが明らかである(http://www.niid.go.jp/niid/ja/sfts/3143-sfts.html)。

本病の発生が先に報告された中国では、SFTSVの主な媒介マダニはフタトゲチマダニとされ、また、ヤギ、ヒツジ、ウシ、イヌ等の動物がSFTSVの抗体を高率に保有している(すなわち、SFTSV感染歴がある)ことが報告されている。SFTSが流行している地域では、マダニとマダニに吸血される動物との間でSFTSVが循環・保持される仕組みが成立している。ヒトはSFTSVを有するマダニに咬まれることでSFTSに感染する。(なお、動物は感染しても発症しない。また、これまでに動物の血液等を介してSFTSVに感染し、SFTSに罹患した患者の報告はない)。日本国内には、命名されているものだけで47種のマダニが生息するとされるが、SFTSVを媒介するマダニの種類やその生息地域、SFTSVの保有率、動物との相互関係等、実態は明らかでない。SFTSVの国内分布状況を把握し、そのライフサイクルを明らかにすることは、患者発生のリスクを評価し、効果的な感染予防対策を立てる上で非常に重要である。

ヒトの患者血清からSFTSV遺伝子を検出する方法については既に確立され、診断検査に用いられているが、本年5月から開始された厚生労働科学研究「SFTSの制圧に向けた総合的研究(研究代表者 倉田毅)」において、マダニからのSFTSV遺伝子検出法及び動物のSFTSV抗体測定法が開発された。これらの新たに開発された検査法により、既に患者が発生している地域を中心に、一部、発生のない地域も含めて、これまでに入手できたマダニや動物血清の検体を用いて予備的調査を実施したところ、以下のことが明らかになった。

1)マダニについて中国、四国、近畿及び中部地方(9自治体)内のいくつかの地点について調査したところ、採取されたマダニ11種のうち、複数のマダニ種(フタトゲチマダニ、ヒゲナガチマダニ、オオトゲチマダニ、キチマダニ及びタカサゴキララマダニ)から、SFTSV遺伝子が検出された。また、これらのSFTSV保有マダニは、既に患者が確認されている地域(島根、山口、徳島、高知、兵庫県)だけではなく、患者が報告されていない地域(近畿:和歌山県、中部:福井、山梨、静岡県)においても確認された。

2)動物のSFTSV抗体保有状況について保存血清等を用いて調査した結果、シカでは、検体が得られた地域(19自治体)のうち、九州(福岡、熊本、宮崎、鹿児島県)、四国(愛媛県)、中国(島根、広島、山口県)、近畿(和歌山県)及び中部(長野県)地方でSFTSV抗体陽性動物が確認されたが、その他の地域(北海道、岩手、栃木、千葉、静岡、兵庫、徳島、高知、大分県)では陽性のシカは見つからなかった。イノシシでは、検体が得られた地域(15自治体)のうち、九州(熊本、鹿児島県)、四国(徳島、香川、愛媛、高知県)及び中国(広島県)地方で抗体陽性動物が確認されたが、その抗体陽性率は、シカの抗体陽性率に比較して低かった。また、その他の地域(千葉、長野、静岡、三重、兵庫、島根、大分、宮崎県)では抗体保有イノシシは見つからなかった。さらに、猟犬では、検体が得られた地域(16自治体)のうち、九州(熊本、宮崎、鹿児島県)、四国(香川、高知県)地方以外に、患者が報告されていない地域(近畿:三重県、中部:富山、岐阜県)でも抗体保有動物が存在した。一方、患者発生のある広島及び長崎県やその他の地域(新潟、長野、静岡、愛知、滋賀、沖縄県)では陽性の猟犬はみつからなかった。

以上のように、新たに開発された検査方法(マダニからのSFTSV遺伝子検出法及び動物のSFTSV抗体測定法)を用いて調査したところ、SFTSV保有マダニやSFTSV抗体陽性動物が、これまでに患者発生の報告があった地域以外でも確認されたことから、今後、さらに調査を行う必要が認められた。

今回の調査は、過去に他の感染症の調査のために収集されたマダニや動物血清検体なども含め、限られた期間内に、限られた地点において採取された検体について実施されており、地域ごとの検体数にもばらつきがあるなど、全国や各地域の実態を網羅的に反映したものではなく、得られた結果は暫定的なものである。今後、研究班としては、各自治体や関係者の協力を得ながら、対象地域や検体採取地点、動物の種類・頭数を広げて調査を実施することにより、マダニと動物におけるSFTSVのライフサイクルや各地域内におけるSFTSV保有マダニの分布様式・密度など、より詳細な実態解明を行っていきたい。

なお、今回の調査にあたって御協力をいただいた、大日本猟友会ならびに関係者の皆様に深謝申し上げます。

 

国立感染症研究所 獣医科学部  
     森川茂、宇田晶彦、加来義浩、木村昌伸、今岡浩一
同 ウイルス第一部  
     福士秀悦、吉河智城、谷英樹、下島昌幸、安藤秀二、西條政幸
同 昆虫医科学部  澤辺京子
同 細菌第一部  川端寛樹
同 動物管理室  新倉綾
山口大学共同獣医学部  前田健、高野愛
岐阜大学応用生物科学部  柳井徳磨
馬原アカリ研究所  藤田博己
福井大学医学部  高田伸弘

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